範囲魔法がたまたま世界規模だった少年、望まぬ悪魔認定を受けて国外追放される。~自分を最弱だと思い込む最強魔王は、今日も勘違いを繰り返す~

あざね

オープニング

プロローグ たまたま世界規模でした。








「ええい、この人間の皮を被った悪魔め! 貴様など、国外追放だ!!」

「待ってください! アレは絶対にボクじゃない!!」



 国王陛下は苛立ちながら、ボク――ユーリ・アーヴィルにそう宣告した。

 慌てて意義を申し立てるのだけど、陛下はこう続ける。



「しらばっくれても無駄だ! いま、この世界に起きている極端な気候変動は貴様のせいだという結論が出ている!!」

「だから、そんな大それた魔法じゃないんですよ!?」

「それならば、この惨状をどう説明する!!」



 そして、彼は窓の外を指さして怒鳴り散らした。

 大きく切り取られたそこから覗き見れたのは、激しい暴風雨によって蹂躙される城下町の様子。一部の河川は決壊して、至るところで洪水が発生しているようだった。

 人々は必死になって土嚢を運び、対策に追われている。



「貴様が降雨の魔法を使った途端、このような事態だ! そして次に快晴の魔法を使えば、今度は灼熱の日差しによって何もかもが蒸発してしまった!!」

「ぐ、ぐぬぬ……!」

「しかも、これは王都に限った話ではない! 貴様が『範囲魔法』を使ったことに呼応し、同様の被害が世界各地の町や村から報告されている!!」

「いや、でも……!」

「言い訳はもう聞かぬ!!」



 陛下はこちらの言い分に聞く耳を持たず、背を向けてしまった。

 すると同時に、兵士のみなさんがボクの身体を拘束する。必死に振り解いて弁明をしようと試みるのだが、もはや問答する暇はない、ということらしい。

 兵士の一人が思い切り、ボクの後頭部に一撃。

 その瞬間に、視界が一気に歪んで倒れ込んでしまった。



「この者はいかが致しましょう?」

「王都の外れにでも、捨てておけ! 今後、間違っても入国はさせるな!!」

「分かりました!!」



 曖昧な意識の中で、そんな会話だけが聞き取れる。

 だけど間もなくボクの意識は途切れ、闇へと落ちてしまうのだった。








 ――事の発端は、成人の儀でボクが『範囲魔法』の力を授かったこと。

 一般的にこの能力というのは、威力の低い魔法を広範囲に展開するものだった。しかしボクのそれは、妙なものだったらしい。

 というのも、効果範囲が『世界規模』だったのだ。

 最初こそ有益だと思われ、国王陛下から直々に水不足解決の依頼が飛び込んできた。だが実際に使ってみると、どういうわけか豪雨が世界各地で発生したのである。



 そこからだった。

 何もかも、歯車が狂い始めたのは。



「でも、ボクの魔法にそんな力があるわけないだろ……?」



 すっかり夜になった頃。

 ボクは王都から遠く離れた森の中、着の身着のまま放り出されていた。雨は上がっている様子だったが、まだ周囲の空気は湿っている。張り付くような空気感。それでも、時折に吹き抜ける風は心地よく思えた。しかしながら、いまそれに浸っている暇はない。



「……これから、どうしよう」



 王宮勤めの栄転かと思えば、悪魔認定されて国外追放。

 王都に入ることも許されないだろうし、完全に途方に暮れてしまっていた。元々が孤児だったこともあって、心配してくれる家族というものもいない。同時に、頼れる相手もいない。

 つまりは八方塞がりで、自然と大きく肩を落としてため息がでた。



「ここって、魔物が出るっていう森だよな……?」



 しかし、ここに長居しているわけにもいかない。

 何故ならこの森には、人を喰らう魔物が多く生息しているという噂があるからだ。今後の方針を決める以前に、まずは生きてここを脱出しなければならない。

 ボクはそう考えて、ゆっくりと立ち上がった。

 その時だ。



「げ……」



 背後から、唸るような獣の息遣いが聞こえたのは。

 背筋が凍る思いをしながら、ゆっくり振り返ると――。



「う、わ……!? アークウルフの群れ!?」



 そこには噂通り、人食い狼である魔物たちが群れを成していた。

 空腹状態なのだろうか。みな一様に赤い瞳をギラつかせ、こちらににじり寄ってくる。ボクはまた尻餅をついて、行動不能に陥った。

 そんな隙を相手が逃すわけがなく、アークウルフたちは一斉に飛びかかって――。




「『アイシクル・ランス』……!!」




 その瞬間だった。

 少女の声が聞こえたと思った直後、氷の槍が狼たちを貫いたのは。

 魔素に還っていく奴らを認めてから、ボクは少しビビりながらも声のした方へと振り返る。するとそこにいたのは、赤い瞳に銀色の髪をした女の子。

 赤のフードとマスクで表情を隠した彼女は、ボクを見て言うのだった。



「あぁ、ご無事で何よりです」




 ゆっくりと片膝をついて。




「我らが新しい『魔王様』」――と。



 

――

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範囲魔法がたまたま世界規模だった少年、望まぬ悪魔認定を受けて国外追放される。~自分を最弱だと思い込む最強魔王は、今日も勘違いを繰り返す~ あざね @sennami0406

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