透明色の彼岸花
屑井露天気雨
第1話
黒髪の女性があるマンションの屋上に立っていた。
???「…………あはは……!」
しばらくすると、救急車のサイレンの音が辺りを照らしていた。
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???「………」
???「やぁようこそ。独野黒花さん。」
黒花「……あなたは……?」
???「誰だと思う?」
黒花「……閻魔とか……?」
???「なるほど。もうここが既にこの世じゃないことに気づいているのか。」
黒花「……ここはどこですか?」
???「どこだと思う?」
黒花「……地獄とか……。」
???「へぇ。君は。自分が地獄行きになると想っているんだね。」
黒花「…………」
???「でもここはまだ地獄じゃない。
今から裁判を始めるよ。」
黒花「(やっぱり閻魔なんだ……)」
辺り一面透明の花弁の彼岸花が咲き誇り、周りは霞みがかっている。その中、「少女」の姿になった黒花に少しずつ白髪の閻魔が歩み寄った。
???「では。君の利き手じゃない方の手をよくみせて欲しいんだ。良いかな?」
黒花「…………」
黒花は、黙って利き手じゃない方の手を差し出した。
???「何故利き手じゃない方なのか気になるかい?」
黒花「…………」
???「利き手は持ち主の経験を多く吸収し、経験を持つ上で必要不可欠な存在。そんな存在を1番客観的にみているのが、こっちの手なんだよ。だから私たち神は必ず利き手じゃない方の手をみて裁判を行う。障害で手がない人は勝手で申し訳ないが本来ならあったであろう利き手と利き手じゃない方の手を生やして行う。私たちは被告人の人生に本人の意思に関係なく言ってしまえば土足で足を踏み入るという行為をしなくてはならない。だからほんの少しでも土足で踏み入ったのだからその被告人に沿った裁判を必ずしなくてはならないんだよ。」
黒花「…………」
???「…………なるほど。君は自分の意思でここに来たんだね。」
黒花「………………」
???「君は……「自分自身」をどうみてる?」
黒花「…………わたしは、何も持ってない。何も無い。人を好きになることもない。生きる上で必要な覚悟も何一つできなかった。」
???「…………」
黒花「わたしは空っぽですらない。空っぽってことは器が必要だから。私にはその器すらない。…………本当に何も無い。色も形状も匂いも音も温度も感情もない。何も無い。…………私はそんなものです。」
???「……そうか。……分かった。」
すると、白髪の閻魔は、近くにあったベンチのような椅子に腰をかけた。
???「君も座りなさい。」
そして、黒花も白髪の閻魔の隣に腰掛けた。
???「君にはどんな言葉をかけても、君の心には共鳴しないだろう。君は自分の命も自分自身にも憎んでいるのではなく、興味が無い。憎んでいた時もあっただろうが…………今の君はその感情すら抑え殺している。……このままでは君はずっと自分の地獄を味わい続けることになるだろう。君が楽になる方法を探してみないかい?」
黒花「別になんでもいいです。全てが」
???「そうか……。ではとりあえず裁判の結果を君に言い渡そう。」
そう言うと、雫は黒花の前に立った。
???「あの世に法律に倣って、君を裁く。まず、自分の意思であの世に来た者。つまり、自死した者は天国にも地獄にも行けない。そして生まれ変わることもない。この法律はあの世ができてからある。一度でも自死を選んだ者の魂はもうどんなものにも変えられない。天国、地獄で過ごすこともできない。これは天国、地獄で過ごしている者に何かしら影響を与える可能性があるためだ。」
黒花「じゃあもう……」
???「だからここで私が作った法律を執行する。」
黒花「…………?」
???「私が作った法律。それは「自ら命を絶った者、彼岸にて務みここに在ること命じる」この法律は、つまり、自死を選んだ者はあの世で働き、あの世で生活をするということ。」
黒花「あの世で生活……?」
???「そうだよ。君は何を想像していたのかな?」
黒花「…………別に何も……。」
???「……私はここで人間を沢山裁いた。君のように自死をした者もいれば、病死、虐待死、事故死、事件で亡くなった者もいた。どんな死因だろうと。どんな人生だろうと。みんなやはり何かしらの「救い」というものを求める。自分自身を楽にしたい。SNSでもよく見るだろう?「国に安楽死制度を導入するべき」とか。人間はとにかく楽になりたい。それは人間の持つ本能だ。……だから人間は面白いんだよ。」
黒花「………………」
???「黒花くん。君は自分自身を何も持ってないというが、「楽になりたい」という人間の本能があったからここにいるんじゃないか?自死をしたところで決して楽になれるとは限らない。
でも…………もう全てを投げ出して楽になりたい。そう望んだからここにいるんじゃないのかな?」
黒花「……わたしは…………」
???「ごめんね。責め立てるような言い方だったね。私は自死した者はこの世で自分の想い描く幸せ。それが何かは分からなくても望んだ幸せを手に入れられず絶望したままここに来たのだと想う。ならあの世でくらいそのこの世で見つけ手に入れられなかった幸せを手に入れて欲しいんだ。だから私はこの法律を制定した。…………今度こそ絶対に幸せになって欲しいから。……だからね。黒花くん。君にも私は幸せになって欲しい。君は自分は幸せになろうなんて望んじゃいけない。自分の想い。それがどんなものでも本来ならその想いを殺し続けなきゃいけないことを自分に想い知らせ続けなきゃいけない。そう想っているだろう?その考えをほんの少しづつ変えていって欲しいんだ。」
黒花「わたしはそれだけは絶対にしない。わたしは自分の魂がどうなろうと自分の想いを殺し続けなきゃいけないことを自分に言い続けて想い知らせ続けないといけないんです。」
???「…………君は本当にそれを望んでいるんだね。」
すると白髪の閻魔は、黒花の近くに寄り、そっと手を重ねた。
???「もう充分じゃないか。もう君は本当に充分すぎるくらい頑張ったんだよ。もう良いんじゃないか?」
黒花「ダメです。絶対に。」
???「…………そうか。」
しばらく沈黙が続いた。そして白髪の閻魔が口を開いた。
???「じゃあ願わせてくれないか?」
黒花「…………?」
???「君が自分を許せるように。君が君を幸せになって良いんだと想えるように。そう願ってるやつがここにいることを頭の片隅の方に追いやって置いておいてくれ。今はそれだけを君に求めるよ。」
黒花「…………」
???「では、改めて君を私の管轄の事務員にさせて貰って、働いて貰うことにするね。もちろん休日もあるし、お給料も出るよ。」
そう言うと、どこからか白髪の閻魔と同じような服を着た者が現れ、黒花を案内し始めた。
黒花「(わたしは絶対自分の想いを殺し続けることを自分に想い知らせ続けてやらないと。そんなことぐらいしかわたしは…………)
???「(あぁ。何故だろう。あの子をみてると…………泣きたくなってくる。自死を選んだ者を裁くのは初めてじゃないのに。)」
???「あっ。少し待って。」
黒花「…………?」
???「私の名前。私の名前は雫だ。」
黒花「雫……さん?」
???「これからよろしくね。黒花。」
そう言うと、雫は霞の中に消えていった。
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ばたん。どんどん。ひゅー。どばん。
銃声や切られる音。悲鳴が走る中、血をかぶりながら闘う者がいた。その者の目は漆黒で目に何も映っていない。その目は何も無い絶望そのものだった。
???「あと45体……倒せば……」
満身創痍になりながら、次々と現れる妖怪を倒していく。自分のなけなしの妖術を使いながら。
???「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
打撲、切り傷、刺され傷、銃痕、様々な傷が深く深く続きながらも休憩もせず倒していく。そんな姿を白髪の閻魔。雫は静かにみていた。
???「はぁ……全員倒せた……いやもっとだ……もっと……」
さらに激しく怪我を負いながら妖怪を倒していった。気がつくと闘った妖怪が山のように倒れていた。
雫「本当にやったんだね。」
振り返ると、雫がゆっくり近寄ってきた。
雫「君を弟子にすることを認めるよ。」
「黒花」
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「お前はここに来んな!」「お前気持ち悪い」「お前なんて死ねば良い」「さっさと家に帰ってママに甘えてろ」
「お前なんて……」
そんな暴言が飛び交っている。
でももう慣れてしまった。もう……俺は……
白髪の少年がそう心の中で呟きながら、いつも通り修行に取り掛かろうとしていた。すると、
???「はぁ……またか」
ロッカーの中にゴミが沢山入れられていた。そして、「死ね」「カス」「ゴミ」「とっとと帰れ」と書いてある紙も一緒に入っていた。
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???「…………」
今日も体中痣だらけ、親の仕送りのお弁当にも泥を入れられ、食べられなくなってしまったものもあった。自分が使っていた武器も破壊され、家族写真が入った携帯も壊された。
???「もう……消えたいな」
白髪の少年はいつも通りゴミを片付けて帰路に着いた。
何故白髪の少年がいじめられているか。それは白髪の少年の家はとても暖かい家庭で優しい両親に囲まれた生活を送っていた。通常、神様から生まれた者は親に神様としての修行をつけて貰う。しかし、他の神様に弟子入りした者はほぼ家庭環境が冷えきっている者が多く、親が修行を放棄するような家庭を持つ者がほとんどのため、白髪の少年のように暖かい家庭環境で過ごした者は疎まれやすいから。
《兎白、よく頑張ったな。偉いぞ。》《今日は兎白の大好きなご飯が沢山よ。》《兎白は本当に可愛いわね。》《無理しないでね。兎白。》
兎白「…………うぅ」
???「…………」
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次の日、兎白が1番恐れていたことが起こった。兎白のために奮発して両親が買ってくれた修行服に「カス」と落書きされたのだ。
兎白「……………………」
兎白の心はもう壊れかけていた。
その時、
「何だあいつ……」「おい、あいつに何かしたのか?」「いやあいつに何かするやつなんていないだろ」「一体どこの命知らずだ……」
外からがやがやと周りの弟子たちが騒いでいた。兎白も気になり、外に出てみるとそこには、兎白の修行服に書かれた落書きのように「クズ」と書かれた修行服を着た黒髪の少女が打ち込み台で修行をしていたのだ。
兎白「(あの人は……確か……そうだ……)」
「(独野黒花だ!)」
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独野黒花。彼女は、神様の弟子の界隈では知らない者はいない。雫の弟子にしてもらう為に、なけなしの使ったこともない妖術を使い1000体程の妖怪を倒し、その姿は漆黒でとても恐ろしく、どこか儚げな姿をしていることから
────「黒い彼岸花」と言われていた。
そんな彼女は、周りから恐れられていたため、彼女をいじめようなんて考える奴はよっぽどの馬鹿以外有り得ない。周りの弟子たちはそのよっぽどの馬鹿を探してるようだった。しかし、誰も知らないようで、黒花本人に聞きたいところだが聞けるような雰囲気なんて一切出しておらず、なんなら話しかけるなというオーラを出していたため、誰も聞けずに結局今回の修行は終わった。
しかし……
兎白「(彼女まで俺みたいな目に遭うのは絶対嫌だ。そのためにも彼女に聞き込みしないと。)」
夜になっても黒花はまだ打ち込み台で修行をしていたので、二人きりになれるチャンスは今しかないと想い。勇気を出して、兎白は黒花に声をかけた。
兎白「なぁ……その………黒花。聴きたいことがあるんだ。」
黒花「………何?」
まさか一言目で応答してくれるとは想っておらず、驚いた兎白だったが質問続ける決意をした。
兎白「お前。その修行服。誰にやられたんだ?」
黒花「………別に……」
それだけ言って雨花は、打ち込み台を持っていって兎白から離れてしまった。
兎白「おい。ちょっと待ってくれ。お願いだから誰にやられたのか教えてくれ!俺みたいな目に遭ってる奴は増やしたくないんだ!」
黒花「…………」
すると、黒花は振り返り、一言こう言った。
黒花「……これで独りじゃないでしょ?」
兎白「!」
それだけ言うと黒花は、夜の闇に消えていった。
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次の日、いつも通りロッカーにゴミが入ってると想い、目をつぶりながらロッカーを開けると、そこにゴミはなく、嫌な言葉が書かれた紙もなく、違う物があったとすると、そこには直った家族写真が入った携帯と壊された分だけ武器が置いてあった。
兎白「(……もしかして……!)」
外をみると黒花はいつも通り、独りでとても激しく激痛を伴うようなやり方で打ち込み台と格闘していた。昨日と同じように「クズ」と書かれた修行服を着て。
その日から、兎白をみると舌打ちはするものの暴力や暴言を吐かれることはほぼなくなった。
兎白「(………どうして俺を助けるんだ……?)」
今度こそちゃんと話すために、兎白は黒花の跡を付いていくことにした。しかし、何度尾行しても巻かれてしまい、二人で話すタイミングが掴めずにいた。
そして気づくともうすっかり夜になり、二日月が輝いていた。
???「どうかしたかい?」
兎白「!……あなたは!」
「雫さん!」
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雫「………そうか。黒花が……」
兎白「はい。俺の事を助けてくれてて……どうして助けてくれるのか聴きたいんですけど中々二人で話せなくて……」
雫「………その話の前にまず、君に謝らなければならないことがある。」
兎白「えっ……何ですか?……って……!」
すると雫は、兎白の前で土下座をした。
兎白「な、何ですか!?顔を上げて下さい!あなたに謝罪されることなんて何も無いです!」
雫「いや、ある。」
兎白「えっ……」
雫は頭を下げたまま話し出した。
雫「兎白。私は君がいじめられていることを知っていた。」
兎白「!」
雫「私はある理由によって君が受け続けているいじめを黙認していたんだ。」
兎白「ある理由……?」
雫「それは……黒花のそばにいて欲しいから……なんだ。」
兎白「そばにいて欲しい……?」
雫は、大きく呼吸した言い始めた。
雫「あの子が、何故あんな苦しいやり方で修行をするのか。それは…………私からは言えないが、このままでは黒花自身が、黒花の心が完全に壊れてしまう。……黒花は、絶対君を助けるだろうと想っていた。黒花は自分なりの方法で兎白を助けるだろうと。私が黙認したのは黒花が兎白を助け出して、黒花の力に君自身がなって、黒花のあの危なっかしい性格を少しでも柔らかくできるんじゃないかと考えたからなんだ。誰かがあの子の心に陽の光のような優しさを共鳴しなければ……あの子は……」
兎白「…………そうですか。」
雫「しかし、どんな理由があろうと自分の弟子が苦しんでいるのにそれを見て見ぬふりをした私は神としても師匠としても失格だ。本当にすまなかった。」
しばらくの間沈黙が続くと、兎白が話し出した。
兎白「………顔を上げて下さい。俺が嫌だったのは俺をいじめてきた奴らです。あなたじゃない。」
雫「……………」
兎白「俺はあなたに憧れてあなたの弟子になった。あなたの自死した者への制定した法律……人のために考えたその行動。その行為が堪らなくかっこいいと感じました。俺はあなたを尊敬しています。あなたの事を信じています。俺は信じたいものを信じて精進していきたいんです。あなたが俺を裏切っても、傷つけても、俺は勝手にあなたを信じたいので信じます。………それに黒花が助けてくれてますから。あなたは謝ってもくれましたし、もう大丈夫です。」
兎白は、嘘偽りなく本当の自分の気持ちを話した。すると……
雫「………何て……もったいない言葉。……君ならもしかしたら……いや何でもない。本当にありがとう。」
兎白「……笑」
雫「君の笑顔。久しぶりにみれて良かった。」
兎白「そ、そうですか?あっその話はもう解決したので大丈夫なんですが……黒花とどうにかして話ができませんか?」
雫「…………次の新月の日の夜の9時からいつも修行している場所で待っていてくれないかい?その日だけは必ず彼女は外で修行をするはずだから。」
兎白「えっ何でですか?」
雫が二日月を見上げながら話し始めた。
雫「新月は、月が隠れ辺り一面真っ暗闇だ。彼女はその闇に溶け込んで現れる。真っ暗闇を利用してさらに激しい修行をするつもりなんだろう。」
「外の方が修行もやりやすいだろうし……」と雫が付け加え、こう言った。
雫「どうか……黒花に付いてやってくれ。本人が拒否しても。せめて黒花が神様になるまで。せめてと言ったけどかなり長い期間になるが、黒花のそばにいてやって欲しい。……それで少しでも変わってくれれば良いが……」
兎白「……分かりました。」
兎白は、必ず黒花の心の声を聴き出してみせると決意した。
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兎白「いるんだろう?出てきてくれ。黒花。」
辺りがシーンと静まり返る。周りが真っ暗闇だが、兎白の成績は、雫の弟子の中で1番上。気配にもとても敏感だ。
兎白「お前と話がしたいんだ。お願いだから出てきてくれ。」
シーン。
兎白「出てきてくれたら、俺がお前の相手をしてやる。いつも独りでやってるから、生身の奴とやることでさらに力を向上できるんじゃないか?」
???「…………はぁ。ずるいこと言うね。」
兎白「!」
目の前には、全身痣や傷まみれの黒髪の少女。────独野黒花がいた。
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兎白「やることは3つだ。1つ目はまず単純な打ち込みからやろう。それを4時間休憩無しで。」
雫の弟子は、武器として銃も収納されている傘を使う。弟子の間はみな透明のレンタルの傘を使って修行に励む。兎白も黒花も傘を持ち出して、向き合った。
兎白「これからやる3つの修行の内俺が勝ったら勝った分だけ俺の質問に答えてもらう。修行に付き合ってやるんだからそれくらいあったって良いだろ?」
黒花「…………初めからそれが狙いだったんでしょ?……別に良いよ。ここで断ったらわたしは自ら修行をやめたことになる。それは絶対ダメ。」
兎白「じゃあ始めるぞ。」
よーいスタート。
そう兎白が言った瞬間、既に兎白は宙に弾き飛ばされていた。
兎白「うっ……手加減無しか。今ので俺の腕が骨折したぞ……」
黒花「手加減してたら修行にならない。」
それからずっと、兎白は宙に浮いたり、地面に激突したり、溝内を抉られたり、横から思いっきり殴られたり、それが4時間ずっと続いた。
兎白「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
黒花「…………」
成績は兎白が1番だが、兎白の場合、女の子相手のためどうしても手を抜いてしまうのと、瞬発力や体の柔らかさも打ち込みには必要でそれが黒花はずば抜けて強い。
黒花「話にならない。これじゃあ修行にならない。」
兎白「はぁ……はぁ……お前今までどれだけの修行をして来たんだ………。雫さんの教えた修行内容よりさらに激しい修行をやってるだろ。」
黒花「…………次の修行をしよう。」
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兎白「次は妖術を使った修行だ。それをまた4時間。確かお前は妖術が苦手だったよな?」
黒花「……そうだよ。」
兎白「(俺に少し勝算が傾いたかもしれない……ここで勝たないとあとは黒花が最も得意な神通力で闘うことになる。そうなったら……もう黒花に何も聴けなくなる……!)」
妖術と神通力の違いは、妖術は分身や幻。そして一軒家を燃やしたり水浸しにできる程の火力と水量を出せたり、肺活量、筋肉量、視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚などその人自身が持っている感覚を研ぎ澄まさることが出来る。また、魂の一部分に負荷がかかるため、ある意味神通力の方が利便性はある。しかし、神通力はあまりにも壮大で、天気や時、地盤、世界線など幅広いものを自由に操作できる。また、魂全体に負荷がかかるため、そう簡単にエンジン切れは起きない。しかし、使いすぎると要注意で、神通力を使いすぎると「神堕ち」をしてしまい、「神堕ち」をしたものは魂を破壊するしか対処法がないと言われている。
よーいスタート。
兎白はまず分身を作り、炎をその分作り出し、黒花にぶつけようとした。……しかし、
兎白「何!?」
炎をぶつけたのは黒花が作り出した幻で、その炎は無駄打ちとなり、筋肉量を増やした黒花が後ろから迫っていた。
兎白「くっ……はっ!」
それを何とか躱したが、黒花の拳が掠ったところから流血していた。
兎白「何が「そうだよ。」だよ!!めちゃくちゃ強いじゃないか!!」
黒花「…………」
兎白が炎を作り出すと、嵐のような雨を降らし、水を作り出すと、信じられないほどの炎で蒸発され、分身を作ると、片っ端から殴り飛ばされ、幻もすぐ見抜かれ、他も全て惨敗となった。そして……
兎白「はぁ……はぁ……4じ……かん………経過……勝者…………独野黒花……はぁ……はぁ……」
黒花「…………」
さすがに黒花も少し息を乱していていたが、勝者は、黒花だった。
兎白「(くそっ次は黒花の1番得意の神通力だ……勝算は限りなく低い……)」
黒花「…………ねぇ」
兎白「!……何だ?」
黒花が珍しく声をかけてきた。
黒花「……何をそんなに必死になって聞きたいの?……わたしに……どうして欲しいの?」
兎白「…………それは俺が勝ったら応えてやる。」
黒花「……まだ諦めてないんだね。」
兎白「俺は約束したんだ。絶対にお前に勝つ!」
よーいスタート
兎白はまず辺りを曇りにして黒花から少しでも離れることにした。
兎白「黒花にもある程度分からないように作ったが……黒花がどこにいるのか気配すら感じない……!かなりまずいぞ……」
兎白は、神経を研ぎ澄まし、黒花を探した。……しかし、どこにも黒花の気配を感じなかった。
兎白「どこにいるんだ……ん!?」
すると曇っていた雲が徐々に黒花になり、兎白の後ろに既に立っていた。
黒花「…………ありがとう」
黒花の傘がもう既に首を切ろうとしていた……しかし、
兎白「し、雫……さん……」
黒花「!」
この瞬間、黒花の傘が一瞬止まった。兎白はその瞬間を逃さず、黒花の傘を握り止め、自分の傘を黒花の首に当てることができたのだった。
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兎白「はぁ……こんだけやってたったの1回しか質問できないのか……」
黒花「…………はぁ……ダメだ。私」
兎白「?」
黒花は虚ろな目で下を向いていた。
黒花「お師匠様の名前を聴いただけで、昔を想い出して、刃を止めるだなんて……もっと激しく辛い修行にしていかないと……」
兎白「なぁ……黒花。雫さんは俺に言ったんだ。「黒花の危なかっしい性格を少しでも柔らかくしたい」って。そういう危ない修行は止めた方g……」
兎白がそういうと、兎白の顔スレスレで黒花の傘が飛んで行った。
黒花「そんな言葉。二度と言わないで。私が貰って良いような言葉じゃない。」
兎白「!……分かった。じゃあ約束通り1つ質問するぞ。」
この時、黒花は「どうしていじめを止めたんだ?」「何故そんな激しく修行をするんだ?」と聞かれると想っていた。しかし、兎白が聴いたのは意外なことだった。
兎白「どうしてお前は、自分の修行服にわざわざ「クズ」という言葉を選んで書いたんだ?」
黒花「……えっ」
兎白は、真っ直ぐ透き通った目で黒花を見つめていた。
兎白「悪口なら例えば「ゴミ」とか「バカ」とか色々あるだろ?どうしてわざわざ「クズ」という言葉を選んだんだ?」
黒花「…………」
黒花は、目を逸らしたまま兎白の方を向いた。
黒花「あなたは、「命」についてはどう想う?」
兎白「……は?」
急に変化球を投げられたような気持ちになり、頭を傾げた。
兎白「命?何でそんなこと聴くんだ?」
黒花「あなたの質問に応えるために必要なの。早く応えて。」
兎白は少し考え、話し始めた。
兎白「俺にとって「命」っていうのは優しくもあって残酷でもあると想う。「命」が生まれれば、同時に人は喜びもすれば、その「命」が生まれたことで苦しむ人もいると想う。だってその「命」を持つ者が誰かを傷つけたら、苦しむ人もいるだろ?でも苦しむ人がいるように喜んで楽しんで幸せになってくれる人も確かに存在する。だから俺にとって命は、優しさと残酷さを持ったどっちつかずな存在だよ。」
黒花「…………そう。」
黒花はしばらく黙っていたが、口を開き始めた。
黒花「……私にとって「命」なんてものは何にもない。意味も価値も何も持ってない。……あなたはまるで「命」にとても大きな意味があるように言うんだね。「優しさ」とか「残酷さ」とかそういう美しい意味が。」
兎白「…………」
黒花は引き続き話していく。
黒花「「命」はただ底に産まれ落ちただけ。そのことに意味も価値もない。何も見い出すこともできない。親が勝手に産みたいって想ったエゴで産まれ落ちただけ。ただそれだけだよ。…………でも、あなたみたいな考え方の方がよっぽどまともで優しい。その考え方を持てばきっと救われる人もいるかもしれない。」
黒花は、どこをみるでもなく光も影もない目で話していた。その目は、「何にもない」を表すそんな目だった。
黒花「私はね。こんな考え方で今まで過ごしてきた。これからもそう。生きる上で必要な覚悟もできず、貰った言葉を都合よく捻じ曲げ、近づいてきたものを容赦なく傷つけ続けてる。こんなやつにお似合いな言葉は、「クズ」……あなたの質問の答えは空っぽでもなく本当に「何もない」ものだよ。」
そうまるで独り言かのように兎白に話した。
兎白「(あぁ……黒花は………きっと自分を…………)」
《誰かがあの子の心に陽の光のような優しさを共鳴しなければ……あの子は……》
兎白「(雫さんはきっと分かってたんだ。黒花がどうしてこんなに苦しい方法で修行をし続けているのか……。俺なんかがそばにいて解決なんてできないかもしれない。でも………黒花にとって何ができるか。一生懸命考えていこう。)」
闇夜が二人をひたすら包みながら、黒花はいつの間にか消え、兎白は夜が明けるのをじっとみていた。
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???「ねぇねぇ黒花が、昔「黒い彼岸花」って言われてたのって本当ですか?」
修行の休憩中、瑠璃色の髪を持った少年が白髪の少年────兎白に質問していた。
兎白「ん?そうだな。確かに言われていた。……まぁ本人はそれを「黒歴史だ!嫌だ!」って嘆いていたが……ていうかそんな昔話誰から聞いたんだ?瑠璃人?」
すると瑠璃色の髪を持つ少年───瑠璃人が目を輝かせて応えた。
瑠璃人「いや神様見習いだったら知らない奴はいませんよ!だって「黒い彼岸花」ってめちゃめちゃの数の妖怪を倒して、さらに神通力も妖術も使わず、当時兎白さんのこといじめてた神様見習いを1分も掛からずにねじ伏せためっちゃクールな感じでめっちゃかっこいいじゃないですか!!」
???「そんな良いものじゃないよ。」
兎白・瑠璃人「あっ」
二人の元に黒髪の少女────独野黒花が近づいてきた。
瑠璃人「なぁ黒花!お前昔「黒い彼岸花」って言われてたんだろ?」
黒花「あ〜……もう良いじゃんその話。何度も応えてるでしょ?一応そう言われてたって。」
瑠璃人「だって信じられないだもんよ〜。お前があんなクールな……何というか虚ろ?な感じだったなんて!何かきっかけでもあったのか?」
兎白「あぁ。それは黄泉比良坂にある保育園のある子供と接していくうちに泣いて、それから徐々に明るく……」
黒花「ん"ん"ん"ん"?」
兎白「あっすまん。」
瑠璃人「えっ何!今の話!気になる!!」
黒花「はい!この話は次の休憩の時!終了!」
兎白「分かった。…………そろそろ修行始めるか。」
瑠璃人「えぇ〜もう始めるんですか?もう少し……」
兎白「そろそろ修行を再開しても良いくらいだろ?もう10分休んでるし。」
瑠璃人「いやいや!4時間ぶっ続けで修行してるんすから割に合ってないすっよ!!……もう本当に兎白さんスパルタなんだから……まぁやりますか!」
瑠璃人は、気合いの入った顔で修行に取り組み、兎白と黒花も修行に戻って行った。────沢山着回した「カス」と「クズ」の跡が付いた修行服を着て。
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???「はぁーー!疲れたよ〜!!」
???「全くあなたは閻魔であって神なんですからもっと厳かな振る舞いを心がけて下さい!」
???「はいはいー。すみません……笑」
???「全くもう。黒花さん……いえ。雨花さんは雫さんを少しは見習って下さい!」
そう言われると、黒髪と……紫色の髪を持った少女────「紫雲雨花」は優しく微笑んだ。
雨花「そうだね。橙ちゃん。お師匠様を見習います!」
そう言いながら雨花はビシッと敬礼のフリをして……橙と言われた少女と朗らかに笑いあった。
ここからはキャラ設定です。(今回、橙と瑠璃人は登場シーンが短いためカットしてます。すみません。)
自死した者があの世に来る際は人生の中で最も辛かった時の姿でやって来る。雨花の場合、本当に辛かった時期は15歳~のため、あの世に来た際は少女の姿となる。
キャラ設定
紫雲雨花・独野黒花(しぐもあめか・どくのくろか)
雫の管轄で働いていた事務員だったが、雫に弟子入りし、神通力と妖術を制覇するために修行を重ね、雫の跡を継ぎ閻魔大王になった。
基本的に穏やかで、よくふざけたり、ギャグを話したりなどお調子者の一面がある。しかし、裁判を行う際に、被告の過去や境遇を聴いて泣いてしまうといった感受性の高いところもある。(裁判中は泣かないが、少し涙目になっている)しかし、裁判には私情を持ち込めないので裁判中は厳かな雰囲気を出している。(本人は真剣だが、全然できてない)(とても暖かく同情深い目になってしまっているため、被告人の心を全てとは言わずとも救済していることもなきにしもあらず)。橙にはもっと閻魔大王としてもっと厳正な神様になって欲しいと愚痴られている。しかし、閻魔大王としての仕事はしっかりおこなっており、(たまにサボって橙に鉄拳を食らっているが)雫曰く、人の心の機微にとても敏感で、その人が何を考えているか、神通力や妖術を使わずともある程度察することができる。(なお、本人の自覚はない模様)事実、家族を皆殺しにされ、その人を恨みの末、殺してしまったなど本人がどうしようもない理由などで罪を犯してしまった亡者を、地獄で獄卒として働くことで罪を流し、自分の大切な人と一緒に暮らすようにするなど(雨花が考えたあの世の新しい法律)と言った方法を考えるなど閻魔大王として亡者と出来るだけ亡者の考え方や性格に沿った裁判を心がけている、いや心がけたいと思っている。
━━━━━元々雨花は、独野黒花という人間の女子だった。自分の命を軽んじてる部分があり、雫曰く「とても危なかっしい性格」だそう。果たして過去に何があったのか……
容姿→
身長:154センチ 体重:49.4キロ
お尻よりもちょい下まである長髪で顎ぐらいの長さの姫カットで黒髪。また、インナーカラーは濃い紫で、完璧なストレートヘアである。(人間時代はインナーカラーはなく、黒髪のみ。神様になった際、神通力を得た影響で色が変わった模様)目は完璧な一重で、少し目尻がシュッとしている。色は、漆黒。まつ毛の長さは普通。スタイルは良くも悪くもない。また、耳に大量のピアスをつけており、右腕から胸にかけて雫柄とバツ印の黒色のタトゥーが大量に入っている。
服装は、いわゆる地雷系、サブカル地雷系やサブカルパンク系などを着ているが、裁判などの勤務中は黒と濃い紫が基調とした袴を着ている。
誕生日→2006年11月9日(自分なんかが産まれた日なんて全く祝われたくなく、寧ろどうにかして絶対自分を戒めて欲しいと想いやすい日である。)
兎白(とはく)
雨花とは雫に弟子入りしたタイミングがほぼ同じで、同期である。雨花には「女で、しかも人間なのに弟子入りなんてすげぇ」と思っている。(神様に弟子入り、つまり、神様見習いになる者は大半が男性であり、雫の弟子で女の子は雨花が初めてだった)
兎白は、とても暖かい家庭で過ごして、優しい両親に包まれ生活していたが、兎白が雫に弟子入りしてしばらくした後、周りからいじめられようになり、(神様見習いになる者は大体が家庭環境が荒れている者が多く、(人間から神様になるのは本当に稀なケースで大体は神様から生まれた者が神様となる。通常は神様から生まれた者はその神様である親から神様としての修行を行ってもらうが、雫など他の神様に弟子入りする者は親が神様でも修行を行ってくれない者がほとんどという家庭環境が冷えきったものが多いため)そして、兎白のような家庭で育った者は疎まれやすかった。)(兎白が何故雫に弟子入りしたか。それは自殺した者がこの世やあの世で浮遊霊や地縛霊として過ごしていたり、自殺していなかった場合、天国行きだった者が、他人を呪い、場合によっては魂を消滅せざるおえないという状況を変えるため、あの世で暮らすという法律を制定するという人のことを一生懸命考えた行動に神様としてとても尊敬したから。)必死で修行に取り組んでいる中でも陰口を言われ続け、それまでは明るく、天真爛漫だった性格が中々笑えない表情の乏しい周りを信じられない性格になってしまった。ある日、兎白の両親が買ってくれた修行服に「カス」と落書きされ、完全に心を閉ざしてしまったが、同じく修行を受けていた雨花が自身の修行服に「クズ」と書き込み、周りが驚き兎白が雨花に誰かにいじめられたのかと聴くと、「これで独りじゃないでしょ?」と返し、兎白は雨花の危ない性格を心配するようになった。(なお、何故雫がこのいじめを止めなかったか。それは雨花が兎白を助けることで兎白が雨花の危なっかしい性格を止めてくれるのではないかと考え、悲痛の末に考え抜き、いじめを黙認していた。兎白には本当に申し訳ないと想っている。)雫の弟子の中では成績は最も優秀だった。(ちなみに、雨花は二番目だった。しかも、周りの男性の弟子と同じメニューの修行で。そして神通力の総合的な強さは雨花が1番。)
容姿→身長:184センチ 体重:70.4キロ
とてもイケメン。(本人は自覚してない模様)髪は耳にかかる程度の長さで白髪で、一本桃色のメッシュがある。初期は白髪のみだったが、桃時と付き合うようになってから髪の一部が桃色に変化した模様。
目は右が紫で左が桃色のオッドアイで、大きくぱっちり二重。スタイルがすごくいい。
服装はダボッとした浴衣などを着ているが、勤務中は青が基調となった大正時代のような軍服を着用している。
誕生日→ 6月9日
雫→ 雨花、兎白、瑠璃人の師匠で、あの世を代表する神様の1人。
非常に温厚な人柄で、同情深い優しい心を持つ神様で、元閻魔大王。雨花や橙、桃時、兎白、瑠璃人が心から尊敬する神様である。絶対その人の考え方や性格を否定せず、間違った行いをした者にもなぜそれが悪いことなのかを声を荒上がることなく丁寧に教えるなど、通常の人間なら到底真似できないような行動を取ることができる。
容姿→
身長:??? 体重:???(なぜか測定しようとするとアクシデントが起きて測定不可になる。)
絹のような美しい白髪の長髪で、肌も目もまつ毛も何もかも白い。着物も白く神聖な雰囲気を持つ。いつも裸足。
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