穂浪泰介の始末書「任務中の単独行動につきまして、皆様に多大なるご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます」
渚オリ
解雇編
1 牧下と佐伯
幹部会議の始まる5分前。会議室には続々と東京支部の幹部たちが集結していた。
幹部と一口に言っても、各部署の部長や相談役、執行役員など、役職は様々だ。幹部の共通点といえば、性別が男であり、現場に出て行かないことくらいだ。
並列型に並べられた座席に、幹部たちがずらりと着席している。それに対面する形で前方の席に着いているのは、一輪の百合の花のように美しく凛とした女性。彼女こそ、地球外生命体専門対策局東京支部の総司令官だ。
「いかがでした、彼は?」
そう尋ねながら隣の席に腰掛けた
「やはりダメでしたか」
佐伯は残念そうに言いながらも、ハハハ、と笑い飛ばす。
「良い人材だと思ったんですけどね。暫くはあなたで我慢します」
「ひどい言い種ですね。結構大変なんですよ? パイロットと総司令秘書の両立」
「あなたが胃が痛いとうるさいから、秘書を増やしてあげようと思ったのですよ」
「それはそれは。お心遣い感謝します」
「フラれましたけどね」
「でも、諦めてないんでしょう?」
「時間を置いてまた声を掛けてみるつもりですが……たぶん無謀ですね」
「なぜです?」
「愛の力は偉大ということです」
「……何の話ですか?」
「で。アレはちゃんと手配してくれました?」
「あぁ、はいはい。勿論です」
佐伯は懐から封筒を取り出すと、机に置き、スッと牧下の手前に差し出した。
「こちら原本のデータです。印刷したものを全員の会議資料の中に紛れ込ませました」
佐伯に言われて、牧下は手元の会議資料をパラパラと捲った。1枚だけ紙質の違うページを見つけ、ふと手を止める。それは、目覚えのある名前が羅列された名簿だった。記載されている人名にざっと目を通した後、牧下はパタンと資料を閉じる。
「下がっていいわよ」
牧下が短く告げると、佐伯はスクッと立ち上がり、背筋を伸ばして一礼した。颯爽と去って行く佐伯を、入れ違いに会議室に入って来た総司令部相談役の
「佐伯くん、何か用だったのかい?」
さっきまで佐伯が座っていた椅子に、今瀬がよっこらせと腰掛け、牧下に気安く話しかけた。
「いえ。ただの業務連絡です」
牧下は何気なく返答しながら、机の封筒をさっと懐にしまう。腕時計を見下ろすと、時刻は会議開始予定時間を3分ほど過ぎていたが、今瀬が到着したことで幹部全員が揃った。
牧下がスッと背筋を伸ばす。それはほんの僅かな変化だったのに、ざわざわとしていた会議室内がシンと静まり返った。そして、牧下は凛とした声で告げる。
「これより、幹部会議を始める」
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