リョウには姉がいた

———舞台は仮想の戦国世界。


 当時の世界はバニラという。

 リョウの職業は美人薬師くすしである。彼女は脳筋だったので脳筋薬師ともいえる。

 薬師の仕事はパーティメンバーの生命を保全することだ。特に蘇生という秘技があって、死んだメンバーを生き返らせることができる。なので、薬師はパーティに不可欠で、とても人気者だった。


 ところでだが、リョウには顔のよく似た姉がいた。名はアヤといい、職業はくノ一だった。そもそも、アヤが最初にこの世界に生まれたが、可哀想に若くして封印されてしまった。

 アヤはリョウ以上にひどい脳筋だったが、多分それが原因である。

 きっかけは仲良しのリナからのチャットだった。リナは初期の壁を一緒に乗り越えた大親友だ。

 そのリナから戦闘中にぐさりと言われたのだ。

「アヤさんの戦闘、全然だめじゃん」


 リナはカワイイ系の女薬師だが、すでに他職の戦闘技術にも通じていたようだ。もしかしたら、廃人とか準廃と呼ばれる人だったのかもしれない。

 彼女が言うには、要するにアヤの叩く(攻撃する)相手が違うのだ。つまり倒す順番が間違っている。くノ一はアタッカーなので、これがきちんとできていないと、パーティの戦闘効率が著しく落ちる。

 アヤは、一応誰を叩くかは把握していた。だが、漫然と攻撃を行うだけだった。実際には(ヘイトを吸われて)意図と違う相手を叩いていたが、あまり気にしていなかった。パーティメンバーでそれを気にしないのは、本人だけだったのかもしれない。

 多分リナは苛々いらいらしながら、あるいはハラハラしながらアヤを見ていたのだと思う。


 この世界にはレベルという概念があり、その頃のアヤは二〇過ぎだった。ちなみに上限は五〇である。

 レベル二〇ともなれば誰もが戦闘に目覚め、自らの能力値や立ち回りに気を遣う。脳筋というと破壊力だけはありそうなイメージだが、アヤの場合は攻撃力もしょぼかった。つまりは、立ち回りも破壊力もダメダメだったのだ。

 この世界ではそのようなアタッカーはハズレとかゴミと呼ばれ、真っ先にハブられる。最悪の場合、晒スレなどという荒み切った場所でおとしめられる恐れすらあった。

 きっとリナは心配して直言してくれたのだ。


 彼女からの忠告を受け、筆者は悩んだ。なぜなら、アヤがゴミアタッカーなのは百パーセント筆者の責任だからだ。そんなアヤの末路も大体想像がついた。

 しかし脳筋は筆者の天性の資質であり、直しようがない。また、攻撃力アップの努力にかける時間もなかった。

 困った筆者は、短絡的な決断をした。アヤを捨てることにしたのだ。その結果、リョウがこの世界に降り立つことになったのだが‥‥‥

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