ガゥジーラ排撃奮闘帖
東雲未だき
第一章 自衛隊 対 ガゥジーラ
「アンギャー!」
ドーン! ズドーン!
ダダダダダ!
ズガーン! ズガーン!
ドッカーン!
バリバリバリバリ!
「アンギャオーアー!」
ドッガーン!
ズガガガーン!
「撃て! 撃てーっ!」
ダダダダダ!
(3回くりかえし)
大怪獣ガゥジーラ対自衛隊の壮絶な戦い。
轟音を響かせて、戦闘機が空から、戦車や武装歩兵が陸上から、ガゥジーラを間髪を入れず攻撃する。
爆発の度に空気が激しく震え、衝撃と巨体の暴れる震動で絶え間なく大地が揺れる。
現代の最先端武器による砲撃の連続猛攻。
それでも強靭なガゥジーラの皮膚は傷ひとつ付かない。
「とりあえず足止めだけでも」と願う人類のささやかな望みさえも嘲笑うかのように、ひたすら重低音の足音を響かせながらガゥジーラはゆっくりと進む。
機関銃やミサイルが息をする時間さえ惜しんで次々に放たれては命中するが、頑強な怪獣は一切のダメージを受けない。
ビルディングとビルディングの隙間、兵隊が移動する路地裏から垣間見えるガゥジーラの姿は、一見何が動いているのか理解が出来ないほどに大きい。
悪夢を見ている感覚。
しかし眼前の惨状は決して悪夢などではない。
悪夢ならどれだけ救われるだろうか。
狂暴な怪獣は恐怖の行進を続け、決して休むことはない。
ガゥジーラが大地を踏む毎に繰り出される絶望の震動。
恐怖に負けたのか、地震のせいなのか、三名ほどの兵士がその場にしゃがみ込む。
離れた家屋でさえ咆哮の衝撃波と地鳴りの共鳴で崩れ落ちる。
火災で一体が焼け焦げるにおいと、怪獣から放たれる生臭さと硫黄質の臭気が鼻を突き目を刺す。
若い兵士の一人が機銃を連射しながら煤けた袖で両目の涙を拭っているのはその臭気のせいだろうか。
コンクリートの建物を叩き壊し、張り巡る電線を火花と共に引き千切り、アスファルト舗装の道路を踏み潰し、地の果てにまで届きそうな恐ろしい鳴き声を時折発して人間どもを追い払い、こともあろうか大都会・東京に向かってガゥジーラは進み続ける。
「アンギャギャー!」
ズドーン!
ダダダダダ!
ドッカーン!
バリバリバリバリ!
「アンギャー!」
ズガガガーン!
「撃て! 撃てーっ!」
ダダダダダ!
対策本部では苦渋の決断が下る。
「こんな事もあろうかと、かねてから開発していた、あの新兵器を使う時が来たようじゃ!」
「
「ガゥジーラを倒すためじゃ。やむを得ん、原田総理」
「・・・分かりました、許可しましょう芹博士。前線部隊に緊急連絡!」
「隊長! 対策本部から緊急連絡が入りました!」
「前線部隊です・・・はい・・・了解しました! ・・・総員、電磁重力波レーザー発射準備!」
ウイン・・・ ウイン・・・
レーダー追跡装置が可動し、大怪獣に照準を合わせる。
「隊長! 攻撃準備が整いました!」
「いつでも発射可能です!」
「うむ! 電磁重力波レーザー発射用意!」
電磁重力波攻撃車輌の銃座兵士が構える。
「発射用意よし!」
隊長が命令する。
「射て!」
ポワワワワン・・・ ポワンポワン・・・
シュルルンシュルルン
カッ!
ズビビビビビビビビビ!
淡い水色をした稲妻状の電磁重力波レーザーが身長60メートルの大怪獣ガゥジーラの胸部に命中する!
「アンギャワーッ!」
一瞬、ガゥジーラの骨が透けて見えたかのような錯覚に捕らわれる。
それでもレーザーは続けて照射され続ける。
ビビビビビビ!
「アンギャーワーッ!」
と、その時、目の前にいる兵隊たち、モニター越しに凝視する対策本部、或いはテレビ越しに観る日本国民たちの見ている
ガゥジーラの足元、ひび割れたアスファルト製の道路がグニャグニャと溶けた飴状に歪んだのだ。
それが次第に真っ黒な蟻地獄状に渦を巻き、まさしく底無し沼に飲まれるかの如くガゥジーラを喰らい沈み込み始めた!
雷が周囲に轟いては落ち、地響きで大地が揺れる。
もがき苦しむ大怪獣が誰もの目に映るが、数十のバパバパバパ!と細かな光点の瞬き直後、眩いひとつの大きな閃光がビガッ!と走る。
歩兵や戦車内の兵士が腕をかざし目に刺さるような光を遮る。
次の瞬間!
不思議なことに、ガゥジーラの姿がその場から完全に消滅してしまった。
しかも怪獣が飲まれたとおぼしき大きな穴も綺麗に消え去り、あとにはひび割れだけの片側三車線の道路が何事も無かったかの如く佇んでいるだけだ。
前線の兵隊たちが神経質にキョロキョロと辺りを見回している。
ガゥジーラの咆哮も、自衛隊の砲撃音も、民衆の逃げ惑う悲鳴も、すべてが静まり返る。
静寂すぎて耳鳴りがする。
年配の兵士が耳がおかしくなったのかと頭を小さく振って右耳を叩いている。
全世界が注目する中、大怪獣は始めから居なかったと思えるほどに掻き消えてしまったのである。
十数秒後、廃墟の街に風が戻ってくる。
砂埃に混じり小さな瓦礫が無数、風に飛ばされる。
空き缶がカラカラと転がり、道端に取り残された片足の子ども靴にコツンと当たる。
飛んできた新聞紙の切れっ端が傾いた看板にカサカサ引っ掛かる。
読み解ける大見出しは【大怪獣ガゥジーラ現る!!】、【人類最大の危機!!】。
対策本部の沈黙を破り、原田総理大臣が口を開く。
「・・・防衛大臣、一体何が起きたんだ?」
「総理、私にも分かりません・・・」
前線基地では異常事態に即対応。
各国の人工衛星を駆使した最新式レーダー群がガゥジーラの姿を追う。
・・・だが。
「隊長! ガゥジーラがレーダーから消えました!」
「捜索範囲を拡げろッ!」
「拡げましたが、日本から、いえ、この地球から、地上、地下、海、空、この世界から、奴は消滅したようです!」
「そんな馬鹿なことがあるかッ!」
「し、しかし、まぎれもない事実です!」
避難していた一般市民が互いに顔を見合わせ、この不可思議な現象に困惑する。
しかし徐々に事態を理解してくると、安堵の笑顔を取り戻し始める。
人々に、動物たちに、花や木々に、すべての生き物に平穏が戻ったのだ。
「良かった! ガゥジーラはいなくなったぞ!」
「バンザイ!」
「もう安心だ!」
「やったぞ!」
恐怖の悲鳴と不安の沈黙が平和の歓声に変わり、歓喜の波は世界中へと拡がるのであった。
自衛隊も戦闘態勢を解除、原田総理大臣も張り詰めた神経を緩め、椅子にドッサと座りへたり込む。
「全国民に報告! ガゥジーラの危険は去った!」
・・・面妖な、おそらくはいわゆるタイムトンネル。
混沌のサイケデリックな泥の空間をガゥジーラは流される。
眠っているのか。
呼吸はできているのか。
痛くはないのか。
苦しくはないのか。
ウネウネとタコみたいに身体をうねらせた怪獣はタイムトンネルを為す術もなく流される。
流される・・・。
流される・・・。
どこへ向かうのか。
それは分からない。
かくして、『ガゥジーラ排撃奮闘帖』。
ただ今より開幕。
はじまり、はじまり!
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