第25話 テストの結果と嫉妬と確信に変わる疑惑と

 

 勉強会をしてから一週間後。

 学期末テスト本番が終わり、成績表が返ってきた。

 学園の廊下には、順位表が貼り出されている。


「うーん、……けっこういいんじゃないかしら?」


 私の成績は、魔法の実技と格闘術はトップに近かった。

 座学はそこそこといったところである。

 総合的に、学年十位くらいに入っていた。


「やあ、ローズ。成績、よかったみたいだね」


「アンソニー様こそ」


 アンソニーが爽やかな笑顔で話しかけてくる。

 彼の成績は学年三位だ。

 全く同じ点数のジャレッドと並んで、一緒に名前を貼り出されている。

 そして、一位は――全教科ほぼ満点の、リリーだ。


「王子として、学年一位を目指したんだけど。あと一歩足りなかったね」


「それを言うなら、俺はどうなる」


「ジャレッド様……」


 私の背後にジャレッドが立っていた。


「俺はアンソニーと同点で三位だ。ケラヴノス皇国第一皇子として、不甲斐ないばかりだ」


「そうだね。一位のリリー嬢は、本当に凄いな」


「座学も実技もほとんど満点だからな……こんな成績はなかなか出ないとエルム先生が言っていたぞ。きっと想像ができないほど努力したんだろう」


「私たちにも、勉強を教えてくれましたものね。お礼を言いたいですわ」


 三人でしみじみとしていると、いいことを思いついた。


「そうですわ。またお茶会を開くのはどうでしょう? エルム先生やセオ先生も呼んで、学期末の打ち上げをしましょう!」


「良い考えだね。じゃあ、僕らもお菓子かなにか持ち寄ろうか。ジャレッド」


「ああ。ケラヴノスは果物が名産だ。ちょうど美味いメロンが届いている」


「まあ、芋とメロンでパーティーですわね! じゃあ、リリーさんを誘ってきますわ。お二人はエルム先生とセオ先生をお願いいたします」


 そういえば、順位発表のときからリリーの姿が見えない。

 どこに行ったのだろう? 多分、一年生のいるエリアにはいると思うけど……。

 私は、学舎を回って探すことにした。




  ★




 教室、図書館、演習場などを見て回ったが、リリーはどこにもいなかった。

 寮に戻っているのだろうか? 

 私は、人があまり通らない校舎裏を歩いていた。

 寮までなら、こっちのほうが近道だ。


「――ふざけないでよ!」


 突然、大きな声が聞こえた。

 反射的に、校舎の壁に身を隠す。


「あんたなんかが、なんで学年一位なのよ!」


「平民出身のくせに、どんな手を使ったわけ?」


「アンソニー様とジャレッド様にも色目を使って、恥ずかしくないのかしら?」


「なんとか言ったらどうなの、リリー・ブロッサム!」


「…………」


 な、なんだなんだ。

 女子生徒が四人、リリーを囲んで怒鳴っている。

 真ん中にいるリリーは無言のまま、無表情で立っていた。

 ――もしかして、いじめ!?

 私は気づいて、その場から飛び出す。

 たとえ誰であろうと、一人に対して集団で難癖をつけるなんて許されない。


「お待ちなさい!」


「誰!?」


「ローズ・シルヴェスター……様!?」


 いじめをしていた女子生徒たちの顔がさっと青くなる。

 なんでだろう、私なにかしたかしら。


「シルヴェスター公爵令嬢とあろうものが……平民出身の腐れ百合の味方をするの!?」


 あ。そうか。

 忘れてたけど、私って身分が高いんだった。

 ――まあ、そんなことはどうでもいい。


「あなたがたのしていることは道理に反しています。テストで負けたのなら、実力で見返せばいいではありませんか」


「そんなわけがないわ! こんな平民風情に、私たちが実力で負けるなんて、あるはずが……!」


「お黙りなさい。見苦しい」


「みぐる……しい!?」


「よく考えなさい。アンソニー様とジャレッド様、それに私もリリーさんより順位が下なのよ? 贔屓で成績をつける学園が、そんな真似をすると思う?」


 令嬢たちは唇を噛み締めて黙る。


「リリーさんは実力でこの学園に来たのですわ。自分の力を磨こうともせず他人を貶めるだけとは、貴族として恥ずかしいと思いませんの?」


「……ッ、覚えてなさい!」


 漫画のような捨て台詞を吐いて、令嬢たちは去って行った。


「ふう、なんとかなったわね。もう大丈夫よ、リリーさん。……リリーさん?」


 私は、リリーに向きなおる。

 しかし、彼女は明らかに様子がおかしかった。


「……なんで、どうして、こんなのおかしい。どうして、悪役令嬢が……なんで、いつもいつも……」


 親指の爪を噛みながら、据わった目で何事かブツブツ呟いている。

 どう考えても尋常ではない。


「……どうしたの、大丈夫?」


「大丈夫じゃない!」


 肩に置こうとした手を、はねのけられた。

 私は、なにが起こったかわからず呆然とする。

 リリーが、敵意に満ちた目でで私を睨んでいた。

 

「あなた……あなた、おかしい! ここはゲームの世界で、わたしは主人公で、あなたは悪役令嬢のはずなのに……!」


「どうしたのリリーさん。……待って」


 私ははた、と気づいた。


「どうして、あなたは私が――ローズ・シルヴェスターが、乙女ゲームの悪役令嬢だって知ってるの?」


 その問いに、リリーは雷に打たれたような顔をした。


「……やっぱり、そうだ。あなた、日本人でしょう」


「日本人……ってことは、もしかしてあなたも……!?」


 驚きを隠せなかった。

 この世界に転生してきたのは、私だけだと思っていた。

 けれど、思い返してみればおかしな点はある。

 リリー・ブロッサムが成績トップで入学し、新入生代表挨拶を務めたこと。

 彼女が時々発していた、『悪役令嬢』という単語。

 そしてこの状況。

 導きだされる可能性は、ひとつだ。


「あなたも、日本からこの乙女ゲーム――『花と散るエデン』の世界に、転生してきたの?」


「……そうよ、まさか同じ境遇の人間がいるなんて思わなかったけど――ああ、どうしてわたしの人生、いつもいつもいつもうまくいかないの!?」


 突然、リリーが叫んだ。

 ぼろぼろと涙が溢れ、唇を血が出るほど噛み締めて、顔は蒼白になっている。

 尋常ではないと一目でわかった。

 

「あなた、わたしがヒロインだからシナリオを変えようとしてるんでしょう! お茶会でジャレッド様のルートを潰して、今回だってアンソニー様のイベントだったのに! ……どうして、いつもわたしの邪魔ばかりするの!? メインストーリーが始まらないのだって、あなたのせいでしょう!? 違う!?」


 私ははっとする。

 そうだ、このイベントには覚えがあった。

 校舎裏で絡まれているリリーを、アンソニーが助けて好感度を上げるイベントだ。

 思えば、私は知らず知らずのうちにリリーのイベントを潰していたことになる。


「そんなつもりはなかったのリリーさん、聞いて――」


「うるさい! 今度こそ、人に好かれる人生を送れると思ったのに……! どうして、どうして……! 結局、どうしたってわたしはうまくいかないんだ! どうしたって、私は誰にも好かれないんだ……誰も、誰もいない!」


 泣きながら、リリーが走っていってしまう。

 私はその背中を、呆然と見送った。


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