第五章 焼芋令嬢はお茶会をする
第13話 お茶会と招待と笑いのツボと
初日の授業が終わった、というより魔物によって強制終了された後。
教師陣と国の衛兵たちにより、学舎の点検があった。
結果、魔物がどこかから侵入したような形跡はなかったらしい。
「まあ当然といえば当然よね……魔物は、人の感情から生まれるもの」
魔物が出たということで授業が緊急で休みになり、しかしなにもしないでいるのも面白くない。
朝、着替えをしながら私はぽつりと呟いた。
「ローズ様は、魔物が学園の内側から発生したとお考えなのですか?」
「そうよ、メル」
私は支度を手伝ってくれているメルに頷いた。
これだけ広い学園である以上、学生の感情の澱みによって魔物が発生したと考えるほうが自然だ。
支度を終えて、メルが下がる。
私は椅子に座って考えをまとめることにした。
ふと、鏡を見る。
すっかり慣れた、金髪に赤みがかった紫の瞳をしたきつめの美少女が映っていた。
試しににっこりと笑ってみる。
――だめだ、どうあがいても笑顔が怖い。
自分の笑顔に言うのもなんなんだけど、黒いオーラが見えてるもの。
絶対なにか裏がある、そう思える笑みだ。
「人間っていいことでもストレスになるそうね。環境が変わるとなおさら」
前世でお医者さんに聞いた知識だ。
そうはいっても、貴族の子息令嬢を危険にやすやすと晒すわけにはいかない。
聞いたところによると、教師陣のところにも魔物が発生していて到着が遅れたそうだ。
「短期間に二匹なんて、それはそれで妙な話ね……?」
頭に指を当てて考える。
私はふと思いつく。
原作乙女ゲームでは、悪役令嬢ローズ・シルヴェスターがラスボスとして立ち塞がる。
「確か、ローズが魔物の苗床になって……ラスボスになるイベントだったわね……」
学園内で知らず知らずにうちに魔物を生み出していたローズ・シルヴェスター。
魔物に取り憑かれ、持ち前の魔力を魔物を生み出す母体とされ、巨大な薔薇の花となった彼女のグラフィックはめちゃくちゃ気合が入っていた。
「あのルートだけはごめんこうむりたいわ。本当に」
はあ、とため息をつく。
まあ、当の悪役令嬢であるところの私になにも起きていないのだから、このルートはありえないだろう。
それに、せっかく前世でも来られなかった学校に来たのだ。
「友達を作ったり、みんなで遊んだり、そういう青春っぽいことがしたい……!」
ぐっと拳を作った。
切実な思いだった。
よし、ならば早速行動をしよう。
今世では青春をするのだ!
私はペンを取り、手紙を書き始めた。
「……お茶会?」
放課後。
長い黒髪をポニーテールにまとめて、金色の眼を細めた青年――ジャレッド・ケラヴノスが不思議そうに首をかしげた。
ここは学園の隅にあるベンチだ。
静かに本を読みたいと前に彼が言っていた。
それを踏まえて探してみたら、分厚い本を読む彼と出会えたというわけだ。
「ええ、お茶会です。先日、一緒に魔物を倒したみなさんと親睦を深めたいと思いまして」
「なるほど。――となると残りは、リリー・ブロッサム嬢とアンソニー王子か」
「はい。リリーさんにはこれから招待状を渡そうと思っているんですの」
女子寮にいるはずだったリリーが見当たらず、探してもどこにいったかわからない。
そこで、先にアンソニーとジャレッドに招待状を渡しにきたのだ。
「ふむ。隣国の公爵令嬢じきじきに正式なお誘いとあっては、断るわけにもいかないな」
「ありがとうございます。みんなで芋を食べましょう」
「……待て、ひょっとして芋を食べる気か?」
「芋は食べるものでは?」
「……ちょっと待て。お茶会にあるのは芋のみか、それ以外もあるのか。それだけ答えてくれ」
「あら。芋は苦手でいらっしゃいますか?」
「いや、苦手ではない。苦手ではないが……ンッ」
咳払いをするジャレッド。
なるほど、芋以外も食べたいということなのだろう。
成長期だし、この年頃の男子はやたらお腹が空くらしいと聞いたことがある。
「もちろん、スコーンやマドレーヌもありますよ。うちのメルが焼いてくれるスコーンはそれはもう絶品ですの! いっぱい食べてくださいまし!」
「そうではない……そうではないんだが……ングッフッ」
ジャレッドがまた肩を震わせて、笑うのをこらえている。
どこに笑うところがあったのだろうか。
箸が転がってもおかしい年頃というやつなのかもしれない。
「……? 小麦にアレルギーがありますの? 卵とか……」
「ングッフッ、ングッ……気遣いは無用だ。毒以外はなんでも食べる。招待だが、喜んで受けよう。時間は……十五時か」
「まあ、それはよかった!」
助けてくれたお礼もしたかったし、受けてくれたのは素直に嬉しい。
「では、リリーさんを探してきますわね!」
「――ッ!?」
がさっ、と人の気配がした。
「曲者か!?」
「まさか、魔物……!?」
ばっ、と構える私とジャレッド。
「――ち、ちが……ちがい、ます……!」
茂みをかき分けて出てきたのは、桜色の髪に瞳の少女。
ヒロインことリリー・ブロッサムだった。
「あら、リリーさん! ちょうどいいところに!」
「ひ、ひえぇ」
「私たちとお茶会をしてくれませんこと?」
「……へ?」
わたわたと手を動かすリリーに、私はずずいと歩み寄る。
前髪を長く伸ばして目を隠しているけれど、やっぱりかなりの美少女だ。
その両手をがっしりと握り、私はにっこりと笑う。
「この前、魔物を倒したみんなでお茶をしようと話していましたの! リリーさんを呼びにいこうとしていたところでしたのよ」
「え、ええ……? どうしてわたしに……?」
不思議そうに小首をかしげるリリー。
「あなたと仲良くなりたいからですわ!」
私は正直に、満面の笑顔で言った。
リリーはしばらく黙ったあと――引きつった顔で、根負けしたように頷いた。
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