第3号 竜の鱗を掻く
(旺文社 標準国語辞典 第七版)より
こと【琴】
(名)
〘音〙邦楽(ほうがく)の弦楽器(げんがっき)の一つ。空洞(くうどう)の桐(きり)の台の上に糸を張り、琴づめでひいて鳴らす。現在は一三弦。
***
琴は、弦を“掻いて”鳴らす楽器だ。
ある日、日本楽器に触れる機会があった。三味線、尺八、琴があった。とりわけ、琴は魅力的であり興味深かった。「琴爪」とよばれるものを使って弦をひくのだが、まさに言葉通りの爪なのである。ギャルの爪のように長さがありながら、強度がある爪はトラや竜の爪を装填した感じだ。この琴爪を使って、弦をひくのだが弦を掻くというのが正しいだろう。2本の弦を掻くように奥から手前に順に弦をひく「かき手」と呼ばれる奏法や、-本の弦を連続して弦をひく「トレモロ」と呼ばれる奏法などから分かる。演奏している間は、琴という背中を無性に掻いている感覚に陥る。それも人の背中を掻いているのではなく、爬虫類の背中を掻いている思いになる。なぜなら、爬虫類の硬い鱗を触って、爪がはがれってしまったような激痛が走るようなものだからだ。なによりも琴爪をつけていない左手の親指と人差し指を直接琴線に触れる「強押し」という奏法はたいへん痛かった。親指のほうに体重を乗せると幾分か軽減されるが、指が真っ二つに割れるのではないか、と思ったくらい痛かった。琴線にふれる、という言葉があるが実際はとんでもなく痛い。その痛みを伴って奏でられる音は、日本人の奥のほうにあるふるさとを刺激してくれる。
また、琴にもいくつかの種類がある。とりわけ、十七弦の琴は格別だ。通常は十三絃であるが言葉で推測できるように弦の数が四本多い。そして、十三絃よりも体の芯にドスが効いた音が響く。十三絃は竜の背中に対して、十七弦は恐竜の背中というべきであろう。「春の海」を作曲した宮城道雄氏は八十弦の琴を開発したというが、ぜひとも聞いてみたいものだ。ゴジラの背中を掻くようなものだろうか。
以上、2点の語釈を“大学紀行辞典”に採用とする。
こと【琴】
日本楽器の一つ。琴爪を用いて演奏する。基本は十三弦であり弦をひくというより、弦を掻くことによって鳴らす楽器。演奏する際は、指が切れてしまうくらいの痛みを伴うため、注意が必要。「真菜さんの―の音は素敵だ」
じゅうなな-げん【十七弦】
スタンダートな十三弦に対して、四本多い十七弦の琴のこと。十三弦より図体が大きく、身体の心にまで響く、ドスの効いた音を出す。「想像以上に―は大きい」
― 2024年12月某日 「春の海」を聞きながら ―
※参考文献
『旺文社 標準国語辞典 第七版』
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