11月22日 ポテトフライ 【4日目】

隠れ屋「ポプラ」を覗いてみると、カウンターに4人の男が並んで席に座ってワイワイしていた。

よく見ると、四人の目の前には二つの大きなお皿に分けられたポテトフライがおかれている。

ポテトフライは細長く、スティック状に切られているタイプだ。

好青年のライルはそのポテトフライを一本掴みつつ感動しているようだ。


「この料理うますぎる!!なんだ、このホクホクとした触感は!?

 ……っておい、シア、お前食い過ぎだぞ。一本ずつ食べろよ」

「わっはっは!いいじゃろ!!ちまちま食べるのは性に合わんからのぉ」


大柄のシアはポテトを鷲掴み、口の中に放り込んだ。

その様子を見ていたライルは口をパクパクしながら、顔を真っ赤にして怒る。


「数本ならまだしも、お前の大きな口でいっぱい頬張るとかふざけるな!」

「お主、女将さんがどんどん食べてくださいって言ってくれていたのを

 聞いてなかったのかのぉ……儂より若いのに耳が遠くなるとは可哀想に」

「なんだと!?クソじじい!!」

「ほっほっほ!儂に構うのは自由じゃが、

 皿のポテトフライはいだたくぞ」


そう言うと再度ポテトフライを掴んで口の中に放り込む。

ライルは唖然としながら、残りのポテトフライを死守すべく皿ごとひったくる。

それを見ていたシアは口をもごもごしながらライルの皿を取り戻そうと暴れはじめる。


二人の横の席でちまちまとポテトを食べていた小柄のアルトは女将に謝る。

その横で黙々と食べていた眼鏡をかけたストレングスは淡々と状況を整理していた。


「あわわ……女将さん、本当すみません……今すぐ止めますので」

「ふむ。やっぱりシアとライルを横並びに座らすと喧嘩しますか。

 まぁ、前回の時点で分かっていましたが、これで確定ですね」

「ストレングス、止めましょうよ」

「まぁ、別に争っていることには興味はないが……

 この店に迷惑が掛かるのは私の本望ではない。

 女将、申し訳ないが、あの大きなポテトフライを2つ大皿で頂けないだろうか」

「わかりました。少々お待ちくださいね」


女将は苦笑しながらもストレングスの言葉に返事をする。

女将の手元ではすでに鍋一杯にポテトフライがあげられていた。

そして手際よくポテトを皿にあげていき、追加のポテトを油に投入していた。


シアとライルの喧嘩が終わったのか、二人のトーンが急に下がる。

ストレングスは二人に話しかけた。


「どうした?喧嘩は終わったか??」

「終わったよ。シアが結局全部食っちまった」

「ほっほっほ!まだまだライルはひよっこのぉ」

「もう、怒る元気もないわ……」


ライルは机の上に突っ伏す。

ストレングスは首をかしげながら、ライルに話しかけた。


「ふむ……ライルよ。お前、どうして俺らを今日は呼びつけたんだ?

 扉が出てきたから来てくれ!と言われてきたが。

 その理由も言わずにふて寝するのはどうなんだ?」


その言葉にシアとストレングスも乗っかる。


「そうじゃ。今日はお主が呼びつけたんじゃった!

 それを話してもらわんと困るのぉ」

「そうですよ。このままだと、ただポテトフライを食べに来ただけじゃないですか」


三人に突っ込まれたライルはのっそと起き上がり、

急に口元をにやっとする


「そうだった……お前ら、聞いて驚くなよ……」


ライルはもったいぶる。

対照的に三人はライルを冷めた目で見る。


「実はな……彼女ができたんだ!!!!」


ライルは一人で拍手をする。

その様子を見ていた3人は、


「ついに、幻影まで見ることになるとはのぉ」

「ふむ……戦場での戦いで脳がやられてしまったか。可哀想に」

「あわわ、ライルさんが現実逃避をするなんて……」


シアは首を横に振りながら、

ストレングスは眼鏡をクイッとしながら、

アルトは見てられないということなのか、目を伏せながら感想を述べた。

三人の反応を聞いたライルは必死な顔で三人に声をあげる。


「おい!どうしてそうなる!?お前たちそんなにも薄情だったのか??」

「……くっくっく」


ライルの必死の声を聞いた三人の顔がにこやかに変わっていく。

そして急に爆笑し始めた。

中でもシアは涙をためながらライルに声をかける。


「がっはっは!すまんすまん。

 あまりのことにちょっと茶化したかっただけじゃ。

 良かったのぉ......相手はどんな方なんだ?」


その声を聞いたライルは笑顔になって答える。


「かわいい......というよりか、綺麗なタイプ。

 でも、笑った時はとってもかわいくて、それでいて優しくて。

 そばにいると安心するタイプかな」

「ふむ……中身はわかったが、姿形は何もわからんぞ。

 外見的特徴はどうなんだ?」


ストレングスは眼鏡をクイッとしながら聞く。

ライルはうーんと言いながら答える。


「背は俺と同じぐらいで、髪は黒髪。結構長いかなぁ。

 あとは全体的にすらっとしているぐらい。顔はクール系。」


聞いた三人はイメージしながら聞いている。

そしてシアはゆっくりと口を開いた。


「ライルよ……あまり言いたくはないが、お主騙されてないか?

 そんな完璧な人がどうしてお主の彼女になったんだ?

 そもそもどうやって知り合ったんだ?」

「なんか町で道に迷ってて、困ってそうだったから声かけただけ。

 で、時間も良かったらご飯誘って……って感じかな。あっ」


ライルは頭をポリポリと書きながら返事をしている途中に何か思い出したか、

自分の座っている椅子の下のカバンをガサゴソと漁り、

ペンとハンドタイプの青い手帳を取り出した。


急な行動に対して、意味が分からない3人は様子を見ていた。

そしてライルは女将に質問する。


「女将さん。すまないけど、今日の日付って教えてくれるか?」

「そっちの世界の日付と違うけどいいですか?」

「あぁ。別に構わない。帰ったらちゃんとした日付で書くから」

「それなら、そちらに」


女将は自分の後ろを指さした。

カレンダーは11月21日まで×がついている。


ライルは自分の手帳にそれを写し、それが終わると何かをその手帳に書き始めた。

その様子を見ていたアルトが声をかける。


「ライル、さっきから何してるの?」

「あぁ、日記を書いているんだ」

「にっき?」


アルトは突拍子もない言葉に首をかしげる。


「彼女ができてから、どんな思い出も忘れないようにと日記を書き始めたんだ。

 戦争ばかりで何も日常を大切に思わなかったんだけど、

 彼女と出会ってから日常のふとした時間の大切さに気付いて、

 この幸せの日々を忘れないようにって思ってね。

 今日はこの飲み会について書かないと、と思ったわけさ」


ライルはアルトの方を向かず、その手帳に色々書き込みながら返事をした。

それを聞いていたシアが大きく笑った。


「わっはっは!!お前、そんなしょうもないことをやり始めたのか!!

 俺らはいつ死ぬかわからないんだから、書いても仕方ないだろうに」


アルトの時と同様、ライルは目を合わさずに手帳に書き込みながら返事をした。


「シア……否定はしないよ。書いたところで俺らは次の戦争で死ぬかもしれない。

 でも、この思いだけは俺にとって大切だから。まぁただのエゴだよ」

「……」


笑っていたシアは少し真面目な顔になった。

そして目を細めながらアルトの方を見て……軽いため息をついてアルトに話す。


「そうか。だったら、ワシからも今日を生きてくれたお主にプレゼントじゃ。

 女将、この店に珍しくてうまい酒が入ったと聞いたが、まだ余っておるか?」

「はい。まだありますよ」

「じゃあ、そいつをくれんか?」

「わかりました、ちょっと待っててくださいね」


女将は後ろの棚から開いていない日本酒を取り出す。

ラベルには「煌」と書いてある。


「これでよろしいでしょうか?」

「今開けてくれ。おちょこ4つで」

「はい」


女将は察したのかアルトとストレングスに一つずつ渡し、残り二つをシアに渡す。

そしてシアはおちょこを持ってアルトに話しかける。


「ライル、ちょっと書くのをやめてくれんか?」

「うん?どうした?」


ライル初めてシアの方を向いた。

シアはおちょこを手渡す。


「とりあえず受け取れ」

「……あぁ。ありがとう」


ライルはペンを持っているのとは逆の手を出し、シアからおちょこを受け取る。

そこにシアは日本酒を注ぐ。

シアはそのままアルト、ストレングスのおちょこにさっと注ぎ、

自分の分を最後に注いだ。

そして席を立って叫ぶ。


「わっはっは!ついにライルにも彼女ができた!!

 こんなめでたい日は乾杯じゃ!!!」


シアは自分に入ったおちょこをぐっと飲んだ。

それを見たアルトとストレングスも一気に飲んだ。

ライルは持っていたペンで手帳にさっと殴り書きをしてからペンを手帳に挟む。

満面の笑みで手元にある日本酒を一気に飲んで叫んだ。


「お前ら!この瓶を開けるまで今日は飲み会やるぞ!」

「「「「乾杯!!!」」」」


四人は持っていたおちょこをチンの鳴らして、

中に入っている酒を飲み始めた。

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