第5話 うわぁ……
「んじゃ、客も帰ったことだし……記念にまたホラー映画見るか!」
「えぇっ⁉ 今日はもう見たじゃないっすか!」
「うるせぇ! 気分がいいから、もう一本見るんだよ! お前も付き合え!」
「そ、そんなぁ……」
ライトは再びサヤの鑑賞会に付き合わされることになってしまった。せめて、今度は多少は面白くありますように。彼はそれだけを願いながら、仕方なく従うことにした。
「……………………」
そして、本日二本目の鑑賞会が終了した。
画面が暗転し、スタッフロールが流れ始める。
「……何か、ちょっと面白かったっすね」
「……う、うん。あれ、おかしいな……絶対、地雷だと思ったのに」
「って、なに地雷見せようとしてるんすか」
意外な結果に、二人は困惑していた。
これまでの経験則から、明らかに期待薄のタイトルだったのは間違いない。チェーンソーを振り下ろしている日本人形というツッコミどころ満載のパッケージなのに──何というか、丁寧に作られている作品だった。作り手の拘りがこちらにも伝わってくる。
人に勧められるかどうかと言われると、少し解答には悩んでしまうが、ライトにとっては好みの映画だった。あまりひどい出来の映画を見過ぎて、感覚が麻痺してしまったのかと疑うほどの奇妙な体験だ。
「レビューは……おぉ、星三個半。当たりじゃん」
「マジでそんな高いんすか⁉ い、いや……納得はしますけど」
驚いた。それほどの点数は中々見ない。平均点数が星二つだということを考慮すると、やはり、見る人が見れば面白い出来なのだろう。自分の感性が狂っていないことに、ライトは少し安堵してしまった。
「いやぁ、久しぶりの当たりだったなぁ。これがあるから、発掘はやめられないんだよねぇ」
「まあ……そうっすね。気持ちは分かるっす」
何となくではあるのだが、サヤがホラー映画を見続けている理由がライトも理解できてしまった。
確かに、この当たりを引いた時の達成感、満足感は中々のものだ。例えるなら、金銀財宝を発掘する探検家の気分とでも言えばいいのだろうか。期待値が低ければ低いほど、衝撃は倍増する。世間から評価されてない作品なら尚更。その価値を見出した選ばれし者という奇妙な選民意識まで沸いてしまう。
――いや、それでもハズレの確率が高すぎる。半年続けて、片手で数えるほどしか当たりはなかった。時間の無駄というのは間違いない。
一瞬、納得しかけたことに対して、ライトは危機感を覚える。もう少しで彼も
「……ふと、気になったんすけど」
「ん? なに?」
「先輩の一番好きな映画って何なんすか。やっぱ、ホラーなんすか?」
「え、急になに」
「いや、そういえば聞いたことなかったなって」
好みの映画について、よくよく考えてみると、サヤが一番好きな映画のタイトルをライトは存じていなかった。十中八九、ホラーというのは想像がつくのだが、一体どんな作品なのだろうか。
「え~……一番好きな映画って言われてもなぁ」
サヤは腕を組み、苦い顔をしながら、数十秒間考えていた。
「う~ん……まあ、あるにはあるけどさぁ……あんま、教えたくないかな」
「えぇ? な、なんでっすか」
意外な返答に、ライトは困惑しながら聞き返す。
「これってある程度色々な作品を見てる人なら分かるんだけどさぁ、自分が一番好きな作品って、それが一番面白いってわけじゃないんだよね」
「どういうことっすか?」
「面白さとは別に、共感するっていうのかな。まあとにかく、作者や監督と波長が合った作品が、一番好きな作品になるんだよ」
「波長……」
「うん。何気ない描写でも面白く感じちゃう。まるで、人生の一ページを切り取ったみたいに、作品自体が自分の生き様と同化してる。だから、他人から見たら、そこまで面白くないかもしれないんだよね」
何となく分かるような、分からないような。ライトが積極的に創作物に触れるようになったのはここ半年の出来事であり、まだあまり馴染みがない感覚だった。
「好きな映画だからこそ、欠点も分かるっていうか。一般受けはしてないし、めちゃくちゃ悪趣味だし……どうせ、他人には絶対合わないから、教えたくないってやつ」
彼女が悪趣味なのは今に始まったことではないと思うが、主張は理解できる。
確かに、二人の嗜好はかなり異なる。以前、サヤに勧められた映画を見せられたことがあったのだが──案の定と言うべきか、ライトはあまり面白いとは思えなかった。それを正直に伝えたら、機嫌が悪かったことを彼も覚えている。もしかして、あの時のことをまだ引きずっているのだろうか。
ちょっと、悪いことしちゃったかもと、ライトは若干後悔していた。
ピー
そんなことを考えていた時、侵入者を知らせる警報が地下室に響いた。
「ちょっ……今日二組目⁉ おいライト! 早くカメラ付けて!」
「う、うっす!」
まさかの一晩で二度目の来訪者に、二人も動揺していた。それだけこの時期には滅多にない出来事である。外のカメラに切り替えて、顔を確認する。そこにいたのは──
『ウェーイ! おいおい、本当にここ出んのかよ⁉』
『ギャハハ! マジマジ、めっちゃ噂になってるし!』
髪を金髪に染め、派手な恰好をした、まさに〝ヤンキー〟風の恰好をした者たちだった。
それにしても、数が多い。全部で七人はいるだろうか。そんな大勢で心霊スポットに来るとは本気で怖がる気はあるのかと疑いたくなる。幽霊としても、精々一度に相手ができるのは三人が限度なため、勘弁願いたい。
「うわぁ……
「……こっち見るの、やめてもらっていいっすか」
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