Chapter 6: 究極の質問【解決編・前編】

メアリー・スー

 最強にして最高の知性を人工的に作り出す研究――計算機科学が到れるはずのない、汎用人工知能AGIの実現。歴史的に人工知能の研究はずっと、傲慢だった。人が目指した傲慢さの極致きょくち――その業のひとつが、こうして結実した。

 これだ。

 破壊され尽くした、モダンな建築物。

 かつてはここに確かにガラスをふんだんに取り入れた大きな研究所があった。つい、何時間か前までのことだ。

 無くなったもの、残されたもの。

 地下のラボに戻る途中、悠遠さんは僕に全員を集めて欲しいと頼んだ。

 少しだけ見た地上は――美しかった。遠くの銀世界。ぽっかりと穴が開いたこの沼のほとりだけ春らしく雪が解け、花が咲いて。そこには文明の残り香が、遠く未来の世界を予感させるように黒煙を上げ、蛇がちろちろと舌を出すような炎が、そこかしこに。

 眺めれば眺めるほどに、それはバベルの塔に与えられた神罰を彷彿ほうふつとさせたけれど――これは違う。

 これは人の手で行われた。

〝全員を集める〟――どの道誰もがこの地下に留まっているわけで、助手に頼むお使いとしても格別に簡単な仕事だ。そう思ったけれど――志木君だけがどうしてもキーボードから離れてくれなかった。どうしてもTFAを復帰させるのだと言う。

 僕は天井から滝のように水が落ちてくる一画を振り返って、とてもそれどころには見えないんだけどな、と思った。

 尤も、志木君とて同じ部屋にいるには違いない。同僚の光堂さんだってすぐそこで、今にも千束さんに殴りかかりそうじゃないか。

 この地下では、未だ残る業が音を立てて燃え盛る最中だった。

「あの真鍋って人が黒幕なんだよ!」そう叫ぶのは千束さんだ。


「あの人なら鍵なんかなんぼでも作れたろ! さもなきゃゲーデルって奴だろうさ!」


 千束さんの指摘する通り、真鍋さんはわば僕らにとっての〝メアリー・スー〟だ。

 そこで最初に千束さんの唱えた説は、『真鍋さんが殺し屋を雇って、偽造した鍵を渡して密室を作った』というものだった。

 勿論、志木君他、研究者の見解として――スマートロックの鍵を偽造することはできない。だからここでいう『偽造した鍵』は、前室の金属の鍵のほう。二重密室の外側の鍵についてのことだ。前室の鍵はスマートロックでなくしかも長い間更新されてもいなかったため、ここの職員であれば複製のチャンスがあっただろう。

 スマートロックについては、僕らのスマホのIDを取りまとめて登録していた真鍋さんならば偽造せずとも『殺し屋』のぶんの鍵を発行することができたのだ――というのが根拠だ。

 ジオフェンス。僕らのスマホは、彼女にIDを登録してもらわなければ施設内には存在できなかった。


「そうすりゃあ、施設内に自由に出入りできたんだ。フェンスだって別に電流が流れてるわけじゃないんだろ? あの雪で、監視カメラにだって死角ができたはず。いや、むしろ雪が積もったお陰で簡単に乗り越えられたんじゃないか?」


 金属の合鍵とスマートロック。鍵が二つ揃えば、あとは屋外セキュリティに引っかからないよう忍び込んで犯行が可能である……らしい。

 しかし当然これは職員らの激しい反対を受けた。

 そもそも――そうして真鍋さんが実行犯向けに鍵を発行すれば施設内の移動は自由になるとしても、それでは所長室を施錠することはできなかったはず。あの扉を施錠できたのは、事件の前後で所長自身のスマホ、ただひとつだったはずだ。

 なぜなら、もし仮に真鍋さんが鍵を(これだってかなり疑問があるけど)自由に発行できたとしても、二重密室の内側・所長室のドアの錠前に登録されていた鍵は、奥村所長のものたったひとつだったからだ。前述のように、スマートロックを偽造できないとわかって僕らにはこの密室が途方もなく堅牢だと考えた――けれどおそらくそのところが合意できなければ、千束さんのように鍵を偽造して気がしてしまうのだろう。

 けれど一方で、『所長室のスマートロックはたったひとつ』という原則の大部分はその真鍋さんの証言によるもののようにも思う。いや、内田さんもこの点を認めていた気がするけれど。

 そう考えながら内田さんに顔を向けると、彼は『豪雪でも敷地のセキュリティは生きており、こっそり侵入は不可能』と示した。


「自分は事件の後、外を見回りましたが……その時刻、積雪はまだそれほどでもなかったように記憶しています。屋外のカメラやフェンスがどうとか、そういうレベルではなかったような……」


 これを受けて千束さんは殺し屋説をひっこめた。

 そこで彼は次に、真鍋さんが黒幕で江口先輩が実行犯だと言い出した。勿論この説も衝突を生み、見兼ねた阿部さんが「やめてください!」と叫んだ。


「そ、そんな、あの人もこの人も皆人殺しみたいに……手当たり次第じゃないですか……? 江口さんが犯人だったならもういいじゃないですか」


 その江口先輩も死んでしまった。『もういい』とは、そういうことなのだろう。

 秦さんは、大層不愉快そうに片手で眉根を抓んでいた。

 でも阿部さんに対する気遣いからなのか、反論することはせず、代わりに全員に向けて意見を表明した。


「あの江口って兄ちゃんに、人殺しなんてできるかね。ましてナイフで惨殺なんざ、普通の精神状態でできることじゃねえ。ものの何時間もしないうちにケロッとなんてしていられるもんか」


「実際にそれをやってのけた奴がいるんだよ!」


 そう千束さんは言い切って、怯える阿部さんの方を見て、やや気まずそうに「いや」と訂正する。


「――今この中にはいないって、そういう話なんだが。生来のサイコパスなら、それくらいできたんだろう」


「さあな。だがどの意見にも、おれは少しも納得できんな。だからこうして集まった。探偵さんが教えてくれるっていうなら、なけなしの金を見物料にしてもいいくらいだ」


「馨ちゃん、君は後輩だったんだろ! 先輩が実行犯なんて信じられるか?」と、光堂さん。

 突然そう振られて、僕はしどろもどろになった。光堂さんは、先程から千束さんの話に憤慨している。

 どう答えれば、さっきから続くこの不毛な議論の応酬をまとめることができるのだろうか。

 そもそも先輩といったって世代が違うし、接点はあまりない。


「先輩は、その――悪い人じゃなかったと思うんですけど、『我関せず』みたいな、闇っていうか――」


 千束さんは僕の話に頷いていたが、毒島さんにとっては噴飯ものだったようで……。


「は! じゃあ、何。その闇ってのを抱えたサイコパスが、ハッキングとかしてネットを壊して、ミサイルまで落としたの?」


 それは――と全員が言い淀む。


「ふ、不可能じゃないだろう。彼はハッカーだったんだから……」


 そう口ごもる千束さんに対して、光堂さんは呆れ顔で蔑むような視線を送り、「そんなわけない」。


「あなた方がどう思うと勝手だけど、不可能だよ。TFAはその辺に出回ってるプロセッサで出来てるわけじゃないんだ。技術情報がないのに、どうやってハッキングするって?」


 ミサイルについては特にコメントする必要もない、とでも言いたげな所作だった。

 ハッキングという言葉が計算機を使った攻撃を示すのなら、それは公開されている技術情報を悪用する形で行われるのが殆ど。公開されていなければ悪用のしようがない――そこは光堂さんの言う通りだと思う。

 毒島さんは尚攻撃的なポジションを崩さない。


「で? そのハッカーが、生き意地汚く逃げた挙げ句に覚悟の自殺したってわけ? そんなわけないじゃん、バーカ‼」


「良心の呵責かしゃくってのは遅効性なんだよ。地上の惨状を思えば、常識では図り知れんね。なぁ、秦センセ」


「止してくれ」という秦さんの指先は心なしか震え、「前線を思い出しちまう」。

 良心がどうとか、そういう話ではないはずだ。


「江口君にはアリバイがあっただろう! そうだろう、馨ちゃん」


 光堂さんのその指摘は正しいものに思える。

 江口先輩は犯行時にアリバイがあった。犯行時刻と思われる22:30、そのごく近い時間まで僕と一緒にいたのだ。

 部屋に時計はなかった。僕はそれを自分のスマホの時計で確認した。


「その……はい。僕のスマホの時計が確かなら、ですが」


「じゃあ、実行犯は別の誰かで、江口君に罪を着せて殺したのか? アリバイのない奴。秦センセ? 他にもアリバイの怪しい……ヴィーガンさん?」


 千束さんが順番に指差してゆく。

 さっき阿部さんの言った『手当たり次第』、まさにその様子で。


「あんたこそアリバイなんかないじゃない! 『煙草の煙』? それが何よ!」


 落ち着きましょう! と僕は叫んだ。

 悠遠さん、早く、早く来てくれ――。

 そのとき、ラボのドアが開いた。


「お待たせしました。すみません、少々考え事をしていたもので」


 その声に、全員が入口を見た。

 彼女はゆっくりと入室すると、少し立ち止まって志木君の肩に手を置く。彼は背中を向けたままだった。

 そうしてまた歩き出すと、悠然と僕らの間を通り抜け、ラボの奥まで進む。

 融雪の果ての水がどうどうと落ちる、即席の滝を背にして。

 探偵・茨悠遠――その人は立った。


「さて――皆様お揃いのようですね」


 その一言で、その場にいた全員が――たじろく。


「少し聞こえていましたが、意見も出揃ったようです。煙草の煙もアリバイになりますよ。3Fテラスの映像は赤外と可視光によって、煙を吐いたときの特徴がわかりました。これは吐気に含まれる水蒸気量の違いによるもの。偽装するには蒸気と煙を出し分ける機械のようなものが必要でしょうが、『煙幕を出すもの』はに含まれ、セキュリティチェックで弾かれているはずです。しかし――」


 悠遠さんは、静かに千束さんを見据えた。


「私はここで、犯人を示して終わりにするつもりでいたのですが……あなたのお陰で私の仕事は面倒になった。『真鍋さんが黒幕』――面倒なことを考えてくれたものです。誰かが言い出し兼ねないとは思っていましたが、よりによってあなたとは――千束さん」


 彼女は、静かに怒っている。

 僕にはそれが解った。


「〝真鍋塔子黒幕説〟、全員の前でこれを完全に否定しなくてはなりません。そうしなくては、真相を知った後もあなた方はどこかで考える。『別に黒幕がいたんじゃないか』と。千束さんなら世論をそう誘導することも可能でしょう。それは彼女の知性、勇気、人間性の否定です。私の依頼人にそんな汚名は着せられない」


 ほう、と千束さんは猫背のままあごを突き出す。


「俺も随分高く買われたもんだ。だがま、探偵さんの言う通り。正味なとこ、俺っちは真実なんかより売れる記事を書くもの」


「約束していただけますか。〝真鍋塔子黒幕説〟が間違いだと理解されたら、あなたは二度とその考えを話さない。他の人も同様です」


 でも――それってそんなに簡単なことだろうか。

 黒幕が本当にいるとは思えないけれど、地上の惨状を見ればそう考えたくもなる。

「陰謀論を否定できると仰る?」と千束さんは挑戦的な視線を向け、「TFAは乗っ取られていた。そこにあのミサイルだぞ」。

 そう、ミサイルだ。

 あの攻撃の前と後とでは違う。組織、国家レベルの巨悪――陳腐な陰謀論が、今ではどれほど魅力的か。

 その上、殆どの証拠は消し飛んでしまった。今頼りになるのは、個々人の記憶だけ。

 ぽっかりと空いた頭上にあったはずの姿を如何に想像するかは――まぁ、自由だ。個人的な体験を拠り所に想像するのなら、地上はもうとっくに地獄だったのかも知れない。地獄とは気付かない程度の地獄を、僕らは生きてきた。アンバサダーは、多かれ少なかれそれを知る人達だ。ミサイルが地上を焼き尽くすずっと前から、小さなシェルターの中に秘密を隠して生きてきた人達。

 皆、壁の崩れる音を聞いて――怯えたのだ。

 彼らの心に開いた穴を、真実が埋めきることができるのだろうか。

 では、と彼女は全員に対して改めて宣言する。


「依頼人・真鍋塔子さんの遺志により、私はここで起きた奥村所長殺害、TIFA殺害、真鍋塔子殺害――これらの事件の真相をお話したいと思います」


「堂山や江口君の件は?」と千束さんが割り込む。続けて光堂さんが「ブッチーのことは」。

「真鍋さんは、未遂でなく……殺害なんですか」と阿部さんが疑問を口にした。


「はい。真鍋さんは殺害されました。世にも稀な長距離ミサイルによる殺人――しかしこれも、心情のみならず、刑法上の殺人と看做みなされ得る形で、でしょう」


 一同はざわつく。

 刑法上の殺人とは、おそらく殺意を以て行われたということだろう。巻き込まれたのではなく――。


「道義上、私が解決しなければならない事件は以上だけですが、私は他の死に関しても犯人に責任があると考えています。法的にはともかく、一般的には殺人と解される罪です。依頼された事件が明らかになったとき、これらの死にも一定の説明が与えられるはず――」


 犠牲者が多すぎますので、と彼女は顔を伏せる。

 しかしそれもほんの僅かな間だけで、すぐに顔をこちらへ向けて「本題にはいる前に」と言った。


「まず前提の確認しましょう。正面玄関アプローチと駐車場、警備棟までは複数の防犯カメラで死角なく監視され、事件前後にここで行われたことは全て明らかになっています。それにより、志木さん、真鍋さん、内田さんの供述は裏付けられています。特に内田さんは警備棟を出ておらず、鍵の貸し出しもないことから犯行に関与していません。つまり変電設備、DC棟、衛星中継基地にも人の出入りはありませんでした」


 それは内田さんに訊き込みをしたときにも聞いた話だ。


「万一、セキュリティをくぐり敷地に侵入した空想上の外部犯を仮定できたとして、施設への侵入に使えるドアはカメラに見張られており、外は猛吹雪で長時間留まることはできません」


 空想上の外部犯――G。

 仮の名を、ゲーデルとした。


「さて、この状況で、千束さんの仰る『真鍋塔子黒幕説』は打開策になるでしょうか? このアイデアの根幹は、真鍋さんが不正に鍵を発行し、それを合鍵として所長室の施錠を行うことで密室殺人を行った――そういうことですね?」


 そうだ、と千束さんは頷く。


「真鍋サンにはアリバイがあった。だが自由に動き回れる協力者がいれば不可能じゃなかったろう」


「確かに彼女はIDの登録や鍵の発行に関わっていました。実際にはNNN本社の決済が必要にしても、登録されるIDのリストは彼女を経由して受け渡しされていたのですから、それも可能だったかも知れません。どうしてもそれが重要になるのは、未登録のデバイスをこの施設に持ち込むことが不可能だったから――」


 ジオフェンスを掻い潜るには、真鍋さんの手助けが必須だった。

 しかし、と悠遠さんは続ける。


「お気づきのようにこの説の最大の問題は、所長室のドアを施錠できたのは所長本人のスマートフォンだけで、他の鍵となる機器の登録が為されていない事実を無視していることです。つまり、鍵を発行するだけでは現場を密室にすることは不可能で、錠前のほうにも登録しなければなりません」


 僕もついさっき、千束さんの主張を聞きながら考えたことだ。複製が不可能であることは、真鍋さんのみならず志木君たちの証言もある、科学的な事実であったはず。

 となれば、新たに登録した鍵で所長室のドア〝AD〟で使えるように申請しておく必要があったわけだけれど――。


「しかし私達がログを見たとき、そのドアの表示は〝AD(1)〟のままでした。誰が犯人であるにせよ、所長室のドアを施錠できる鍵は事件当時もたった一つであったのです。つまり、仮に真鍋さん、もしくは施設内の誰かが第三者を招き入れていたとしても、密室を構成できない――この点をどう考えますか」


「そ、そんなの、犯行後に戻しておけば――」


「犯行時から現在まで、ネットワークは障害を起こし、ここは全キャリアの圏外でもあります。セキュリティシステムの変更には、申請を上げてから承認まで時間がかかるものです。おっと、これを話してくれたのも真鍋さんではありますが、一般常識から逸脱するような説明ではありません。千束さんはよくご存知のはずでしょう?」


 もし追加の鍵を使えるようにして密室を作ったのならば、あのログの表示は僕らが見たときも〝AD(2)〟となっていたはずなのだ。

 仮にネットがあったとしても随意に変更できるようなものじゃない――千束さんは、会社名義のスマホがないと自社のシステムが使えないからと言って二台目のスマホを持ち込もうとした。それは、セキュリティを捻じ曲げてしまうような変更がいかに厄介であるかの、証左とも言えるのだろう。


「鍵がないなら所長サンが自分で鍵を締めたんだろ。堂山の言った通りだ。刺された所長は所長室に逃げ込んで、自分で――」


「奥村氏は背中を複数箇所刺されているのですよ。どこで刺されたのですか? 前室には血の一滴もありませんでしたが」


「そんなの、拭いちまえば――」


「前室の血痕は拭けたとしましょう。しかしその説では犯人は所長室には入れない。すると所長室の床はどうでしょうか? 所長室は、ドアから彼が倒れていたところまで足跡がなかったのです。前室で数か所も刺されていれば、当然相当量の血の足跡が残ったでしょう。また現場検証で、血痕を残さずドアロックに近づくことは不可能なことも確認しました。奥村氏は、彼が倒れた場所から一歩も動いてはいない――」


 うう、と口元を押さえた阿部さんがうめく。


「それじゃ――そんなの不可能じゃないですか」


 おや、そうですよ、と悠遠さんは軽く返した。


「この事件は最初から不可能なことばかりです。壊れるはずのないネットが壊れ、開くはずのない扉が開き、締まるはずのない鍵が締まり、消えるはずのない情報が消え、落ちるはずのないミサイルが落ち、あるはずのない鍵が現れ、死ぬはずのない者が死んだ」


 最後の言葉に志木君の背中がぴくりと反応して、キーを打つ音が止んだ。

 それを目の端で捉え、探偵はふと微笑む。


「志木さん、TFAのことではありませんよ。TFAは無事です。慌てず、こちらへ来てはくれませんか」


 TFAは――生まれるはずのない超知能だった。

 知るはずのないことを知るそれは、全てを知りながら、今も沈黙している。


「どうして言い切れるんですか。無事だと」


 悠遠さんは、背にした滝を親指で示す。


「これです。これを見て漏水を気にしていないのですから、TFAのメインプロセッサは液浸――それもおそらく冷却のためでなく、水分子の正孔キャリアチャネルを」


 オット、と声を上げて志木君が立ち上がり、「いくら当て推量でもソレ以上はさすがに。マッタク、油断も隙もないな――わかりましたよ」。

 志木君はそのまま諦めたようにラップトップをスリープさせ、立ち上がる。


「デ? 密室がどうとか。聞こえてましたが、バカバカしくて」


 何が馬鹿馬鹿しいんだよ、と千束さんが息巻く。


「ナニって、僕らは現場を調べたんだからわかるでしょ。所長は自分で鍵を掛けてない。合鍵なんて、あったわけもない。真鍋さんならどうにかできるカモ? なんて――ちゃんちゃらおかしくって」


 志木君が合流した。それはもう、小馬鹿にするような笑みを浮かべて。

 彼からすればそう、そうとしか思えない見解なのだろう。しかし千束さんも、それなりに必死で考えたことではある。


「――コレはそういう事件じゃない、ですよね? 探偵さん」


 探偵は頷く。

 ともあれこれでようやく全員が揃った――と言えるだろうか。

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