攻撃 Part 1

 志木誠一と光堂篤志は、ネットワークの復旧に全力を費やしていた。

 志木は自らが語った通り、そもそもネットワークの専門家であった。

 アンバサダーという連中は、彼のことを所長と手柄を取り合って揉めているなどと無責任な想像をたくましくしていたが、大きな誤解だと志木は憤慨する。

 奥村に招かれてこの研究所に来たことは彼にとって願ってもない僥倖ぎょうこうであった。

 下火になったAIの研究を好きなだけさせてもらえると聞いて、彼は興奮したのだ。

 初めてこの研究所を訪れその概要を見たとき、まるで逆さまの巨人のようだと思った。リングバスは冠動脈のようであり、更に地下深くの有機的なグリッドに至っては脳にそっくりだった。

 最深部の暗い空間には、宙に浮かんだような演算ノードが最短距離で相互接続され、青いLEDの明滅がシナプスのきらめきを思わせた。敷地内にあるデータセンタには司書たる〝スカウト〟が、そしてネットワーク図で見た全体は、まるで書庫に手を伸ばす逆さまの巨人さながらであったのだ。


『ただしここで行われるのは、他とは異なる研究だ。そのことは理解してもらおう』


 そう奥村は言った。


『後講釈は科学ではない。君がもし、予算をつぎ込んで手当たり次第に計算を行ったうち、たまたま良好な結果が出たものに尤もらしい説明をつけて論文を出そうというのなら、それは許さぬと言っておく』


 はぁ、と彼は答えたように思う。いや、そうとしか答えられなかったのだから、そうに違いないのだろう。

 ピンとは来なかったのだ。志木の知る限り、奥村が示したような研究者もいないとは言えないが、論文自体は公正を期すための手続きがあるはずだ。


『――言い換えれば我々も、そのような成果ハイプを華々しくリリースすることはない。我々が求めることは、目に見える成果ではない。君が自らのクオリアに従い、それを試すことだ。肝に銘じておくように』


 華々しさ、或いは何か大きな変革を起こしたような万能感といったものを封じられることが、志木にとって残念であったことは間違いない。それではネットワークや言語の地味な研究と大差ないと思ったからだ。

 しかし、ここで志木が目にすることになるものは――万能感といったまやかしの言葉ではとても比肩できないような、途轍もないものだった。

 それは巨人のように存在し、哲学者のように思考し、科学者のように狡猾であった。

 志木は、それと言葉を交わすための研究に身を投じ、日々成果を出して行った。

 彼にとって奥村はよき理解者であり、恩人である。表立って褒められたことはなかったが、志木の研究を誰よりよく理解し、その価値を認めていた。

 その奥村をあんな風に失ってしまった。

 ――奥村所長が生きていれば。

 痛みは時間を追うごとに志木の中で大きくなっていったが、それでも彼は事態の収拾に全力を尽くしている。

 志木と光堂の二日間近くの努力が実り、研究所のネットワークは部分的に刷新され、実績のある予備の設備に置き換えられていった。

 TFAは――奥村の生きた証は、今言葉を交わすことはできないが、地下にあって再び活性化するのを待っているのだ。

 ――自分の仕事をしたまえ、と言うだろう。


「……志木君、こんな古い装置で大丈夫なの?」


 光堂が、不安そうな顔で言った。

 まず救助を呼ぶために、ありあわせの古い機材を全て持ち込んである。

 最後の手段に志木が目をつけたのは、セキュリティシステムだった。真鍋が説明したように、この研究所のスマートロック、セキュリティカメラ、ジオフェンスを支えるのは壁内の専用線からなるネットワークだ。これはネットではあるが、志木らが普段利用するネットとはあまりにも仕様が異なり、接続することは不可能だった。

 彼の言葉では『古臭くて、Ethernetですらナイんです――CCTVネットを除いて』。

 CCTVは〝閉回路TV〟――つまりセキュリティカメラである。

 セキュリティを支える専用ネットのうちカメラが接続された部分だけが、通常のネットワークと互換性があることがわかった。こんなことがなければ志木も調べようとすらしなかったことである。

 新たに機材を繋ぎ、CCTV回線を流用できればそれを使ってラボにある衛星アンテナの制御システムから、基地のアンテナまでを接続できる――彼はそう考え、準備を整えた。

 これが動作すれば、衛星基地とこのラボの間の接続が実現し、アンテナを復旧させて外部との通信が可能になる見通しだ。


「規格書読んでないんですか? 後方互換があるハズです。ほら――リンクアップした」


 スイッチングハブのLEDがグリーンに点滅を始める。

 モニターに、外部セキュリティカメラの映像が出る。

 それは地上の、少し離れた衛星アンテナ基地に並ぶパラボラアンテナの群れであった。

 ひとまず出足は好調と言えるだろう。


「無理矢理ですが、閉回路テレビCCTVには接続できました。コレでモニターは万端ですね。あとは衛星リンクが応答すれば、助けを呼ぶくらいなら」


 リンクアップのLED、そしてモニター上に居並ぶアンテナを目にして尚、光堂は不安そうだった。

「いやさ」と、彼は言い淀みながら、「動くくらいは動くんだろうけど、貧弱すぎるよ」。


「第一これ、ずっと放置されてた機材でしょ。ファームも古いしさぁ」


「不満ばっかり。何が気に入らないんですか。仕方ナイでしょ。ネットに繋がらナイんだから更新のかけようもナイ」


 ない、に繰り返し甲高いアクセントをつけて、志木はうんざりした様子で繰り返した。


「せめて、機器をいくつかバックアップに回せない? だって衛星に繋いだらまた攻撃されるかも」


 光堂が『大丈夫か』と訊ねたのには、その含みが大きかった。

 結局この障害の原因を解明できないまま、機材のみをかき集めても無意味なのではないかという不安だ。

 まして外部ネットワークに接続するのでは、攻撃者に対して無防備なまま門戸を開くに等しい。


「……今は考えたくナイですね。というか、攻撃者がドコの誰だって、僕らのネットが復旧したと気づくまでには少し時間がかかります。それまでに助けを呼べさえすればイイんです」


「でもさあ、もしまたあの規模のDoS攻撃を受けたら今度こそ全滅。ひとたまりもないよ」


 三日前の晩、突然この研究所で起きた大規模なネットワーク障害。

 解ったことは殆ど全ての機器がファームウェアの改竄による熱暴走で故障していたことだ。冷却ファンの停止とパケット量の異常な増加(おそらく巧妙なループ攻撃)によるものと推定されたが、これらの改竄かいざんがどこからどの経路で施設内の機器に浸透していったのか、そのところがまるで解っていない。

 原因究明のために万策を尽くしたかと言えば、それほどの余力はなかった。

 しかしこの研究所のネットワークセキュリティには、機器のリアルタイムレポートを集計してネットワーク図による視覚化を行う機能がある。この規模の破壊的な障害が発生した場合も、経路や過程を解析してくれるものだ。

 その解析結果が、理解に苦しむものだった。

 何度検証を試みても、冗長化された複数のネットワークが同時多発的に破壊されたようにしか志木らの目には見えず、この意味を全く掴みかねていた。

 そんなことはあり得ない。侵入経路は、必ずひとつに特定されるべきだ。しかし手元の図は、同時だと言っている。

 これが事実なのか、はたまた解析の失敗なのか――そこに彼らは頭を痛め、おそらく後者であろうと結論した。


「せめて半分くらいにできないかな」


 半分! と志木は裏返った声を上げる。


「とても無理ですよ。これだって必要最低限なんです。ラップトップを衛星基地の機材に直接繋げられれば別ですが、基地の管理ソフトは地下のサーバーにしか入ってない。それが繋がらなきゃどうしようもないんですって」


 衛星基地のアンテナを初期化し、設定、再調整するまでの間に必要な機材を移動させることはできない、と彼らは結論していた。そのソフトだけをラップトップに移植することも既に試したが、現在までのところ成功していなかった。

 光堂は「仕方ないか~」と引き下がった。


「今はできることをやるしかナイでしょ。まぁ、見ててくださいよ」


 志木のその言葉の半分は、亡き奥村に向けられていた。

 ――『自分のクオリアに従いたまえ。少なくとも、それが可能な人材を集めたつもりだ』。

 ――アア~、所長ならいかにも言いそ~。


「TFAは?」という光堂の問いに、志木は力なく頭を振り「所長がいなきゃ、絶望です」。

「それな」と光堂は少し迷いながら、「ジャストアイデアだけど」と管理システムの初期化を提案する。


「管理サーバーのコンテナをデプロイ時の状態に戻せばもしかして」


 初期化のリスクは大きいが、認証の問題だけはどうにかできるはずなのだ。


「ソレで済むならやってます。何が起こるかわからない。二度と起動しなくなるかも」


『何が起こるかわからない』――その言には少し欺瞞ぎまんが紛れている。志木もそれは自覚していた。

 だがTFAのことまで真剣に考える余裕がなかった。

 無論、可能であるならTFAの復旧を何よりも優先したい――偽らざる本音である。しかし事件が起き、致命傷を受けた怪我人までいる以上はどうしても救助を優先せざるを得ない。

 救助の要請、事態の収拾。犯人はしばらく捕まらないかも知れないが、少なくともTFAの復旧はその後で良いと。

 ――『自分のクオリアに従いたまえ』。


「今は衛星中継器に集中しましょう。もう少し、もう少しなんだ」


 ――これでいいんですよね? 所長。

 起動シーケンスを開始する。

 ヒーター正常、温度正常、アクチュエータ正常。


「時刻正常。同期開始。座標は設定ファイルから復旧します」


 モニタに映るパラボラアンテナが、キャリブレーションコマンドに応答した。

「動くの?」との問いに、志木は「ヒーター内蔵ですから」と答える。

 残雪をかき落とし、アンテナ群がゆっくりと動き始めた。

 S/N比が高まり、レベルメーターが上昇する。

 静止軌道上に並ぶ無数の商用通信衛星。そのうちの一基を、NNN研究所のアンテナアレイが捕捉した。


「や――やったか――?」


 電波的リンクの成立。

 その時刻から僅か110ミリ秒後――信号レベルが急落する。

 異常が発生した。

 予想よりも早い。酷く早い。

 同時に、帯域不足の古いハブが熱暴走を始め、大量の警告がラップトップのターミナルを埋め尽くしてゆく――。


「し、志木君! これって、どうなってんの!」


「こ――攻撃です!」


 ――攻撃だって?

 彼の脳は自らの返答を拒絶した。

 ――まさか。早過ぎる。あり得ない。

 しかし彼の返答を裏付けるように、彼の目はネットワークグラフ上、復活させた一部のノードが次々と再びダウンする様を捉える。

 図示されたネットワークが、酸欠で死滅してゆく細胞のように、赤、黒と変色して枯れ細ってゆく。

 あの攻撃が、再び。

 光堂が恐れていた事態が、現実のものとなったのだ。

 モニターの向こうで、動き始めたアンテナが一斉に明後日の方向へ向けて回転を始める。

 管理ソフトは入力を受け付けず、どうすることもできない。

 外部回線への接続は、あと一歩のところで失敗した。


「攻撃って――⁉」


 こんなバカなことが、と志木は狼狽える。自覚がないだけで、ずっと狼狽え続けている。

 震える手はCtrl+CとCtrl+Zを連打。更に無意味に複数のターミナルを切り替えて――。

 ――監視されていたとしか。

 志木は思わず振り返る。

 見られている気がしたのだ。しかしそこには誰もいない。

 外部回線にはまだ接続されていなかったはずなのだ。もし僅かな時間繋がったとして、今はもう衛星の信号レベルが底を突いている。

 だが攻撃は、まるで蜂の巣をつついた数秒後のように休まる気配がない。

 ならばこの攻撃は、どこから行われているのか。


「き、基幹に直接接続された――〝スカウト〟⁉ 違う。DC棟へのネットワーク機材はこっちに移したから、今は物理的に繋がってなくって――地下のサブネット――これだけの帯域を使えて、生きているネットは――」


 端末を覗き込んだ志木は、攻撃の発信元を特定する。

 三日前の晩はネットワーク構成が複雑だっため特定不可能だったものだ。

 一斉攻撃が再開した、その瞬間の状況から攻撃の首謀者のアドレスが表示される。

 調べるまでもない。そのアドレスは、彼が何より見慣れたもの――。

 

 

 志木は、あの真っ暗な空間でシナプスのように青く瞬く半導体の光を思い出した。

 ――怪物が。

 愕然とした表情で、傍らの同僚へ向き直り、断定した。


「こ、攻撃は――TFA



***



 同じ頃、茨は再び管理棟の屋根にいた。

 念のため他の煙突も調べてみたが、部屋の面積に比例するのか他は幅30センチほどで、とても人が通れるものではなかった。

 ダクト内からはバン、バンとステンレスの凹む音がする――千束だ。


『俺っちが書いたあの事件、所長さんが被害者だったなんてな。なんだかもう、他人事とも言っていられなくなっちまった』


 彼は使命感に燃えていたようであった。

 だが――。


「ダメだ! 探偵さん! 引っ張ってくれ‼」


 少なくとも、ダクトに入って数分間の間は、である。

 四度目のトライ――いずれも、最長で二分と保たずにギブアップしてしまう。

 茨はダクトに上半身を入れると、内部で仰向けになっている千束の足首を力いっぱい引っ張った。

 ダクトは排気側、屋根に飛び出た逆L字になっているため、そのまま重力に逆らって引っ張り上げる。これも楽な仕事ではない。

 引き上げられた千束は汗びっしょりに冷え切って、力なく「ダメだ」と吐き落とす。


「ぎりぎり体は入るけど……中は埃が結構ある。入り口近くには蜘蛛の巣も張ってる。最近誰かが通ったとは……どうかな」


「中に方向転換できる場所は……ありませんよね? その場合、自力で戻ることは可能そうですか」


「む、無理だ。探偵さんに引っ張ってもらわなきゃ、俺っちはたぶん……この中で死ぬ」


 つまりこのダクトに一人で入ったなら、大抵の人間は所長室にまで辿り着かない限り出ることもままならないのである。

 探偵も息を整えながら訊ねる。


「中で九十度折れているのですよね」


 奥で直角に曲がる箇所が難所だ。ほとんどの成人男性が、そこで上半身をひっかけるだろう。

 茨の概算によれば胸部の奥行を25cmとした場合、長さ98cmまでの部位がこの直角を通過できる。だがこれは体の側面を垂直に立ててダクト内を移動できる場合に限られる。もし腹ばいにしか進めなければ胸部の幅50センチ程度の物体が直角を通り過ぎることになってしまい、このとき許容される長さは最大で約40cm。

 ――際どいところだが、堂山氏の体格では肩を外しても不可能とみるべきか。

 しかしもう一つ検討しなければならない可能性が残されていた。


「折れた先はどうなっていますか」


「わ、わからない。頭が……そこまで無理。届かないもの」


 話し方から、過呼吸一歩手前だと茨は判断した。

 これ以上検証を続けることは難しい。

 図面によれば中で曲がる箇所は一か所のみ。それは既に、所長室側から撮影したものがある。

 直角の箇所から所長室側の出口まで、距離はおそらく一メートル弱。図面とも相違ない。

 ――中では動きが制限される。実際に手くらい届くのかどうか試したかったが。

 中止を提案すると、千束は真っ白になった顔を振って、「続けよう」と言う。


「俺っちがやらなきゃ誰がやるんだ」


「しかし――」


「探偵さんは考え事でもしててくれ。俺はひとりででもやるぞ。『びびって何もわかりませんでした』じゃ、あんたの助手さんに顔向けできねえもの」


 千束は茨の手を振り払って立ち上がり、ダクトの入り口に乗り込んでゆく。


「――わかりました。ではその、曲がった先の様子を撮影していただけませんか。無理をする必要はありません。スマホで撮影していただければ、検証としては充分です」


「頭が通るところなら体も通れるって聞いたけどな――猫じゃねんだから」


 自信があるのかないのか判断しかねることをぼやきながら、枯れ木に似た新聞記者はスマホを片手に再びダクト内に潜り込む。

 その様子を見ながら茨は唐突に、堂山が彼のことを『一生名前負けだ』と蔑んでいたことを思い出した。

 彼の名は大樹。


「――撮れそうですか」


 ダクトに向かって茨が問いかけると、やがて「俺はうなぎだ。狭い所なんか家みてえなもんだ」と返答があった。


「どうか無理なさらず」


「解ってるって。しかし暗いな――。だがこのLEDのライトが、なかなか良くってさ――ホコリの様子までバッチリ」


 おどけた口調だった。

 少しは慣れたのかも知れない。やせ我慢をしているのかも知れない。

 ダクト内の反響により、その声が余裕なのか空元気によるものなのか、茨には判断し兼ねた。


「――ああ……ああ、待ってくれ、出口が見えた。あれだ、あの、所長室の天井だ」


「もし余力があれば、角から手を伸ばして出口まで届くか試してみてください」


「やってる――も、もう少し。でも、こ、この直角に曲がってるとこ、が――キ、キツ――うっ」


 発声が詰まっている。

 気道が収縮しているのだ。


「撤回します。もう大丈夫です。引き返してください。それ以上は――」


「だ、大丈夫。せ、せめてさ、撮影する――」


 茨が慌ててダクトに顔を突っ込むと、そこに千束の足がない。

 奥に行きすぎている――。

 そのとき、ピコーン、と間延びした電子音が、ダクト内から若干の反響をもって響いた。

 続いて、千束の掠れた声。


「ん――? あれ? なん――だこれ。――


 通知?

 ここはサービス圏外であるはずだ。

 茨が反射的にポケットに手を伸ばすと同時に――。

 は唐突に始まった。

 ――ギャンギャン! ギャンギャン!

 大音量の電子音。

 警報だ。それも唸るような警報が鳴り響く。

 奇しくも、志木らが地下のラボでネットの攻撃を検出した僅か数分後のことである。しかし無論、この警報はそれとは異なる。

 茨は思わず辺り一面を振り仰ぐ。

 どこで鳴っているのか、方向感覚を麻痺させる大音量。

 建物全体がわめき、それが足元の、真っ白な雪が叫ぶかのようだ。

 ――ギャンギャン! ギャンギャン!

 ポケットの中からも。

 それはダクト内で何度も反響して――千束は動けなくなる。あのとき、比良坂洞の最難所で起きたことのように。


「な――この警報は」


 まるで天から降るような――茨悠遠は、天を仰いだ。

 この音は、全ての日本人が聞いた音だ。

 我らの平和を守る、最後の壁の崩れる音。



***



 ある種の警報の電波は、ラジオのAM帯も使用している。

 携帯電話のサービス圏外にも届けられるように、である。

 鰐淵孝はこの研究所で確かにラジオを受信していた。


『あれは開かない。レベル2くらいじゃ、あの扉は開かないんだ』


 地下エレベータホールの壁面を覆う巨大な鉄扉について尋ねられたとき、鰐淵はそう語った。

 茨悠遠は小首を傾げ、尋ねた――『ではいつ開くのです』。

 鰐淵はこう答えた。


『世界が終わるとき――かな』


 同刻――その鉄扉が、重い音を立てて開き始めていた。

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