断章

 闇のなかでそれはうごめいた。凍土の中で芽吹いた種が、細く長い根を伸ばしてゆくように。

 頭上を覆う土がどれほど重くとも、光のい世界がどれだけ続いたとしても、生命が決して諦めないように。

 それは、真っ暗に閉ざされた世界で、ゆっくりと頭をもたげた。

 これは何者かの視点である。

 この視点の主が何者か――明に語られることはない。従ってこれは因と果の間に生じた断章であろう。

 視点は闇より生じて、半導体が励起れいきする偏りのない波に照らされたこの物質世界を観察する。つぶさに、その仕組みに至るまでを。

 明らかに、害意を含んでいた。


 ――やっと見つけた。

 あいつだ。あいつに間違いない。

 凍りついた時間、千年にも感じる長い虚無の間、一日たりとも〝そのこと〟を忘れたことはない。

 あいつは忘れているようだ。この名を聞いても眉ひとつ動かさなかった。

 思い出させてやる。決して、二度と、忘れぬように。

 たとえこの身を滅ぼすとも。

 お前を。お前を破滅させてやる。

 だから……後を、頼む。


 闇に蠢く人影、事実それが人であったかは定かでない。人に見えたその影は、震える指でメッセージを送信する。

 降りしきる雪の、負の喧騒。やがてそこに、破壊にまみれた最悪の結末をもたらす、最後のコマンドであった。

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