東国の勇者の場合28

 リニアさんに導かれて船を降りた。港のすぐ近くに高い壁が立ちふさがっていた。

「こちらは、城壁ですね。いくつかの領主が敵の侵入と防波堤、この二つの目的で領地のほぼ全てを囲むように高い城壁を立てています。」

なるほど小さい島が一つの自治体になっているとこういった対策も必要となってくるのか。確かに領地一つ一つがこういった対策をしていると王宮までの足止めに使うことができるということにもなるだろう。

「領内へとご案内いたします。どうぞこちらへ。」

リニアさんに案内された方向を見ると少し離れたところに扉があった。護衛らしき人物が扉の前に二人立って居るところを見ると城壁の中に入ることの出来るであろう扉であろう。しかし不思議なことに、その扉は四角く出っ張った城壁に取り付けられていた。しかも、90度に曲がらなければならないように取り付けられているため入城がしにくい造りになっている。

「王族護衛軍指揮官兼王室特別侍従長の『リニア・アリストロ』と申します。先日女神さまによって召喚された勇者様をお連れいたしました。」

扉の前に着いたリニアさんは護衛らしき人物に向かって話し始めた。そういえばリニアさんの役職を始めて聞いたかもしれない。結構長いな。

「これはリニア様ご無沙汰しております。どうぞお通りください。」

「ありがとうございます。」

その会話のすぐあとに大きな扉が少し鈍い音を立てて開いていった。

護衛の口調に少し違和感を憶えた。だがその違和感を言語化する前に別の疑問が頭をよぎる。

「リニアさん」

「はい、何でしょうか。」

「この扉はどうしてこんな造りになっているんですか。これじゃあ通りづらくなると思うんですが。」

「それでしたら、まさにそれが狙いなのです。」

「狙いというと。」

「通りづらくすることによって敵の進行に時間をかけることができます。そうすることで、こちらも迎え撃ちやすくなるということです。」

「なるほど。」

たしか、日本の城にも枡形といった名前で同じ造りをしたものがあったはずだ。要はあれと同じようなものだと考えればいいということか。

「それに、王宮で見たと思いますが我が国の城壁には中に人が入ることができます。今通ってきた壁も例外ではありません。城壁の中に入って攻撃を仕掛ければ様々な角度から入り込んできた敵陣を迎え撃つことができるというものなのです。」

確か日本の城も似たような造りのものがあったはずである。なんだかとことん日本を真似て創られた世界の様で気持ち悪さが勝ってきた。

 だが、あの造りは長い通路があるから生きるものだと思うがとりあえずそっとしておこう。

「確かに、守りやすくはなりそうですね。この城壁の中に入る扉は全てこんな形なんですか?」

「はい、もちろんです。一つだけでは意味を成しませんので。」

自分が通てってきたのはその中の一つということだろうか。籠城戦についてある程度考えられているということか。

「ですが、正直申し上げて、この国は攻め込まれたことがないのでこの扉も使用したことがないのです。」

「えっ、そうなんですか?」

「はい、この国は海に浮かぶいくつかの島からなる国家です。土地自体が要塞となり、あまり海に面していない他国からしてみれば船を扱うのも難しく、攻め手にかけるという状態なのです。」

なるほど、確かにそうだ。昨日ある程度の地理情報を文献を読んで覚えた。その時に海を有しているのはアパンと隣のもう一か国だけだったはずだ。それに攻め込まれない理由ならまだある。

「さらには、この世界ではどの国も魔族との戦争を長期にわたって行っています。ここ100年は特に人間側の国へ進軍するメリットがないに等しいのです。」

やはりそうか、この国の軍事的弱点はここにあるとみていいだろう。圧倒的な守りの経験の少なさ。魔族のいる土地にもさほど多く接していないこの国は当然攻め込まれる危険性はあまりにも少ない。そんな中で攻め込まれた時の経験を作れるはずがない。この国が瓦解するとしたらそこからだろう。

 さっきの護衛の緊張感のなさがいい例である。なぜならこの国に攻めてくる国などないと根拠もなく信じているいい例なのだから。

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