東国の勇者の場合14
武術に心得がある人間に、目のいいだけの人間ができる行動はただ一つしかなく。連続で浴びせられる攻撃をただただ躱し続けるのみだった。そのままでは、体力を消費し続ける一方で勝利のためには何か変化を起こす必要があった。
しかし、足りない頭で考えてみても良い手は一切思いつかない。さらには、この部屋の暑さである。その暑さがより体力と思考力を奪ってゆく。
疲れて動きが鈍くなるし、頭もぼーっとしてきた。このままでは倒れてしまう。そんな考えも頭をよぎった。その瞬間目に汗が入ってしまった。
汗で目がしみて、本能的に一瞬、目をとじる。次に開けた瞬間には、目の前に右拳があらわれた。
目を開けるとそこはこの世界に来た時と同じ部屋だった。ディティールの細かい家具が数点、部屋に並べられていて、自分はその部屋のベッドに寝ている。配置も何もかも一緒だった。
唯一違う点があるとすれば朝日が夕日に勝っているということだろう。窓の外を見ると太陽を見ることはできないが、夕焼けだけを確認することができた。
いきなり扉があいた。
「お目覚めになられたのですね、勇者様。」
このワンシーンも朝にこの世界で見た気がする。
やっぱり扉よりも襖の方が好きだと再確認できた。ついでに言うならベッドではなく布団の方がなおよい。
リニアさんがこちらへ近づき、ベッドへ腰かけた。
「僕リニアさんに負けてしまったんですね。」
ちょっと俯きながら言ってみた。
でもまぁ、我ながら素人が善戦した方だと思う。しかし、勇者と名の付く人間が心得のあると言え本職の軍人ではないメイドに敗北したとなるといったいどんな風に見られてしまうのだろうか。考えたくもない。
「ええ、そうですね。」
優しい口調での肯定ここから慰めてもくれるのだろうか。だがメイドに負けた勇者というレッテルは変わらないだろう。ここでの生活に大きく影響するはずだ。さてどうしたものか。
「ですが、アパン最強の武人と恐れられたこの私の拳を何度も見切られたのです。それは誇ってもよいことかと思います。」
他人のこういった慰めは心に残るもである。まぁ、感謝でもした方がよさそうである。
それにリニアさんは最強の武人らしいそりゃあ負けるのも当、、、然、、、
んっ!?今この日となんつった。リニアさんがこの国最強の武人!?えっ、すいません言ってる意味がマジでわかんないですけど。
「どうされました?随分と呆けた顔をしてらっしゃいますが。」
「いやぁ、なんか最強の武人という言葉がリニアさんに全然似合わないと思いまして。」
「あぁ、そのことでしたら昔とだいぶいんしゃうは違うと思いますので。最強の武人と呼ばれていたころにはもっと髪を短くしておりましたし、当時よりもだいぶ筋力も落ちましたので。」
にっこりと笑顔を向けてこちらを見つめてきた。
だが納得はできる。あれだけ過酷な訓練場に入って先に訓練していた人間たちから全く苦情が出てこなかった。それに周りのあれだけの食いつきようである。
『国内最強の武人と異世界から来た伝説の勇者』
とんでもないマッチアップがあの場所で実現していたのだ。軍に属し、戦闘の経験のある者なら見てみたいと思うのは当然の摂理だろう。それに極めつけは猫だましだ。唯一リニアさんだけが猫だましに動じなかった。
えっ、この人何なの。
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