東国の勇者の場合4
目の前には十数段ほどの階段が存在し、その頂上に1人用の椅子があった。その上に座っているのが、おそらくこの国の王なのであろう。見た目は西欧の国王というよりかは古代中国の国王と言った方が会っている気がした。
だが、服のデザインはどこか洋風な雰囲気も感じて和洋折衷、いや中洋折衷と表現した方が正しいか気がするが、とにかく不思議な雰囲気であることには変わりな。
口周りに蓄えている立派な黒いひげがそうさせているのか人が出すことができるのかわからないほどの威厳に満ちあふれていた。
リニアさんは突然跪いて頭を下げた。自分も見様見真似それに続いき、頭を少し上げ様子をうかがった。
「国王陛下、勇者様を連れてまいりました。」
「うむ、ご苦労。大儀であった。少し、勇者殿と話がしたい。」
「かしこまりました。」
リニアさんは立ち上がり、自分の少し後ろへと周る。そして先ほどと同じようにまた跪いてしゃがみ込んでいた。
「よくぞ参られた、勇者殿。感謝する。」
鋭さを含んだ眼光がこちらを向いた。少し緊張感が走るがだが、不思議と威圧感のような嫌なものはなかった。自分は反射的に頭を下げ会釈をしていた。
これがこの国で正しい行為なのかはわからない。だが日本人的な習性が出てしまった。正しい行為あるか、この国王が寛容であることに期待するしかない。
「私はこの国の統治している第42代国王イエスティル・オーディというものである。よろしく頼む。」
表情は微動だにしなかったが口調は温和であった。まだ首は繋がったままでいれるらしい。
「私は名を、アズマネ・ケンマと申します。異界の地より勇者としてゆうしゃとしてこの国に召喚されました。今回、国王陛下へと会えましたこと、私も大変感謝しております。ありがとうございます。」
「そうか、よくぞ名乗ってくれた。アズマネ・ケンマか良い名だな。そういえば異界の者は姓と名が逆であったな。アズマネは姓の方でよいか。」
「はい、さようでございます。」
「そうか、ならばケンマ・アズマネそう名乗るがよい。その方が何かとこちらで過ごすには便利なはずだ。」
「はいっ、お気遣いありがとうございます。」
「それでは勇者殿、早速本題なのだが。」
声のトーンが少し下がる。それに呼応するかのように緊張感が一気に増し、空気が一瞬でピリつくのを全身で理解させられた。
これが国王という存在。本能で感じ取るにはあまりにも時間が長過ぎた。
「そちには勇者としてわが国王軍に加わってもらいたい。」
「軍に、、、ですか?」
「あぁ、そうだ。何か不満か。」
「い、いえ。不満というより、疑問なのです。私は異世界から召喚されたばかりでこの国、さらには、この世界の知識がございません。しかも剣術をはじめとする戦闘術も全て経験がございません。はっきり言って素人です。そんな私が軍に加われるものなのでしょうか。」
国王は少し不思議そうな顔をした。
「リニアよ。」
「はっ」
後ろにいたリニアさんが立ち上がった。
「どういうことだ、何も知らんのか。」
「恐れながら、勇者殿は転移の時の後遺症で記憶を一時的になくしているのかもしれません。」
「何故そう思う。」
「これまでの勇者様は『転移の直前に女神さまにお会いして加護を授かっているそういった記憶があると話される勇者様がほとんどである』そう記録に残っていました。」
「しかし、この者は違ったと。」
「はい、さようにございます。」
「なるほどの。しかしだ、だとしたら何故お前は最初にそれ私に言わぬのだ。」
「申し訳ありません。確証がなかったのとの記憶をなくしたという前例が無かったものですので。」
おいおいおいおいおい。今の話の中にどれだけの情報があるんだ。はっきり言って女神にあった記憶なんてないし、加護とやらももらった記憶なんてない。
しかも今回が初めてってことは普通は記憶をしっかりと保持してくるんじゃないか。いったい何が起こってるんだ。
やばいはっきり言って思考が追い付かない。しかも、記憶がないことを悟られていた。いや、まぁ思い返せばそうとも取れないような発言ではあった。さすがにうかつ過ぎた。リニアさんはもっと警戒しておくべき人間だった。
だが、ばれているのなら仕方ない。そう思い急に立ち上がって見せた。
「そうです。私には記憶がございません。ですから、聞きたいのです。異世界では普通の人間であるこの私が勇者として戦えるのかを。」
開き直ってこの国王に舌戦でも仕掛けてみよう。できる限りの情報を掴むために。ここでの国王との交渉で自分の運命がきまる。ならばこの場はできる限り有利に進めたい。
そう思ったのもつかの間、首筋に冷たく鋭い金属の感触が出現した。
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