6 関と橿原 ――滝岡総合病院――
病院の壁に背を凭れさせて長椅子に座り、目を閉じて関は動かずにいた。その脇には、巻き手にハンカチを結びつけたままの鉄の棒が置かれている。
「何があったのか、聞かせてもらえますか?」
その前に立つ橿原に、関が目を閉じたままで答える。
「俺が、…声を掛けてれば」
「関さん」
「鷹城を見かけたといいましたよね?でも、声は掛けなかった、…。声を掛けてれば、もしかしたらこんな風に、」
「君がそう思うだけの根拠が何かあったのですか?関さん」
「…わかりません。…橿原さん、」
そうして、目を開けて関が橿原を見あげて、どこか泣きそうな頼りなく拠るべを失くしたような眸で見あげる。
「全然普通に見えたんですよ。…だから、けど、」
「それでも、君は何かがおかしいと思った。だから、警察に戻った後も、こちらに鷹城君がいないということに疑問を持ち、僕を探した。携帯にも掛けてみたのでしょう?」
「…何しろ山奥だから、電波が届かないのかもと思ったんですが」
言葉を切り眉を寄せて、俯く関に橿原がその前で、しずかに話しかける。
「君がそうして僕に声を掛けてくれたから、そうして、あの場所まで探しに行ったから、鷹城君を救出できたのです。そうでなければ、彼は溺れて死んでいたでしょう」
「…犯人は、殺すつもりだったんですか?鷹城を?」
衝撃を受けたように顔をあげていう関に、橿原が答える。
「いえ、それはまだわかりません。あの小屋に監禁し、それからどうするつもりだったのかは。ダムの放流まで計算していたかどうかはわかりません」
「…―――」
関が無言で目を閉じ、俯いて額を押さえる。
「関さん」
「それは、恐らく鷹城の血です。鍵を叩き壊すのに使っちまいましたが、」
「指紋がついていても、消えてしまったかもしれませんね」
脇に転がされた鉄の棒をみて橿原がいう。
「…――――」
頭を抱え、俯いてきつく目を閉じている関の傍らに、橿原が座る。
「鷹城君の容態が変われば、教えてくれるそうです」
「……―――」
関がくちびるを咬み、髪を握る手に力を込める。
壁に背をつけ、綺麗な姿勢で目を閉じた橿原を隣に、関もまたそうして動くのを忘れたようにして、唯音のしない病院の廊下に無言でいた。
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