第28話

 平良門は、父・平将門の遺志を継いで、その足跡を辿るかのように、さらに強力な妖怪たちを使役し、名を高めていきました。しかし、その名声が大きくなるにつれて、彼を試すかのように、さらに強大で謎めいた存在が現れるようになった。それが「毛羽毛現けうけげん」という妖怪でした。


 毛羽毛現は、荒れた洞窟や湿地帯を根城にしている、目に見えぬ怪物で、その正体は誰も正確には知らないと言われていました。彼は、かつて戦場で兵士たちを次々と消し去ったと言われ、その姿を見た者は皆、目を凝らしてもその影すら見えず、ただ奇怪な音が響くだけで、恐怖がひしひしと迫ってきます。毛羽毛現の力は、特に暗闇や湿った空間で増大し、物理的な力を超えた何か恐ろしい霊的な力を使うことで知られていました。


 平良門が毛羽毛現に挑んだのは、ある夜、湿地を通る際でした。そのとき、平良門の側には、土蜘蛛、鵺、輪入道、餓者髑髏、そして低地の大蛇が従っており、彼らの力を借りることはできましたが、毛羽毛現という未知の存在は、誰一人としてその手がかりすら掴むことができませんでした。


 湿地の霧が深くなり、周囲の空気が急に冷たくなった瞬間、平良門はその異変に気付きました。足元が急にぬかるみ、霧の中に何かが動く気配がありました。突然、鵺の凄絶な鳴き声が響き渡り、平良門の側にいた妖怪たちが警戒を強める中で、その闇の中から毛羽毛現が現れたのです。


「毛羽毛現、貴様の正体を見せろ!」平良門は叫びました。しかし、その言葉に対して、何の返答もありません。ただ、湿地の霧の中から、無数の影がうねり、霊的な力がじわじわと周囲に広がっていきました。


 そのとき、土蜘蛛が鋭い触手を伸ばし、霧の中を探ろうとしましたが、触れたその先には何もなく、ただ霧が強くなるばかりでした。一瞬、霧が晴れたと思った瞬間、突然大蛇がその体を震わせ、猛然と進み始めました。しかし、その動きはすぐに止まり、見えぬ力で引き戻されてしまいました。毛羽毛現の力が、まさにこの湿地全体を支配しているのだと、誰もが感じ取ったのです。


 平良門は、輪入道に指示を出しました。「輪を使え、霧を引き裂け!」


 輪入道が巨大な輪を振り回すと、その輪が魔力を帯び、霧を打ち払うように空間を切り裂いていきました。しかし、毛羽毛現の存在は、それに合わせて無数の幻影を生み出し、輪の周囲に現れた姿は、次々と消えていきました。


 平良門の心は次第に焦りを感じ始めました。毛羽毛現は、物理的な力では捉えられず、その存在そのものが悪夢のように揺れ動くのです。その瞬間、どろろが不意に呟きました。「あの怪物の正体、僕は感じる。魂の強さだ。何かが狂っている」


 平良門はその言葉に導かれるように、目を閉じ、深く呼吸をしました。妖怪たちが周囲を守る中、彼は静かに力を集中させます。そのとき、地蔵首が突如として前に現れ、口を開きました。「恐れるな。神仏の力で道を開こう」


 地蔵首の不思議な力が広がり、その周囲の空間が徐々に浄化されていきました。霧の中から光が差し込むと、そこに姿を現したのは、やはり毛羽毛現でした。その姿は、もはや人間の形を超えた、無数の目と口を持つ巨大な影であり、あらゆる方向から恐怖が迫ってきます。


 しかし、平良門はついにその姿を捕えることに成功しました。彼が持つ強大な力と妖怪たちの助けをもって、毛羽毛現の存在を切り裂き、そしてその真の姿を見届けることができたのです。それは、まさに平良門が目指していた「力」と「支配」の象徴であり、彼の名は新たな伝説として、また一歩深まったのでした。


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