第10話
十
関八州への国替え。
北条氏を秀吉が攻め滅ぼし、その後の論功に家康に関八州への国替えを命じたのは、八月のこと。
領地との境目となる地に近付いて、家康は馬に乗りその一円を遠望していた。
小田原に陣を張り、この一円を攻め取り囲む陣の一員として幕を張った刻がまるで昨日のように思い起こされる。
山々から望む広やかな平野は、治水の行き届く故もあり、豊かな黄金色にと平野を染めかえようとしている。
――氏政が、降る刻を選んだのはこの為か…。
新たに気付くことがあり、家康は何ともいえぬ痛みとも感嘆ともとれぬ表情になって、山間より望む平野の豊かなさまを見詰めていた。
小田原は驚くほど広く惣構えで城だけでなく町に暮らすもの達をも護り、広く田畑までをも構えの内に護っていた。その縄張りは戦の間にも、またその後にも、家康が配下に計り書き取らせたほどのものであるが。
――戦の、後の民達の暮らしを慮ったか。…
この戦は遠く小田原を囲み護る支城で激しく凄惨なものとなったが。小田原本城を囲む陣は略動かず、戦に踏み躙られることなく実りはこうして、民を支えてある。
わしに、これができるか。
戦はもとより、古の作法であれば稲の実りを待って行う。或いは、敵の田を刈り取り火を放つ事を定法とした、武田信玄公の如き戦術もある。
だが、…―――。
戦に開かぬ城を、降らぬ北条を愚かよと、関白秀吉の圧倒的に見せつける軍勢の前に動かなんだ北条を揶揄う声を家康も既にきくが。
小田原評定で、…―――。
それは、この広く遥かな関八州を治める為の、民よりの声をきく評定であったともきく。
何をきいていた?
泊る宿で、必ずこれについて訊こう、と心に定める家康である。
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