第27話 君の夢に俺はいない②~氷室和~

 おーいえす!いえす!あいむかみんぐ!にこちゃんかうがーる!いえー!いんきょうしつのゆかって感じだったとき、講義の終了を告げるチャイムが鳴った。その瞬間俺とニコはぴたりと動きを止めた。廊下から人の気配を感じた。


「まずい。この教室。アオトたちのグループの遊び場」


「はぁ?!まじかよ!やべぇ!」


 するとすぐに外から小川とそのお友達たちの声が聞こえてきたのだ。


「今日はどうしようか?ニコいないし、エロマンガ品評会する?」


「せやな」


「左様」


 俺たちは慌てて合体を解除して服を整えようとして、逆に体が絡まってしまった。そして扉が開かれて、小川たちが俺たちのいる教室に入ってきた。


「ふふーん!エロエロ、エロマンガ♪昨今、流行りは清純ビッチ~♪って?!ニコ?!」


 入ってきた小川たちの視線の先には俺たちがいる。小川は目を見開いて、ひどく驚いている。


「ふ、二人とも何してるの…?!」


 俺たちはその質問に答えられない。だって俺たちもよくわかんない。小川たちが来る気配を感じて、俺たちは合体状態のままで服を整えようとした。そしてまだ合体していることに気がついて、慌てて合体を解除して俺はとりあえず、うつ伏せになり、そのまま四つん這いになってズボンをあげた。その拍子にニコは俺の背中に跨る形になった。…ばか?うん、ばか!人は俺たちの今の姿をこう言うだろう。お馬さんごっこ。


「えーっとその。お互いの今後の芸能活動の話をしていたんだ」


「はい?!なんでそれでお馬さんごっこになるの?!全然意味わかんないんだけど?!」


 小川たちは動揺している。だってシュールだよね。俺だって知り合いがお馬さんごっこしてたら頭バグると思う。


「アオト。違うの。相談してて。演技の練習。することにしたの」


 ああ。女の子ってまじでこういう時に「違うの」って言うんだ。俺は密かに感心してしまった。


「次のオーディション。馬に乗るジョッキーヒロインのソシャゲーキャラの役。その演技。はいよぉおおおお!!!」


 ニコがすらすらとなんか変な嘘を積み重ねていくんだけど。とりあえずこの勢いに乗ろうと俺は思った。


「ひひーん!俺はすごく早いスーパーウルトラハイパーサラブレット!ひひーん。うまぁあああ!!」


 どっちかって言うと鹿ニチャアア。だけど変な言い訳するよりも奇行で誤魔化した方が良さげな気がしてきた。俺はニコを乗せたまま小川の方へと小走りで這っていく。そして小川の周りをグルグルとニコと共に回る。


「はいよー!にんじん!はいよー!にんじん!」


 ニコは無駄な美声で俺のお尻をぺんぺんする。腹立つけど今は我慢だ。


「ひひーん!うまぁ!うまぁ!がちゃぁ!!!」


「この鞭がそんなに好きかい!この豚野郎!!鳴け!鳴け!」


 ぺんぺんと俺の尻をニコが楽しそうなドS声を出しながら叩く。すさまじく演技に熱が籠ってる。伊達に現役声優やってないな。


「ぶひぃいい!!じゃねぇ!ひひーん!」


 だけどニコ。あとでマジで覚えてろよ。エッチでぎゃん泣きさせてやる。俺とニコは必死に悪ふざけを続ける。小川の友達は俺らを見て、クスクスと笑っていた。この雰囲気ならいける!絶対にさっきまで合体してたことには気づかれない!


「…ニコ…なんで?」


 なぜか小川は俺たちをひどく暗い目で見ていた。あれ?気づかれた?!やばい?!吊るされる?!腹きらなきゃダメ?!


「ニコ…なんで…僕以外と演技の練習してるの?どうして…」


 ん?いや。なんか様子が変だ。俺たちが合体してたことには気づいてないようだ。だけど俺たちが演技の練習をしている。ということに衝撃を受けているようだ。俺は首を傾げた。俺の背中に跨っているニコも首を傾げている。


「アオト?どうしたの?なんで元気ないの?」


 ニコが心配そうに小川の顔を覗き込んだ。


「ニコ?!どうして僕以外と演技の練習してるんだよぉおおおお!?」


 突然小川は大声で怒鳴った。それでニコはバランスを崩して、俺の背中から床にころんと転がり落ちた。


「アオト…?変。なんで怒鳴るの?」


 ニコはひどく驚いていてそして怯えている。


「だって君がボク以外と演技の練習なんてしてるから!」


「え?でも。私。事務所の劇団でもアオト以外の人といっぱい演技練習したよ?」


 何言ってんだ小川?俺にはこの男の言っていることがよくわからない。プロの声優になったニコなら演技の練習をそれこそいろんな奴とやっているだろう。それこそ演技ヤリまくりでしょ?


「でもレイジ君は役者じゃないし、それにフッた相手じゃないか。なんで一緒に演技なんかしてるの?おかしいよ…」


 いやお前の方がおかしいやろ。だけどとりあえず小川にとってニコと演技練習をするのはとても重い行為のようだ。


「まあ。とりあえず落ち着こうよ」


 俺は立ち上がって小川にそう言う。だけど小川は俺をきっとした目で睨んできた。


「ニコは夢のために頑張ってるんだよ!君がニコに関わる時間なんてないんだよ!彼女の演技の邪魔をしないでくれ!」


「ふぇ?…ええ?」


 あーうん。よくわかんないけど、嫉妬じみた怒りは感じた。俺はバンドマンだし、女の取り合いの喧嘩なんかはさんざん見てきた。小川のそれはそう言う時の男の怒り方そのものだ。だから正直に言って別に怖くはない。だけどニコは違った。


「アオト…。怖い…。うう。ふぇえええええええ」


 ニコは演技ではなく本気で泣いていた。小川を怖がって泣いている。小川はそれを見て狼狽えて、ニコに手を伸ばす。だけどニコは伸びてきた手を恐ろし気に避けた。


「…ああ…うっ…ごめんニコ…カッとなっちゃった。ごめんなさい」


 小川は頭を下げて、ニコから離れる。そしてフラフラと頼りなさげな足取りで教室から出ていってしまった。


「拙者たちはどうすればよろしいでござる?」


「おんにゃのこが泣いているのなんてアニメでしか見たことないでおじゃる!どうすれば?!」


「とりあえず。ニコが泣き止むまで俺と一緒にここにいてくれ。頼むから」


 俺はしゃがんでニコの背中を撫でる。暫くの間、ニコは大声でずっと泣き続けた。だんだんと落ち着いてきてくれて、ニコは泣き止んだ。そして俺はララミをスマホで呼んだ。やってきたララミに事情を説明した。ララミは何も言わずに、まだ少しグズッっているニコを連れて行ってくれた。あとは女子同士の方がいいだろう。男に出る幕はない。


「はぁ…小川ってああいうの珍しい?それとも地雷ある?」


 俺は残っていた小川のお友達君たちに尋ねてみた。だけど二人は首を振った。


「普段は優しいでござる」


「我等のような陰の者のたちの中でも穏やかで頼りがいのある男で候」


「デアルカ。うーん。なんなんだろうなぁ。幼馴染同士っていうのは複雑怪奇なんだな。…とりあえずカードバトルする?」


 俺は最近揃えたデッキを懐から取り出して、小川の友人たちとカードバトルを始めた。放課後までバトルし続けたけど、結局小川は戻ってこなかったのだった。



---作者のひとり言---


自分にとって特別な思い出が他人にとっては大したものではない。

それもまたBSS('ω')


٩( 'ω' )وOSS!OSS!OSS!

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