答え
朝起きたら
「え、巧実さん?」
こたつに丸まった巧実さんが寝てた。
「んーーなんで?」
とりあえず、こたつから丸出しの上半身が寒そう。
布団をベッドからひっぱり、そっとかけてあげた。
飲み過ぎた上に歯も磨いてないから気分は最悪。
とりあえず歯磨きをして水を。
ゴクゴクゴク
「ん?」
え!なにこれ!
なんか家の中が変ってる。
棚に綺麗に収納されている100均のかごたち。
「うわ~広くなった!」
作業スペースが広い。
もしかして送ってくれた上に片付けまで?
なんなの?神なの?友達の成せる技じゃない。
友達…
小さな寝息をたてる巧実さんの手を、そっと繋いだ。
どうしたいんだろう私。
光輝を好きだと言いながら、この手が恋しい。
巧実さんが起きたのはそれから2時間程経ってからだった。
「何その、ここはどこって顔」アハハ
10秒ほどたって、拓実さんは笑い出した。
「ちょっとだけこたつで休憩って思っただけなのに」
「大丈夫?ベッドで寝直してもいいよ?」
「や、帰ってシャワーする」
「あ、シャワーする?」
「着替えないしね」
「そっか」
じゃあもうバイバイか。
「スーたんさん、コーヒーもらえますか?」
「かしこまりました!」
ドリップコーヒーも綺麗にかごに収まっていた。
「巧実さん頭いいね
ケトルこっちに置いたらここ広くなった」
「だろ~」
巧実さんが買っているコーヒーみたいに美味しくない。
さすがにあのコーヒーが美味しかったということは、いくら味音痴な私でもわかった。
「「美味しい」」
クスクス
だけど美味しい。
それは二人で一緒に飲むからかもしれない。
窓から東京タワーが見えなくても、一緒に飲むコーヒーは美味しい。
これはホームシックなの?
PPPPP PPPPP PP
「はーい」
電話に出た巧実さんは
「朝霧」
私にそう言ってまたコーヒーを飲む。
「うん、うん、あぁじゃあ午後でもいい?
今手元にパソコンない」
仕事のこと話してるみたいだった。
いつの間に仙台に戻ったのかな。
「スーたん、朝霧今日仙台に帰るって」
え?
コーヒーを飲み干して、カップを洗いに立ち上がる。
「見送りに来いってよ、朝霧が」
「でも…」
「俺帰ってシャワーして会社行ってくる
今の電話、会社行かないと出来ない話だった」
巧実さんはキッチンを片付けて帰って行った。
着替えてお化粧をして、出かける支度をした。
光輝、大晦日もお正月もどうしてたんだろう。
ラインもなかったし、私もしなかった。
仙台に戻る。
いつ会えるのかわからない。
仙台は近いと思ったけど、それでもすぐに簡単に会えるわけじゃない。
アルゼンチンに帰ってしまったら、本当に二度と会えないかもしれない。
「よし!とりあえずお見送りに行こう!」
自分の気持ちがよくわからないけど、会わないとそれこそわからないまま曖昧にしてしまう。
.
「光輝!」
銀の鈴のそばで光輝は待っていた。
「スズ!」
「新幹線間に合う?」
「間に合うよ」
中に向かって歩き出す。
「光輝昨日何してたの?
もう仙台帰っちゃったのかと思ったよ」
「昨日は友達と初売り行こうとして
人の多さに挫けてうだうだしてた」
「やっぱどこ行っても人多いよね〜」
「スズは?昨日どうしてた?」
「……」
「神田とどっか行った?」
なにこの気持ち。
胸が痛い。
「あいつやべぇ有名どころ初詣行きそう」アハハ
なんか苦しい。
「どこ行った?」
「日光…」
クスッ
「修学旅行だな」
覚えてるの?
「スズ、サルの写真ばっか送ってきた」
あの頃、光輝のこと好きで好きで
「エネ開にもクッキー買ってきてくれた」
大好きでたまらなかったの。
寝ても覚めても光輝一色だった。
「神田に会ったんだったな、本社で」
拓実さん
『スーたん!』
「スズ、なんて顔してんだよ」
光輝が私の頬をつつく。
「なぁスズ」
顔を上げると、光輝は真剣な顔で真っ直ぐに私を見た。
「アルゼンチンに来てくれないか?」
「え…」
「俺と一緒に、向こうで暮らそう」
だってそれは…
「嫌だ?」
「私…」
「うん、なに?
俺と暮らすのは嫌?」
「だって拓実さんが…」
「うん、神田がどうした?」
あぁそうだ
私は
「拓実さんと…離れたくない…」
拓実さんが好き。
「オッケーわかった」
こぼれ落ちてしまった涙を、光輝の指が掬い取る。
「あの時、スキー連れてってよかった」
光輝が笑う。
優しい顔で。
「神田に出会わせてよかったよ」
「光輝…」
「スズの気持ち、聞かせて?聞きたい」
「拓実さんが…いい……」
「うん」
「光輝を好きだった…のと違くて……」
「うん」
光輝を好きだった時のような、あんな激しさじゃない。
だけど
「でも…一緒に…いたいの……!
拓実さんが……好き…」
「スズ」
光輝が両手を広げる。
優しく優しく微笑んで。
「これが本当に最後」
あの頃私は、何度も何度もこの腕に抱きしめられた。
大好きで、愛おしくて、たまらなかった。
耳のすぐそばで光輝が息をつく。
「幸せになって」
ごめんなさいとは、言えなかった。
光輝がそんな言葉を求めているとも思えない。
「光輝…」
もう会えない?
そういうことだよね。
拓実さんを選んだんだから。
「スズ、俺たち友達になったんだろ?」
「え…?」
「これきりもう会わないなんて嫌じゃない?」
「嫌…」
「俺は平気だよ
スズと友達できる」
「いいの…?私…」
光輝のこと好きだとか言ってこんな
「たまに神田のこと脅かしてやろ」ハハハ
「え?」
「あいつのんびりしてるから」
光輝はなんでもないように笑う。
そうしながら腕の力を抜いた。
「あ〜あ、振られちゃったな」
「光輝…ありがとう……」
涙が止まらなかった。
泣きたいのは光輝の方なのに。
「アルゼンチン遊びに来いよ」
「うん…」
「神田と一緒に」
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