第9話「刀神・経津主神」

 静まり返った森の中、2人の男たちが互いを真っ直ぐにらみ合う。

 巨木に留まっていた鳥が飛び立つと同時に、激しい剣同士どうしの打ち合いが始まった。

 経津主ふつぬし野鼠のねずみのように素早い斬刀と、ディファルトの重たく空間ごとぶった斬るような勢いの大剣が互いにぶつかり合い、辺りへ強烈な火花を散らす。



「凄い…あのサイズの大剣あんなに軽々と」



 ディファルトの攻撃は大剣を振るっているとは思えないほどに軽やかで、斬撃が空を斬ろうとも素早く持ち直し、すぐにまた経津主をねらう。

 しかし斬撃が木や岩へぶつかろうものなら、その瞬間木っ端微塵に砕けるほどの威力を持ち、その様子はさながら獲物を追い詰める獅子の形相。

 これが最強とうたわれる所以ゆえん…。

 金属同士のぶつかり合う音が森に響き渡る。

 ざわつく鳥たちの声を掻き消す中で両者一歩も譲らず、一向に激しさを増していきながら斬り合いが続く。



「そろそろギブったらどうよオッサン!疲れたろ!?」


生憎あいにく、体力には自信があるのでな!」



 経津主は木のみきを蹴り、勢いをつけてディファルトへ切りかかる。

 ディファルトは剣を盾のようにかまえてそれを防ぎ、ガァンという音が衝撃波と共に辺りの木々を揺らした。



「強がんなよ、見苦しいぜ」


「貴様こそ、大分だいぶ汗ばんでいるぞ」



 経津主が剣を蹴り飛ばすが、ディファルトは体勢をくずすことなく着地し、剣を構え直す。



「チッ、刃こぼれしちまった」



 すると経津主は刀の刃を素早く取り外し、頭から生えた刀を一本引き抜いて取り替えた。

 あの刀、使い捨てなのか。

 経津主は足へ力を込めて勢いよく地面を踏むと、先ほどとは比べ物にならないスピードでディファルトへ突進して切り掛かった。

 咄嗟とっさに剣を盾にするも、ディファルトは二の腕に深く傷を負ってしまった。

 しかしそのまま大剣をひっくり返して刀を弾き、すぐさま経津主の肩に斬撃を入れる。

 再び始まる刀と大剣の激しい打ち合い。


 そうだ、ジュリアーノ!

 彼の方を見ると、ちょうど彼を治療するルジカの手の光が消えた。

 どうやら完了したようだ。

 だがそれでも薄皮が張ったまでのようで、胸元には赤みの滲んだむごい傷のあとがまだ残っている。

 いくら魔法でもここまで大きな怪我、完全に消すことはできないのだろう。

 この傷跡は、きっと死ぬまで消えることはない。



「大丈夫、寝てるだけ」



 そう言って剣士の腕を治療し始めたルジカのひたいには汗が多く流れていた。

 あれだけの傷を治療したんだ、きっと相当な魔力を消費したのだろう。

 それでも彼女は顔色ひとつ変えず、治療を続けている。

 なんて強い子だ。


 その間にも、経津主とディファルトの打ち合いは激しさを増していた。

 思い金属音の鳴り響く激甚の戦闘で互いの剣が火花を散らす中、オレはあることに気づいた。

 ディファルトが若干押されてる。

 さすがの神殺しといえど、刀神とうしん相手はやはり厳しいのだろうか。



すごいよあの人…」



 不意にガイアがつぶやいた。



「6人も守りながら人が神相手にあそこまで渡り合えるなんて…。本気を出したらどれだけの……」



 そうか、ディファルトはまだ実力を全部出せていないんだ。



「ぐっ」



 経津主の刀がディファルトの脇腹を横に斬りいた。

 服に血がにじみ、痛みで顔をしかめるディファルト。

 だが、それでも剣を振るう手は止まらない。

 助太刀すけだちに行きたい、でもオレが行ったところでさらに負担をかけるだけだ。

 今はただ、2人の戦いを見届けるほかない。

 脇腹を斬られしかめっ面のディファルトを見た経津主は、こちらを一瞥するとニヤリとほくそ笑んだ。



「ハハッ」



 するとヤツは勢いのまま方向転換し、なんとこちらに突進してきた。



「!?」



 いきなり標的を変えた!?

 理由はわからない。

 ディファルトには勝てないとんだのか?

 いや、けど戦況的に押していたのはあいつの方。

 オレは咄嗟とっさに剣を取って構え、戦闘の態勢をとった。

 ディファルトも地面を蹴って経津主の背を追う。

 経津主は刀を振り上げ、真っ直ぐオレたちに切りかる…!

 と、その時だった。


ザクッ



「!!」



 にぶい音と共に、刀がディファルトの腹部へ突き刺さったのだ。

 なんだ?何が起こった?

 経津主は確かに刀を振るったが、その刃がオレたちに到達とうたつすることはなかった。

 ヤツの刀はくうを斬ったはず。

 ならば何故なぜ、刀は今、ディファルトの腹に突き刺さっているのか。



「声もでねぇか?オラァッ!!」



 経津主はそのまま刀引き抜くと、再び奮ってディファルトの腹をさばいた。

 あたりに飛び散る大量の鮮血せんけつ

 そして続けざまに刀をのどへ突き刺し、足で勢いよく蹴り飛ばした。



「かはっ」



 大木に激突し、鈍い音を立てて力無く倒れるディファルト。



「ディファ…!!」



 剣士を治療するルジカの手が止まる。

 経津主がゆっくりとディファルトへ近付き、彼の喉に刺さった刀を力強く引き抜いた。

 その瞬間口からあふれ出した血があたりを赤く染める。



「戦いの最中さいちゅうだぞ、外野に気をかけ過ぎだ。相手に集中しろやクソボケがッ!」



 経津主がディファルトの腹部を蹴ると、鮮血がさらに溢れ出す。



「良い度胸だよなァめ倒しやがって!!」



 絶体絶命。

 最強とまで言われるディファルトが血を吐き、されるがままに倒れている。

 やはり、神の力は絶大だ。

 オレがもっと強ければ、怪我人全員を守れるほどの力があれば、彼は負担ずっと軽く、全力を出してヤツと戦えたはず。

 きっとこんなことにはならなかった。

 どうする?

 本気を出していないとはいえ、ディファルトでもかなわない相手。

 ……でも、それでも!

 オレは剣をかまえたまま立ち上がる。



「ここでやらなきゃ…!」


賢吾けんご!!」



 ガイアが再びオレの前に立ちふさがった。



「さっきも言ったでしょ!君じゃ…」


「わかってるさ!」



 オレの手にえる相手じゃないなんて、そんなのわかってる。

 オレ自身もジュリアーノにそう言ったんだ。



「それでも、今やらなきゃ、きっと全員死ぬ」


「…!」



 不死身なんて所詮しょせんは貰い物の力だ、オレに大した実力があるわけじゃない。

 だがその貰い物の力が、今は皆のために役立てることができる。

 たぶん、逃げるための時間をかせぐことぐらいはできるはずだ。



「ルジカ、みんなを森の外まで運べるか?」


「ま、魔術使えばなんとか…」


「じゃあ、よろしく頼むよ」



 ルジカは一瞬不思議そうな顔をしたが、すぐにオレの意図いとを察して止めようとする。



「だめ!あなたが死んじゃう!」


「大丈夫」



 冗談じょうだんだと思われるだろう。

 だがせめて、少しでも心配をかけないように。



「オレ、絶対死なないからさ」



 その言葉を聞いたルジカは「何言って……」と何かを続けようとした口をつぐんだ。

 きっと、オレの決心を理解してくれたのだろう。

 



 

経津主神フツヌシノカミ!!」



 オレは経津主へ剣を向け、大声でその名を叫んだ。



「……さ…下がるんだ…ゴフッ、彼を…甘く観てはいけない……!」



 ディファルトが血を吐きながら必死に手を振り上げて、うったえる。

 しかしオレは至って平然とし、”大丈夫だ”と彼へ笑って見せた。



「次はオレが相手だ!」


「やめとけよ。ガキがでしゃばると命を無駄にするぜ」


「お前にそれができればな」



 オレの挑発を受けイラだったのか、額に青スジを立てた経津主がこちらを向く。

 よし、乗ってきた。



「言うねぇ。じゃあためして見るかっ!?」



 いきなり飛んできた重い斬撃。

 咄嗟とっさに剣で受けるが、流しきれず体勢が崩れた。

 経津主は続けていくつもの斬撃を放つ。

 尋常でない速さに全て受けきることができず、いくつかはオレの身体を浅く斬り裂いていった。



「!!」



 ガイアは悲鳴を上げたい気持ちを、後ろを向いてグッとこらえた。

 さすがは刀の神、やはりパワーが違う。なら……。

 オレはすぐに体勢をととのえ、森のさらに奥へと走った。


(明らかに俺様を怪我人から遠ざけていやがる。弱者の足掻あがきか。いいぜ、ノってやるよ)


 経津主はオレを追いかけて走る。

 ねらい通り、引っ掛かったのか意図的なのかはわからないが、ひとまずは皆の安全を確保できたと言えるだろう。



 大分奥へ来た。

 ここまで来ればいいだろうか。



「逃げてばっかだなぁオイ!」



 経津主が放った斬撃を、オレはギリギリでかわす。

 暗く湿った森の中、二つの剣が互いをにらみ合う。



「仲間のために身を投げ出すその勇気、めてやる。だが、生きて返してやるほど俺様は慈悲じひ深くねェぞ」


「承知の上さ。オレだって死ぬまでもがき続けてやる」



 目的はあくまで時間稼ぎ。

 体力を削って動きがにぶるまで行ければベストだ。

 経津主が地面を蹴ってオレに切り掛かる。

 オレは剣で攻撃を流しながら横へ跳んだ。

 そんなことをものともせず、再び刀を振り上げ斬り掛かる経津主。

 今度は剣で受け止め、そのまま勢いを乗せて跳ね返す。

 さっきよりもずっと弱い。

 手加減をしているのだろうか、どうやらとっとと済ませる気はないようだ。

 こちらとしてはとてもありがたい。

 そこから、剣と刀との打ち合いがはじまる。



軟弱なんじゃくな剣だなァ!だが成長の余地よちはある!ここで殺しちまうのがしいぜ!!」



 打ち合いの最中さなかにこの、余裕かましやがって!

 それでも、経津主の斬撃のいくつかはオレの頬や腕をかすめて、斬り傷を量産していく。

 そしてその内一撃が、オレの肩を深く斬り裂いた。

 傷口が熱をび、出血が服を徐々に赤く染めていく。

 不死身といえど、やはり痛いものは痛い。

 だが、これくらいじゃオレは倒れない!

 オレはすぐに反撃をり出した。



「それでもひるまねェか、良い根性だぜ!名前くらいはいてやるよ!」


賢吾けんごだっ!」



 金属同士のぶつかり合う音が、絶え間なく森に響き渡る。

 経津主の手は一向いっこうに早くなるばかりで、疲れを全く感じさせない。



「ムリしなくても良いんだぜケンゴォ!?」



 経津主の刀がオレの太ももに突き刺さる。

 刺された痛みと同時に、まるでハンマーで殴られたかのような衝撃が脚全体に広がった。

 激痛が刀の引き抜かれた傷口にほとばしる。

 どうやら骨まで達したようで、斬られた肉の隙間から白い光が顔を出す。

 オレは痛みに耐えながら腕に精一杯の力を込め、ヤツの首目掛めがけけて振るった。

 しかしその斬撃がヤツの体に届くことはなく、いとも簡単にけられてしまった。



「良い動きだ、だがその脚じゃもう逃げらんねぇな」



 逃げる気なんてハナっからないさ。

 オレは顔を歪めて脂汗を流しながら脚の痛みをこらえ、剣を持ち直し構えを取る。



「こんなの屁でもない。子犬に噛まれる方がよっぽど痛いだろうな!」


「負けん気の強いガキだ。けどお前みたいに泥臭いヤツ、俺様は好きだぜ!!」



 経津主が再びオレに斬りかかり、それに応えるようにオレも突進した。




 どれほど斬り合っただろうか。

 連続的にはなたれる斬撃を受け、オレの体はもうボロボロだった。

 腕、足、腹、首と、いたる所から流れ出る血液で、辺りの地面も木々も血飛沫で真っ赤。

 それに比べて経津主はというと、オレからはかすり傷すら負っていない。



「何故だ。何故まだ立ってられる」



 経津主がオレに困惑の眼差まなざしを向ける。

 脚を刺され、肩を斬り裂かれ、数多の斬撃を受けようとも依然として剣を向け続けるオレに、今更になって違和感を覚えたようだ。

 それもそう、これだけの出血と怪我、常人ならすでに死んでいて当たり前のことだ、



「人間の魔力じゃねぇとは思っていたが、それだけの負傷でまだ立っていられる奴なんざ神にもそうそういねぇ。お前、一体全体何者なにもんだ」


「さあな…」



 オレは無視して剣をかまえる。



「質問に答えろっ!!!」



 経津主の怒号どごうが森中に響き、巨木から葉が落ち鳥が飛んでいった。



「もう一度く、お前は何者だ」


「言って何か得があんのかよ」



 何かたくらみがあるのかそれとも純粋な疑問なのか。

 どちらにせよ教える必要なんてない。

 経津主は目を逸らし少し考えると、予想外の言葉を発してきた。



「………何が望みだ」


「……は?」



 斜め上ずぎる答えに、思わずオレは素っ頓狂な声を出してしまった。

 コイツ、今なんて言った?



「だから、何が望みかって訊いてんだろ!」


「んな……そこまで知りたいかよ…!」


「気になるんだよ!!」



 まさかの純粋な疑問だった。

 何が望みって、情報と引き換えに言うことをきくってか?コイツが?

 これだけ残忍なことをしでかすヤツに言動、正直信じられない。

 でも、すこし試してみる価値はあるか…。



「じ、…じゃあ、これから先、人へむやみに危害を加えないこと」


「……わかった」



 意外と素直に受け入れるんだな、なら……。



「それと、虐殺もやめること」


「…だからそれは!」


「それができなきゃ!!」



「…オレのことは絶対に教えない」


「ムッ……」



 思った以上に悩んでるな。

 さっきまで罵りながら乱暴に刀を振っていたのに、今じゃそれが嘘のようだ。

 時間が稼げるのはありがたいが、正直言って少し気味が悪い。

 しばらく腕を組んで考えた後、経津主は苦虫を噛み潰すような顔でその口を開いた。



「………わかった。わかったから…教えてくれ……」



 声ちっさ!!

 さっきまでの威勢はどうしたんだよ!

 けど、まさかこんなに簡単に了承するとは思わなかった。

 ほんの先刻まで殺し合いをしていたのに……。

 だがまあ、相手が言うことをきくと言うのならこちらも望みに応えるのがスジってもんだろう。



「オレは、神の眷族けんぞくだ」


「嘘こけ。その生命力はンなので説明付けられるほど簡単なもんじゃねぇぞ」


「普通ならそうなんだろうな。けど、オレの契約者は他とは少し違う」



 怪訝な顔で首を捻る経津主に、オレは一拍開けてからその言葉を発した。



「オレの契約者は、原初の生命神だ」


「!!」



 経津主は目を見開き、わかりやすく驚いた。



「原初の生命神だと!?まさか…」



 「信じられない」と言うような表情で経津主はしばらく考え込む。

 この驚きよう、やっぱり原初神ってのはオレが思っている以上に特別レアな存在なのだろうか。

 そう考えれば冒険者たちがガイアの身体に関することをなにも知らないのにも合点がいく。

 …ずいぶん吟味してるな、まさかまた何か企んでいるのか?

 内心でそんなことを思っていると、経津主は何か悪巧みをするようにニヤリとほくそ笑み、やっと口を開いた。



「…ケンゴとか言ったな。喜べ、お前の命、見逃してやる。その代わり、俺様と共に鎧銭よろいぜにまで来い。もちろん命の神も一緒にだ」



 なぜか自信げに胸を張り、そう言ってのける経津主。

 正直用語の意味もも理由も何もわからなかった。



「断る」


「はぁ!?なんでだよ!見逃してやってんだろうが!」


「見返りはもうやっただろ!!」



 自己中なヤツだな。

 ていうか、ヨロイゼニ?なんだそれは。

 どこかの国名?



「めんどくせぇ…」



 こっちのセリフだっての。

 頭からつま先までこんなに斬り刻んでくれちゃって、そのクセ今度はヨロイゼニだかなんだかよくわからない国まで一緒に来いだ?

 こっちにだってこの世界での目的があるんだ、そんなワガママがまかり通るわけないだろ。

 経津主は沈黙し、また考える。



「別に良いだろ少しくらい、ケチな奴だぜ」


「何だよその言い方!コッチには重要な目的があんだよ!お前の勝手な都合に時間なんか割いてられるかってんだ!」


「ア“ァ!?じゃあ何だってんだよ、その目的っつーのはよォ!!」



 なんて強情なヤツなんだ。

 目的、話しても良いのだろうか……。

 いや、よくよく考えれば冒険者になった目的もガイアの身体の情報を集めるためなんだ。

 ギルドじゃおとぎ話程度にしか捉えてもらえなかったけど、神であるコイツなら何かしら掴めるものがあるかもしれない。



「世界中に散らばった生命神の身体を集める、それだけだ」



 崩れぬ表情のまま黙りこくる経津主。

 組んだ腕に人差し指をトントンと動かして、微妙にイラついた様子を見せている。

 そしてそのまま目を閉じて数十秒悩んだあと、突然大きなため息を吐いた。



「はあ、こうなったら仕方ねぇ。俺様の右脚、お前たちに返してやるよ」


「右脚?なんで右脚…?」


「なんだお前ェ、眷族のクセに気が付いてなかったのかよ」



 経津主は布をめくって自身の右脚を突き出す。

 周りの健康的な薄橙色に比べ、そこだけ日焼け止めでも塗ったくっているのかというほど色白な脚。

 右だけやたら美脚でなんかキモいなとは思っていたけど、まさかそれが理由じゃないよな。

 自身の右脚に引き気味の視線を送るオレに、またもや怪訝そうな表情の経津主。

 しかし今回は冷静さを保ち、意気揚々と言った。



「この脚は、生命神の身体を移植したもんだ」


「な!?」



 驚きを隠せなかった。

 オレが冒険者をする目的、たった今、その目的の一部が達成されたのだ。

 探し求めている身体のパーツ、その一つが今、目の前にある!

 まさか、こんなことってあるものなのか…?

 驚きと困惑で変な汗が額を滴ったその時、オレはあることを思い出した。

 それはガイアと出会い、彼女の下したチュートリアル的ミッションをクリアしたあとのこと。



『気性の荒い刀神が片足を持ってるってのと……』



 “気性の荒い刀神”

 まんまコイツのことじゃねーか!!

 オレの記憶が正しければコイツの言っていることはおそらく真実、経津主神の右足はガイアのものということになる。

 これはもう、答えは決まったようなものだろう。



「わかった。ただ、行くかどうかは仲間次第しだいだ。オレ1人で決められることじゃない」


「それで良い。身体を求めてんのは生命神本人だからな。じゃ、契約成立っつーことで」



 経津主は自身の手のひらに刀で傷をつけ、オレの前へさし出した。



「何してんだよ。契約だろ、早く斬って手ェ出せ」


「お、おう……」



 何が何だかわからないままオレも剣で手のひらを斬り、彼の手を握った。

 同時に何やら詠唱のようなものをし始める経津主。

 すると、握手の中で混ざりった血液たちが互いの手の甲をヘビのように這って進み、赤黒い魔法陣を描きだした。



「よっし、これで契約完了だな。もしどちらかが破れば、破った方もそうでない方も腕が吹っ飛ぶからな」


「んな!?」


「破らなきゃ良い話だろ。双方に利益のデカい契約なんだからよ」



 そうなんだけど……なんだか契約書の文面をよく読まずにサインしてしまった気分だ。

 まあなにはともあれ、オレは経津主神との和解に成功した。

 ひとまずはこれで一件落着だろう。

 依頼はまだ済んでいないけれど、さっきの騒動そうどうで周辺の生き物は魔物共々ともども逃げてしまったようだ。

 経津主はいつのまにか姿勢を崩して刀を鞘に納め、完全に戦闘モードから離れている。

 いつの間にか日がだいぶかたむいていてきた。

 早くみんなと合流しよう。

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