哀する事
なしこ
悲しいエルフの物語
タラフォレストと言うエルフだけが暮らす森がありました。
その森では、エルフ達が幸せそうに暮らしています。
エルフには人間とは違う、癒しの力や火の力、雷の力など成長過程で別れる属性の力があります。その力は成長過程だけではなく、大きな感情によっても姿や力が変わってくる、とても不思議な能力です。
人間とエルフの間には沢山の歴史があります。
特に多かったのが、人間がエルフ達を捕えて人間同士の争いに使おうとしてきた事です。
その事もあり、エルフ達は進化の過程でかつてあった美しく透き通るような大きな羽も無くなり、まるで人間のような容姿に変わりました。
唯一残っているのは、周りの音をよく聴く為にある尖った耳と、生きる為に残されたエルフ特有の力だけでした。
そんな歴史があるので、エルフ達はできるだけ人間達と距離を空ける為、人間達が見つけられないような暗闇の多いタラフォレストに生活を構えていました。
タラフォレストは比較的暗く、薄らと光る花が咲いている静かな森です。
ある日、1人のフリーレという治癒の能力を持つエルフが遊び半分で人間の村の近くに行きました。
勿論それは長い歴史の中で起きた事もあり、禁じられている事なのです。誰にも言わずにひっそりと人間の村に向かうと、なんと人間達はいまだに領地の取り合いで人間同士で争っていました。いわゆる戦争を初めてみたフリーレは、ただただ怖がり、木の裏に隠れました。
じっとその様子を眺めていると、隣りで小さな唸り声が聞こえました。
隣を見ると、フリーレと同い年のような容姿の男性が傷だらけで倒れています。
フリーレは迷いましたが、目も開きそうにない様子を見て、自分の治癒の能力を使って男性を治しました。
男性はみるみるうちに傷が治り、そして目を覚ましました。
「君が…?」
と、男性はフリーレを見て、自分の身体をキョロキョロと見、またフリーレを見ました。
フリーレは男性に見られてしまった事にびっくりして、走って森に入って行きました。
男性が後ろから大きな声で叫びました。
「この恩は必ず返すよ!!だからまたここに…」
男性の言葉を全て聞かずにフリーレは迷う事なくタラフォレストに帰ってきました。
家に帰ると両親から何か言われていましたが、フリーレは男性の、しかも人間に会ってしまった事で頭がいっぱいでした。
自分の部屋でも、食事の時でも、フリーレの頭の中には人間の男性と、そして
『またここで』
と言っていた言葉がぐるぐると渦巻いていました。
数日して、フリーレは決意し、また人間の村に行きました。前に男性と会った場所です。
そこにはあの日の男性がリンゴを持って座っていました。
フリーレが近づくと、男性がびっくりとした顔をして振り返ります。
そしてすぐに笑顔になり、隣に来るよう言いました。
フリーレは警戒しながら距離を空けて座りました。
「この間はありがとう。今うちの村は戦争も終わって、貧困なんだ。お礼はこれくらいしか渡せないけど…」
そう言って男性はフリーレにりんごを渡しました。
初めて見るりんごに、フリーレは頭がはてなでいっぱいです。
男性は知ってか知らずか、フリーレにリンゴは食べ物だと教えました。
知らない事を教えて貰えたフリーレは、喜んでリンゴを持ち帰る事にしました。
男性は色んな人間の事をフリーレに教えてくれました。
人間は怖い生き物と教わっていたフリーレは、それはそれは不思議そうな顔をして真剣に聞いていました。
辺りも暗くなってきたので、男性は
「もう遅いから、またおいでよ。いつでも居るから」
と言ってフリーレが頷くのをみて村の中に帰って行きました。
タラフォレストに戻ると、フリーレは貰ったリンゴを大切に部屋に隠しました。
そして次の日も、また次の日も、
フリーレは男性に会いに人間の村に行きました。
その度にリンゴをくれました。
そして最初は警戒して座っていた距離も、少しずつ、少しずつ近くなり、今では手がたまにぶつかる距離に座っています。
手がぶつかる度に何故かフリーレはドキドキしました。
この気持ちは何なのか、そんな事フリーレも分かっています。
フリーレは男性の事を好きになっていました。
そしてそれは男性もまた同じ気持ちのようでした。
フリーレが会いに行くと、男性は毎回笑顔で迎えてくれ、そして言葉を交わさずとも手を重ねて来たり、まるでそこに誰かいれば恋人同士に見えるようでした。
そんなある日の事です。
いつものように男性に会いに行くと、男性は居ませんでした。
フリーレは長い時間待ちましたが、周りが暗くなってきたので、フリーレは残念そうにタラフォレストに戻りました。
戻るとタラフォレストは火の海でした。
フリーレはびっくりし、あの日の人間同士の戦争を思い出しました。
ただ、叫び声が至る所で聞こえました。
フリーレは急いで自分の家に行って、両親を探しました。
両親はもう息絶えていました。
フリーレは絶句しながら、自分の部屋に入って急いで、大切にしていたリンゴを持って家から出ました。
自分の治癒の能力を使えないか、フリーレは周りを見回しました。
そしてフリーレは目を見開きました。
エルフ達を捕えたり、殺したりしていたのを人間達に誘導していたのは、フリーレが好きになった人間の男性でした。
フリーレは怒りに震えました。
そしてそんなフリーレに男性が気付きました。
いつもの優しい笑顔で、
「ありがとう。君のおかげでやっと捕まえる事ができたよ。これで奴らに復讐できる」
と言いました。
フリーレの中で何とも言えない黒いドロドロとした感情がドバドバととめどなく溢れました。
すると、フリーレの姿が変わりました。
美しく白を基調とした姿が、
少しずつ漆黒に変わり、目も真っ黒く変わりました。
フリーレは属性が変わったのです。
治癒の能力から闇の力に変わりました。
タラフォレストがフリーレを中心に、暗闇に包まれました。
フリーレが人間たちを闇の力で炭に変えました。
そして好きだった男性を見ました。
男性は怯えて、フリーレに命乞いをしました。
フリーレは初めて男性に笑いかけました。
「ありがとう。私に憎しみを教えてくれて」
それが、フリーレが最初で最後に男性に発した言葉でした。
言いきるか、きらないか辺りで、男性は灰に変わりました。
フリーレは手に持っていたリンゴを灰の上に落としました。
周りには、薄らと光る花が咲いていました。
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