許されなかった僕たちへ
いわし
第1話
暗い裏路地。恐らく時間帯は深夜だろう。右上に視線を動かすと、周りに連なるさび付いたビルがこちらを見下しているような存在感を放っていた。視線を前に戻した。そこには乱雑に放置された死体が、腐敗臭と血液の臭いをまき散らしている。俺は血にまみれながら、その路地を進み続ける。腕がズキズキと痛み、足はぼろぼろとなりながらも歩みを止めない。なぜ、どこに向かっているのかはわからない。何かから逃げているのか、それとも追っているのかもわからずに、ただ進み続ける。
突然、めまいを起こし地面にへたり込む。地面に顔が近づくと、今までよりも腐敗臭を強く感じる。
その時、後方から殺意を感じる。普通の人間の出せる殺意ではなく、今までで感じてきた殺意の中でも群を抜いて恐怖を感じる。その恐怖に思わず背筋が凍りそうになる。急いで立ち上がり応戦しようとするが、何故か腰が重く、立つことができなかった。見ると、足ががたがたと震えていた。くそっ、恐怖で足が動かない。
そんなことをしている間にも、俺を殺そうと後ろから近づいてくる気配がする。
近くの壁に体を寄せ、近くにあるエアコン室外機に手を置きなんとか立ち上がる。
体中が痛み、まだ震えは収まらない。
後ろを向く。そこには俺と同じようにぼろぼろな一人の女がこちらへ歩いているのが見えた。だが俺と違うのは、その眼には決して消えることのない殺意に満ちた瞳が、力強く輝いていたからだ。
勝てない。
直感でそう感じ取る。技術力では俺の方が上手かもしれないが、そいつの瞳には殺意が映し出されている。人間、何かの目的があると普段では考えられないような力を発揮することがある。それが殺意などの負の感情であればなおさらだ。
だが、ここで尻尾を巻いて逃げることなどできない。今のぼろぼろの俺の足ではまともに逃げることもできずに死ぬだろう。たとえ逃げ切れたとしても、こいつは決して諦めずに俺を殺そうとしてくる。こんなやつからいつまでも逃げ続けるのは御免だ。
意を決して、そいつと向かい合う。そいつはそこで歩みを止めた。距離にして軽トラ二台分ほど。十分距離は空いている。俺はそいつに向かって走り出す。相手も殺意に満ちた目をぎらつかせ、口元に薄い笑みを湛える。
そして俺と相手がぶつかり合う直前。視界がぐらつき、色々な色が混濁する。
映像がぐちゃぐちゃになり、意識が混乱する。
数秒後、視界は黒に支配され、意識が落ちていく。
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