第10話 ターラーの初陣
リンデンの前線基地には、お風呂まで付いていた。
たらふく食べて、少し飲んだターラーはお風呂に浸かってのんびりした。
「ああ、まるで天国にいるみたい」
「おおげさだよ」
ゾーヤが体を洗いながら突っ込んだ。
さすがにリンデンは大国で戦場の前線基地もお金が掛かって快適だった。
まっしろなリネンにふかふかの毛布でターラーはぬくぬくと寝た。
朝は食堂で朝ご飯を兵隊さんと一緒に食べ、ゾーヤと一緒に戦場へと繰り出した。
ロッカが率いる火の第三部隊と、ゾーヤが率いる風の第二部隊は協調して行軍していく。
長距離の火部隊と至近距離の風部隊は連動して動くと色々と便利なのだ。
ターラーが初めて歩く戦場は見渡す限りの荒野であった。
手前にリンデン軍の陣地があり、遠くにランドランドの陣地がある。
火魔法を避けて移動するために幾重にも塹壕が掘られていて、所々で水が溜まっていて不衛生な感じだ。
最前線に着くとミリンダ少尉がいて、地図と命令書を持って、本日の攻撃目標を教えてくれる。
「使う魔法は『ロングファイ』ですか?」
「いいや、『ファイグレネード』敵陣目がけて昼までぶっ放せばいいぜ」
火部隊の魔女たちが、ボンボンと『ファイクレネード』を敵陣の塹壕に打ち込み爆発させていた。
意外に塹壕には入らずに、地面で爆発する火球が多い。
「同じぐらいの位置に落としますか、それとも最大射程ですか?」
「最大射程でやってみようぜ」
「はいっ」
ターラーは杖を構えて『ファイグレネード』の魔法を詠唱し、発射した。
真っ青で大きい火球は思いの他、遠くまで飛び、塹壕にすいこまれて、兵士を五人ほど宙に吹き飛ばして爆発した。
「ひゅー、さすがは『青』だぜ」
「す、すごいわ、ターラーさん、その調子で、その隣のブロックの天幕を狙って」
「はい、なんですか、あそこ」
「士官食堂よ」
さいですか、と言ってターラーは青い火球を撃ちだした。
放物線を描いて食堂テントに直撃し、テントを吹き飛ばした。
「「「「うおおおお!!」」」」
気が付くと観戦している兵隊さんがいっぱいいて、ターラーに声援を送っていた。
「あんたたち、ちゃんと仕事しなさいよっ」
「あはは、すげえ魔女さんが来たって聞いてよう」
「すげえ火力で、すげえ可愛いじゃんよう」
「がんばってくれよう、ターラーちゃん、応援してんぜっ」
「んもう、散れ散れ~~!!」
なんだか、異性に褒められてターラーは少し赤面した。
即座に敵軍の重要拠点は移動し、ターラーの射程距離外に出た。
なので、射程は広いが、狙うのは塹壕になり、あまりはかばかしい戦果は得られなくなった。
火魔法部隊が居るので、敵陸戦隊が突撃してきて、『ファイガドリング』で蹴散らされたり、風魔法部隊に切り刻まれたりした。
接近戦だと、見えにくく音もしない風魔法『ウインドカッター』の魔法が便利だった。
「よし、昼だ、飯を食いに帰ろう」
「戦争は良いんですか?」
「戦争はみんなでやるもんだ、うちらの部隊が抜けた穴は別の部隊が塞ぐ。飯が終わったら帰ってまた砲撃するんだぜ」
火の第三と風の第二は一緒にリンデル軍の本陣に戻り、食堂でランチとなった。
なんだか美味しそうな物が一杯のったプレートとスープ、そしてお茶が出た。
「ふわああ、戦場にいたら太ってしまいそうですよ、師匠」
「意外に魔女はエネルギー使うから太れないよ、たんとお食べ」
「はいっ」
「ターラーさんは『青』なんですね、凄いなあ、私なんか『黄』だから憧れちゃいますよ」
「え、えへへへ、褒められると困っちゃうなあ」
「あんなに『ファイグレネード』が飛ぶなんて、凄いですよっ」
「ありがとう、ええと」
「アランと申します、よろしくお願いします、ターラーさん」
「はい、よろしくね、アランちゃん」
アランとはワルプルギスの夜市で会ってはいたけど、名前までは知らなかった。
というか、火の第三部隊の子はみんな火の組合で見た事のある顔だった。
「戦友って奴もよ、良い友だちになれるんだわ」
「そうなんですか、師匠」
師匠の言葉が正解のような気がどんどんしてきた。
「ランドランドには火の魔女は?」
「何人か行ってるぜ、あっちに付くとクランクに殺される事は無いからなあ」
「ああ、そんな理由で」
「クランクが見えたら、ランドランドに付く魔女の気持ちがわかると思うぜ」
「こ、怖いですよねえ」
クランクさんは魔女でも兵隊でも剣豪でも関係無く、剣の届く所に居る敵は全部殺すそうだからね。
そりゃ、怖いよね。
ターラーは口の中でつぶやいた。
美味しいランチを完食し、昼休みを取ってからゆるゆると午後の戦闘に、火の第三と風の第二は向かった。
そして、ターラーは初めて『剣』の魔女クランクと戦う事になる。
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