ずるいあなたが大好きです

「簡単ですよ。つまり……全員死ね」


 にこり、と微笑み、メルさんは言い放った。

 平伏す者達は、一斉に身体を震わせる。


「お、お待ちください! それはあんまりでは!」

「そうです! きっと我々は役に立ちます、ですからどうか……どうか……っ!」


 何度も床に額を打ち付け、竜達が口々に訴える。

 助かりたくて、死にたくなくて。


「あ、言っておきますけど、全員というのはここにいる者だけを指しているわけじゃありませんよ。ドラグロア王国に住む国民全てですから」

「「「「「っ!?」」」」」


 さすがにこれは予想外だったのか、この場にいる全員が……コンラートさんやエルザさんまでもが、一斉に息を呑んだ。


「当然でしょう? 貴様達はファーヴニルを見限り、死ぬことを強要した。なら、この私が貴様達を見限って、死を強要して何が悪い」

「で、ですが、市井に住む者達は関係ありません! さすがにそれはやり過ぎ……」

「黙れ。誰が発言していいと言った」

「ひっ!?」


 立ち上がり物申そうとした一人だったけど、メルさんの強烈な殺気に当てられてその場でへたり込み、軽く悲鳴を上げる。

 他の人達も何か言いたそうだけど、そんなことをしたら自分が真っ先に殺されてしまうことを自覚し、ただ拳を握りしめてうつむくばかり。


 ふと見ると、コンラートさんが僕に視線を送っていた。

 きっとそれは、メルさんを止めてほしいということだと思う。


 でも……僕は、首を左右に振った。


 ひょっとしたら僕がお願いすれば、メルさんは竜達を殺したりはしないかもしれない。

 だけど、僕には彼女を止める権利も、資格もない。


 竜達に裏切られ、大切な人を奪われ、命を狙われたのは他ならぬメルさん。

 僕はただ、暗黒の森で出逢って、僕にできることをしただけ。彼女が受けた境遇と、それによって宿した憎悪を、僕が否定することはできないんだ。


 この国に住む竜達の中には、コンラートさんやエルザさんのような、本当はとても優しい人達がいるのかもしれない。

 僕のことを認めてくれる人が、いるのかもしれない。


 それでも僕は、メルさんに『竜達を殺すのをやめて』って言えない……ううん、そんなことを言っちゃいけないんだ。


 だって僕は……僕だけは、絶対にメルさんの味方でなきゃいけないから。メルさんの味方でいたいから。


 コンラートさんとエルザさんについては、僕が殺してほしくなくて、あえてメルさんを止めるようなことをした。

 でもそれは、クラウス達を倒すために、二人の力がどうしても必要だったから。


 もちろん僕は、二人のことがメルさんの次に大好きだし、絶対に死なせたくなんてない。

 もしメルさんが二人を殺すと決めたら、その時は……って、そんなことはないよね。


 だってメルさん、本当はすごく優しいもん。

 僕が嫌だって思うことは、絶対にしようとしないから。


 だから。


「ギルくん?」

「えへへ」


 僕はメルさんの手を握り、微笑んだ。

 彼女がどんなことをしても、僕だけはずっとそばにいるんだって、それを知ってもらうために。


 僕のことなんて気にしないでいいよって、そう思ってもらうために。


「……今すぐ皆殺しにしてやろうかと思いましたが、気が変わりました。三日だけ猶予を与えます。自ら死ぬか、私に殺されるか、好きなほうを選ばせてあげますよ」

「え……?」


 メルさんの言葉に、僕は思わず声を漏らす。


「だって、私はクラウスとの『王選』で疲れていますし、ギルくんと二人っきりになりたいんです。いつまで経ってもはっきりしないですし、時間の無駄だもの。そのせいで貴重なギルくんとの時間を奪われるなんてあり得ない」


 フン、と鼻を鳴らし、メルさんは僕を抱えたまま立ち上がった。


「ギルくん、用事は終わりましたのでもう行きましょう。君とは色々としたいことや、見せたいものもたくさんありますから」

「は、はい」


 メルさんは僕の手を取り、呆けたままの竜達を置き去りにして、謁見の間から出た。


「そ、その……僕のせい、ですよね……」


 きっとメルさんは、竜達が殺されてしまったら悲しむと思って、わざと・・・あんなことを言ったんだ。

 死にたくなければ、三日以内にこの国から出て行け、と。


 でも。


「違いますよ? さっきも言ったとおり、本当に面倒くさくなっちゃったんですよね。いちいち付き合っていられませんから」

「でも……」

「ギルくん」

「はう!?」


 メルさんに両頬を手で挟まれてしまい、僕は変な声を漏らしてしまった。


「私は、私がしたいようにしただけです。あの竜達が目障りで、消えてほしくて、だからこそ殺したい。なのでギルくんが気にするようなことは、何一つないんです」


 真剣な表情で、諭すように告げるメルさん。

 見つめるその真紅の瞳には、僕へのありったけの優しさと想いが込められていた。


「もう……メルさんはずるいや。でも、大好きです」

「ふふ! 私もギルくんが、大、大、大好きですよ」


 少し口を尖らせたけど、すぐに笑顔になって僕はメルさんを抱きしめた。

 彼女もまた、そんな僕を優しく抱きしめてくれたんだ。


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 お読みいただき、ありがとうございました!

 これにて第一章は終わりとなります。


 明日は幕間としてコンラート視点、謎視点の話を二つお届けし、明後日から第二章のスタートとなります!


 第二章では、人間の国……ギルベルトのいたハイリグス帝国に試練という名のざまぁが押し寄せます……!

 どうぞお楽しみに!


〇作者からのお願い


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