第43話 時計塔の鏡が映すもの②
「じゃあ、先に僕が話すよ。ごめん、アリシア覚悟してね。ミランダとかぶるから……」
ブライアンがアリシアの顔を心配そうにのぞき込む。
(ああ、やっぱり私は処刑されるのね)
話を聞くのは怖いが、何も知らないのはもっと怖いと思った。
「わかったわ」
アリシアは頷いた。
「僕は自国でアリシアの義妹毒殺未遂の事件を聞いたんだ。それで君を助けに行こうとしたが、間に合わなかった。刑は異例のスピードで執行されて、アリシアは処刑された後だった。でもアリシアが義妹を毒殺しようとするなんてありえないと思ったんだ。僕は後悔した」
「おい、ブライアン、お前なんか隠しているな? ずいぶんはしょっているぞ? 」
サミュエルの突っ込みに、ブライアンが困ったように頭をかく。
「アリシア、その……誤解しないで聞いて欲しい。アリシアは僕の大事な友達だから。だが、鏡に映った僕はアリシアを愛していたんだ。僕はアリシアにふられてと言うか、アリシアの心の中にはジョシュア殿下しかいないのがわかって、傷心して自国にかえったんだよ。その矢先に君が処刑された」
「で、ブライアンは今アリシアにほれているのか?」
サミュエルの言葉に渋面を作る。
「気になるところが、そことかおかしいだろ! 違う友人だ。でも僕の見た映像はそうなっていた。で、僕もその後アリシアが義妹と毒殺しようとしたなんて考えられなくて、この国に滞在して役所に行ったり、魔法学園時代の友人の伝手を頼ったり、茶会で情報を集めたりしていた。ところが王宮の茶会でマドレーヌを食べた後、息が出来なくって苦しくってもがいて、真っ暗になって終わり」
「そうか、ブライアンも死んだか。俺もだ」
ブライアンが不満そうな目をサミュエルに向ける。
「率先して鏡を見に行こうと言ったわりに、お前は話していないよ?」
「話すよ。そうしないとアリシアが話しづらいだろうから。その前にこれだけは言わせてくれ。アリシア、安心してくれ、俺はジョシュアの側近にはならない。魔法騎士団に入る」
サミュエルの言葉に、アリシアは大きく目を見開いた。
「何を言っているの?」
彼は、アリシアが牢獄にいる姿を見たのだと確信した。
「ミランダが、魔法師団でアリシアを守り、俺が魔法騎士団でアリシアを守れば済む話かもしれない」
「馬鹿なこと言わないで」
アリシアは言ったが、サミュエルはどこ吹く風で自分の話を始める。
「まず、マリアベルが毒を飲んで騒ぎになる。君が犯人だとメイドが証言するんだ。この者は王宮のメイドで長くつとめ信用もある。それから、学園で君がマリアベルをあしざまに言っていたという証言が集まり、君がよく利用していた王宮の図書館から毒の入った瓶がみつかる。それは君がいつも持ち歩いてものだと多くの証言があつまる」
「そんな……王宮の図書館なんて、いろいろな人間が利用するだろうに」
ブライアンの声に怒りが滲む。
「それが、王族しか入れないエリアから見つかるんだ。君は次期王太子妃としてそこに出入りしていた。つまり証拠がすべて出そろって、俺はジョシュアと共に君がつながれていた地下牢に向かって、この証拠や証言を読み上げるんだ。だから、なんで君が俺を嫌いなのわかっているつもりだ。俺がジョシュア側の人間だからだね」
アリシアはサミュエルのまっすぐに向けられた視線にたじろいだ。
嫌いではない、多分警戒しているだけだ。
「サミュエル。君は事件の真相も疑いもせず、それで終わりかよ?」
ブライアンはサミュエルの説明が気に入らなかったようで睨む。
「だから、俺も死んでいるんだよ。調べたからにきまっているだろう? 証拠が揃い過ぎて不審に思ったんだ。頭がいいアリシアがそんな杜撰な真似をするわけがない。だが、その矢先に汚職の罪を着せられそうになって否定したら、兄貴に『ロスナー家の恥』だと言われて後ろから刺された。嘘だろってほど痛くて、寒くて目の前が暗くなって意識ぷっつりと消えた」
「うわっ、死に様が壮絶だな。兄貴ってあの気持ち悪いアダムって奴だよな。というかお前があんな弱い奴に殺されるのか?」
ブライアンが真っ青になる。アリシアも恐ろしくなった。
「それでは、あなた方は私が処刑されても動かなければ殺されないのでは?」
「それが出来ないから、死んだんだろ?」
呆れたようにサミュエルが答える。
「つまり私の処刑から、皆の死が連鎖してしまうということ?」
「それではまるで呪いではないか。俺は違うと思う。君は冤罪をかけられて証拠を捏造された。それを暴かれると都合の悪い奴がいたってだけのことだろう」
アリシアは自分の見たものについては何も話していないのに、サミュエルが当たり前のように冤罪と言ってくれるのが嬉しかった。
(みんな、私を信じてくれている。それなら、なぜ私は処刑されるの?)
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