第5話

伊賀の里に戻った新堂小太郎と衣茅は、伊賀忍者の代表12人が集まる評定に呼び出された。

 評定を取り仕切っているのは上忍三家と呼ばれる百地家、藤林家、服部家。さらにその筆頭格は百地家の百地丹波(ももじ たんば)。

「大儀であったな小太郎、衣茅」

 近江之湖(いまの琵琶湖)から瀬田川を経て陸路信楽の山を超え、里に戻ってきた小太郎と衣茅を百地丹波は労った。

 小太郎と衣茅は変装していた山伏の装束のまま平伏した。

「勿体なきお言葉」

 小太郎は百地丹波の表情をちらり覗き見た。いつもと表情は変わらなかったが、険しさが増している。

「信長に間違いなかったか?」

 軒下から暗殺を指示していた小太郎は自信を持って答える。

「間違いござりません」

 丹波が頷く。そして言った。

「衣茅、そなたは直接見たであろう。信長に間違いなかったか?」

 衣茅は面をやや上げてこう呟いた。

「わかりませぬ」

 上忍三家の藤林保正(ふじばやしやすまさ)が衣茅を睨みつける。

「わからぬとはどういうことだ?」

 緩々と顔を上げ、衣茅が述べる。

「信長に会うたことがござりません。あれが信長というのならそうでござりましょうし、信長でないというのならそうではないのでありましょう」

 若いくノ一の無骨な様に、難渋な表情を見せる保正。続けざま衣茅に問いかける。

「戦国の世の覇者じゃ、もしそうならば死際も常とは違うとったはずじゃ。どうじゃ?」

 衣茅は目を伏せたまま言った。

「それで申せば、あっさりと術に掛かり常と変わらぬ戯男(たわむれお)でございました」

 そこではじめて上忍三家の服部正成(はっとりまさしげ)(後の服部半蔵)が呟く。

「やはりな」

 藤林保正が服部正成を見る。

「どういうことじゃ?」

「信長ではござらん」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る