第30話

私だけのものになってと言えたなら。


貴方しか要らないと言えたなら。


二人で逃げようと言えたなら。






———いいえ。



きっとそんなことを言っても無駄だ。





「お前だけが大事やって、そう僕が言い切れるほど強かったら、一緒にどこまでも逃げられるんやけどな」





だって彼にとっての一番は。






「どうしても捨てられへん。


この家も、お母様も、お前の未来も。


僕には全部が大事やから。


撫子だけを選んで逃げたらきっと……


いや、絶対。


絶対に僕は、後悔してまうから」





どうしたって、私ではないのだから。

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