第4話 女子プロ野球が開幕する
翌年四月初旬、女子プロ野球は開幕した。
それは予想以上の注目を集め大きな反響を呼んで、三千人近くの観客を動員し深夜に地上波で録画放送もされた。その深夜放送の中で一人の喫茶店のママさんが紹介された。テレビのカメラに向かって嬉々として彼女は語っていた。
「女子プロ野球?まあ、そんな言葉、六十年振りに聞いたわよ」
「えっ、そんな昔に女子プロ野球が在ったのですか?」
「一九五〇年に四球団が結成されて、日本女子野球連盟リーグが誕生したんです。最盛期には全国で二十五チームも在ってね」
「へえ~・・・」
「私は大阪ドリームスに所属していてね、皆、ユニフォームの儘で汽車に乗って全国を試合行脚したの、朝から晩まで野球漬け。でも、野球の楽しさに辛いと思ったことなど一度も無かった。毎日が充実していましたねえ」
「それで・・・?」
「最初は華々しく持て囃されたのだけど、資金難でね、たったの二年間でリーグは消滅しちゃったの」
「二年で消滅、ですか?で、その後は如何されたのですか?」
「大阪の電鉄会社に就職しました。当時、大阪には私鉄が五社在ったのだけど、全社に野球部が有ってね。その野球部が会社同士の対抗試合や商工会議所のチームなんかと定期試合をしていたの」
「はい・・・」
「野球がしたくて、やりたくて、我慢仕切れなかった私は、到頭、男性ばかりの野球部に紅一点で入部させて貰ったの」
「えっ、男性チームに、ですか?」
「ええ。レギュラー二塁手でしたよ。でも、結婚を機に電鉄会社を退職することになって、同時に野球も止めざるを得ませんでした」
「野球までも・・・?」
「私達の若い頃は、女は嫁げば婚家に入って家事と育児に専念する。だから仕事も辞めて・・・ましてや野球なんて許されませんでした」
「言い換えれば、野球を取り上げられたようなものですね。それで、野球に未練は有りませんか?」
「七十六歳の今でも野球は大好きですよ。当時のメンバーと、大阪シルバークイーンズと言う、平均年齢七十三歳のチームを結成して、月に三回、草野球を愉しんでいます」
「それは凄い!」
「野球は素晴らしいです。私の歳になっても野球への情熱は衰えません。野球を好きだという気持には男も女もありませんよ。此の度の女子プロ野球が土台のしっかりしたリーグに育って欲しいと心底から思います。私達の二の舞にならないように、ね」
テレビ放映を観ていた由香は改めて、頑張らなくっちゃ、と身の引き締まる思いを胸に抱いた。
そして、由香がリーグを代表するエースに成長し、最優秀選手(MVP)に選ばれる大車輪の活躍を続けた二年が夢の如く瞬く間に過ぎて行った。
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