椿の花になる

長月瓦礫

導入

秋晴れが心地よい日曜日、あなたは幼馴染みであるツバキに誘われ、潮煙市民祭りにやってきた。待ち合わせ場所である公園の入り口は、多くの人で賑わっており、飾りつけされた看板には『潮煙市民祭り』と書かれてある。


「おーい! こっち!」


看板付近で待っていたツバキはあなたの姿を見つけると、大きく手を振る。


「ひさしぶりだな! 元気にしてた?」


「まあ、ほどほどに頑張ってるよ」


「俺も似たような感じかな」


ツバキとは幼稚園の頃からの付き合いで、たまに会って一緒に遊んでいる。

元気そうにしているのを見ると、なんか安心する。そんな存在だ。


「じゃあ、行くか。

中で飯でも食いながらゆっくりしようよ」


「お、いいね。ひさしぶりにのんびりできそうだ」


市民祭りでは、屋台やフリーマーケットなど、様々な催し物が開かれている。

ざわざわとした人の雑踏、風に乗って流れる屋台料理の香り、ゆったりとした時間が流れている。今だけが日常と切り離された、非日常であると感じる。

無邪気な笑顔で、子どもみたいにはしゃいでいる。本当に楽しそうにしている。

ツバキと二人で過ごすのは本当にひさしぶりだ。

木々が色づき、秋めく空気を感じる。


「どうした?」


「なんか秋だなあって。仕事してると季節を感じることってないからさ」


「そんなに分からないもんか? 疲れてるんじゃないの?」


「かもなあ。残業多いし」


「そっか。あんまり無理すんなよ」


「分かってるって」


雑談しながら歩いていると、鈴カステラ、焼き饅頭、団子の屋台が目に入った。

人は並んでおらず、すぐに買うことができそうだ。


「昔からこういうの好きよな。

すぐそうやって買い物に行ってお小遣い失くすんだもんな」


「そうだったっけ? なんかお祭りってさ、無性にワクワクするんだよね」


「頼むから迷子になるなよ、探すも大変なんだから」


「りょーかい」


ツバキは屋台のほうへ向かい、鈴カステラを買って戻ってきた。

10個入りで300円、袋の口をあなたに向ける。


「食べる?」


「いいの? じゃあ、1個もらうわ」


袋の中からカステラを一つ、口の中に入れた。

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椿の花になる 長月瓦礫 @debrisbottle00

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