銀の龍
彩原 聖
プロローグ
ひっそりとした小王国、ムングスレブロには二つの秘密があった。一つは誰にも知られてはならない王子について、もう一つは大昔に生息していた神秘生物について。
——私、オルフェウスはその謎を解明しようとムングスレブロへ向かっていた。時には野獣に、時には盗賊に、時には大雨に妨げられながら、馬車を乗り継いで、道なき道を進んで行った。
1ヶ月が経とうとしたその日、ついに王国に辿り着いた。
道中の険しさに反し、王国内は賑わっており活気を感じられた。ひとまず宿屋で荷解きをして今日は足早に就寝した。
翌日、朝食を済ませ近くのライブラリで情報を探る。ライブラリには多くの書物や文献があり、調べ物をするには最適な場所だ。そこで私は歴史書や地理書、生物の図鑑などに目を通す。幸い文字も理解できるし、文法についても問題ない。
小一時間ほど経ち、歴史書で気になる文章を見つけた。それは“あの銀の龍には指が二本ない”“凶悪な銀の龍を王国は封印した”というものだ。
『銀の龍』これはまさしく大昔に生息した神秘生物に該当するのではないだろうか。また、『指が二本ない』や『王国が封印した』という文言からもう一つの謎である王子についても当たりをつけることができる。
こんなに早く謎について有力な説を立てられるとは幸運だった。これは憶測だが、王子が自らを犠牲にし凶暴な龍の指を切り落としなんらかの方法で封印したのではないか?
ともすれば銀の龍の復活を恐れ、これらの歴史を禁忌の秘密としたのではないだろうか。しかし、公に情報がある以上その説の信憑性は低いだろうな。
午後、私は調べたことをノートにまとめ、この国に来て二度目の就寝をした。
調査の日々が続き、『銀の龍』についての情報も集まった。特に童話で登場することが多く、それらは龍の凶悪性を記述していた。
「今日も行ってくるよ」
「また今日もライブラリへ行くのですね」
「えぇ、どうしても『銀の龍』の謎を解明したいのです」
宿屋のマスターはカウンターから腰を上げ、長い髪をくくった。はぁと短く息をつき私の方をじっと見る。
「今日は私もつれて行ってください」
突然の申し出だった。彼女の目は好奇心に溢れキラキラしている。
私がここのところ毎日のようにライブラリへ行き調査していることがよっぽど気がかりだったのだろう。
「別に構わない」
こうしてオルフェウスと宿屋のマスターことリベリアは共にライブラリへ向かった。
リベリアはこの国で生まれ育っているので、ライブラリへ向かう途中でこの店はどうだとかあの店はどうだとか教えてくれた。
私たちに話が尽きることなく目的地についた。
二人でライブラリについたからといってやることは変わらず、書物を読み耽る。リベリアも私の真似をしてか足を組んで書物を探っている。
ここのところ暗中模索の日々が続いているせいか、いつのまにかその場で寝てしまっていた。
目を覚ますとあたりは真っ暗になっていた。ポケットの懐中時計を確認するとライブラリの閉館時間は過ぎていて、この場所に閉じ込められていることに気づく。
「リベリア、起きろ。もう閉館時間だ」
先ほどの私と同じように寝てしまっているリベリアを力いっぱい起こす。
リベリアはうーんと唸りながら目を擦り、まだ寝ていたいとほざいている。
ドドドンと鈍い音が響き、視界が揺れる。
誰かが近づいてきているのだろうか、その音は次第に大きくなる。
「リベリア! 起きろ、何かが近づいてきた」
耳を
月の光が"音"の正体を
それは銀色に輝く翼を持ち、悠に10メートルを超える巨体で、鋭い目つきをしている。
この生物こそ私が探し求めていた『銀の龍』であると悟った。
文献通り指が二本なく、体のところどころに傷ができている。
「おいおい封印してたんじゃなかったのかよ…」
「「ギュゥオォオォ!!」」
龍の声が二重に聞こえる。声というよりもはや咆哮とも捉えられるだろう。
…逃げるか? いや、もう無理だろう。
寝たままのリベリアを連れて走れないし、逃げ切れる確信もない。
龍の巨体に飲まれ私の最後の調査がこれにて終了した。
彼らのいたところにはハンドサイズの手帳が落ちていた。この国ムングスレブロに来てから毎日、オルフェウスが就寝前につけていた日記だ。
以下はその内容である。
—9年10月20日—
聞いていた謎を解明するために、私はこの国に辿り着いた。ここは緑豊かで美しく活気のある国だ。宿屋のマスターも懇切丁寧でご飯も美味しい。安心して眠りにつくことができる。
—21日—
目的のため近くのライブラリへ向かった。元いた国では見られなかった書物の山々や文献が散見され、胸が躍った。久しぶりに本職である学者として仕事できそうだ。
—2◯日—
今日も成果はない。『銀の龍』についての公の情報だけでは謎を究明できないのだろう。意図的に情報が操作されていると思う。
—◯◯日—
この国に来てから少なくとも8回は満月を見た、毎日ライブラリへ通い情報を探る。めぼしいものはない。まさしく暗中模索だ。
どうして私はこの謎を解明したかったのだろうか? たとえ依頼を受けていたとしても気軽に受けるべきでなかった。後悔先に立たずだな、引き受けたからにはやりきるのが私のモットーだ。くよくよしてられない、明日も張り切って調べよう。
(この先の日記は汚れて見えなくなっている。)
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