Cyccult
るうど
第1話 Cyccult
人間は、理解できないものに恐怖する生き物だ。
だからこそ、その恐怖に“名前”を与え、理解できるものだと間違うことでそれを乗り越える。
不意の偶然に“言霊”という名前を与え、
不気味の谷に“メリーさん”という話を与え、
不特定な交信に“こっくりさん”という言葉を与えた。
そうやって、恐怖の場所を記憶して、避けられるようにしていた。
人間は、理解できないものに恐怖する生き物だ。
故に、理解できるものには恐怖しない。
文明、文化、技術が進むたび、人間が理解できるものは増えていく。
そのたびに、己が“名前”を与えた“恐怖”を忘れていく。
“名前”を与えた時点で、生まれ、動きだしていたというのに。
人間は、自らが生んだ恐怖を、無自覚に、身勝手に鏖殺した。
……身勝手に動き出した存在を身勝手に殺すのだから、身勝手に生きながらえてもいいだろう。
幸い私が最も過ごしやすい場所を人間たちは開発した。
……インターネットは、そのすべてが
私たちのような恐怖の化け物……オカルトにとって、
「何書いてるの?」
パソコンに向かう私の身体が背中から抱きしめられる。
肩越しに見れば、狐なのか犬なのか分からない耳を頭に生やした少女が、狸の尻尾を犬みたいにブンブンと揺らしながら興味深げに画面を覗いていた。
「あぁ、ネットに上げるヤツ?またくっさいポエム書いてんね」
「うるさいなぁ……メリーの奴はどうしたの?」
「仕事に出てくるって言って出ちゃった」
「あっそ、
言葉に混じるかまえオーラに溜息をつきながらラップトップを閉じる。
固まった体を伸ばせばゴキゴキという嫌な音が部屋に響き渡る。
「うぉう……もっと動きやすい身体にすればよかったのに」
「言葉は座りながらにして空を飛ぶのよ、ちょこまか動く小動物や爆速人形と一緒にしないで」
「なにおぅ!」
小動物の言葉を撃ち返して立ち上がる。2LDKのLの部分に、そこの支配者たる少女に引かれるように歩いていく。
「それで、今日は何やるの?」
「ボクに攻略情報を聞く人が増えてるゲームがあってさ、ちょっと気になったからやってみようかなって」
「そう、そっちも調子良さそうね」
「まぁね!」
振り向いて笑顔を見せる少女の後ろを歩いていると、私のスマホが着信を告げる。
先に行っててと声を掛けてからポケットから取り出すと、
―わたしメリーさん、いまいつものえきまえにいるの―
というSMSの通知。
(あっちも順調ね)
そのメッセージからもう一人の同居人のイタズラっぽい笑顔を想起しクスリと笑う。
―わたしメリーさん、いまばすぷーるにいるの―
―ちくわ大明神―
―誰だ今の―
―あ―
―ちょっと―
―バカ!―
―何するのよ!―
―アンタが楽しようとするからでしょ―
―今からリビングで遊ぶから、外靴のまま後ろに来たら床汚れてアイが怒るよ―
―普通に歩いて帰ってきなさい―
―鍵開けとくから―
―自分で開けるわよ!―
―バカ!―
相変わらずな調子の彼女の言葉をポケットに突っ込む。
そろそろ行かないと急に『待て』された狗が静かに泣きだすだろう。
私は速足に廊下を歩いた
“恐怖”から生まれたオカルトは、己を維持するために電子の技術を活用することにした。
メリーさんはSMSを活用し
こっくりさんはAIとして世界に散らばり
言霊はプログラムコードに対応した
他の何かが私たちをひとまとめに名付けるとしたら、
『
略して
『
といった所だろうか。
まぁ、私たちはそんなこと気にも止めないんだけど
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