第39話 服選び

 ユルグと遊びに行く。

 映画を観る。

 そこまでは決まりました。


「ちょっと……服やっぱり足らない?」

「でも、じゅうぶん可愛いじゃないですか?」


 ここは私の部屋。

 ミュルルとラーラが盛り上がってます。私がユルグと遊びに行く時に来ていく服を選ぶのに。


 今、私は、ミュルルの可愛い服コレクションの中から、サイズ的に着られる物を持ってきてもらって、取っ替え引っ替え着せ替え人形と化している。


「もっとレースのいっぱいある服がよくないですか?」

「うーん。それよりもふわもこ系は?」

「機能的で疲れない服が良いんだけど」

「ダメ。せっかくのデートなんだから、普段よりもオシャレした胡桃ちゃんをユルグに見せたい!」


 ミュルルが張り切っている。

 ラーラもワクワクしている。


「もう少し、胸元をあければどう? 少しだけあけて大人の女性を意識させるの」


 とんでもないことを言い出したのは、モーガン。唐突に様子を見に来たのだ。

 モーガンったら、じっと部屋の隅に座って私達の様子を黙って見ていたのに、何を言い出すのだ。

 む、胸元をあける? いやいやいや。無理。無理よりの無理、キングオブ無理。


「なるほど……」

「ミュルル、ちょっと! それ同意しないで」

「そうですよ。胡桃ちゃんの売りは、清純派っぽいナチュラル感ですから」

「ラーラ? いや、そうじゃなくって」


 違う。違うの。そうじゃないの。


「そもそものそもそもで、これ、遊びにいくだけだから。映画観に行くだけだから」

「二人で映画でしょ?」

「そう」

「やっぱりデートじゃないですか?」


 目をキラキラさせて、ラーラが喜ぶ。私よりもよっぽど乙女なラーラ。

 きゃーっ! て、デートという単語に盛り上がるラーラの姿は可愛いけれど、違うのよ。


「ゆ、ユルグだってきっと、ただ友達と遊びにいくだけって思っているだろうし、私がそんな……む、胸元をあけてセクシー系で来たら、ドン引きするわよ」


 そう。当人達がそう思っていないのならば、デートにならないのだ。

 だって、ただ連れ立って遊びに来たのに、普段とは違うデートを意識しまくった服を私が着て来たら、ユルグ、最悪、帰っちゃうよ?


 そうだよ。私のセクシーな格好を見て無言で帰るユルグ、簡単に脳内再生できるんだけど。かなりの確率で、発生しない?

 後、どんだけ気まずいのよ。

 泣きながら一人で映画観る羽目になるのは嫌よ?


「どう思う? モーガン」


 ミュルルがモーガンに尋ねる。


「何が?」

「ユルグがドン引きするって胡桃ちゃんが言うんだけれど」

「平気でしょ。てか、もっと背中もガバッとあける勢いが必要じゃない? だって、あれ元魔王よ? サキュバスとかも見慣れてんのよ?」


 サキュバス。

 それは、夢魔とかと同一視される魔物。

 ファンタジーとかでは、セクシーなお姉さんで描かれることも多いの。


「いや、サキュバス目指しませんから! 無理、無理なの!」


 ユルグが元魔王ならば、私は元社畜だ。

 元社畜。

 会社と家を行き来するだけの存在。会社で事務仕事をこなして家に帰れば寝るだけ。オシャレも何もあったものではない生態。


 元社畜に、サキュバス的なものを求めないでいただきたい。


「ユルグさん、意識してなさそうですか?」


 ラーラがモーガンに怖々と聞いてみる。

 どうなの? それは……私も気になる。


「さぁ……どうだろう」


 不敵な笑みをモーガンが浮かべる。

 わ……モーガン、分かって言う気がないっ!

 さすが誘惑の魔女。

 私はモーガンの手のひらで転がされっぱなしっぽい。

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