殺戮隊

夜留 愁

第零章 生まれ出会う

プロローグ 春風に誘われて

 20XX年

 

 日本で少子化を防ぐために、どんな理由であろうと中絶を禁止することになった。


 これにより、日本の人口は爆発的に増えた。しかし、それと比例して子供を捨てる親も増え、孤児院の数も上昇した。


 また、質の良い子供を育てるため、不出来な子は早々に親から捨てられてしまった。


 捨てられた子供たちは売られるか、孤児院に入るか、犯罪や戦争の道具として使われるかのルートしかない。よって犯罪をする子供が増え、日本の治安が一気に悪化した。


 そこで生まれたのが、「国家特殊部隊」。


 通称「殺戮隊さつりくたい」である。


 これは、殺戮隊に入った少女の話である。



 





 







 やっと春がやってきた。孤児院の庭の木々や桜、チューリップ、薔薇などの花々が風に揺られている。葉の隙間からは温かい春の光が差し込んでいる。

 

 もり 聖菜せいなは孤児院の縁側に出て、外の空気を吸った。花の香りが微かにする。


「今日は天気がいいから、洗濯は外に干すかな」

 

 聖菜はそう言って、洗濯物を取りに孤児院の中へ戻ろうとした。そのとき、外で何か重いものが落ちる音がした。


 ドサッ……ザッ


「え?」

 

 慌てて振り返る。何かが落ちた音のあとに、誰かが草の上を歩く音がした。だが、人の姿は見当たらない。


「泥棒? いや、まさか」

 

 聖菜は急いで庭に出る。そして、花々をかき分けながら、前へ進んだ。


 生みの親が無断で、孤児院に赤ちゃんや子どもを置いていくことが、最近増えている。名前や生年月日がわからないから、その子たちは無戸籍扱いになってしまう。その子の親を探すのも、かなりの時間とお金がかかるから、ほったらかしにしてしまう孤児院もある。


 聖菜はまだ親が近くにいると思い、小走りで庭の中を探し回る。だが、人の気配が全くない。


「おかしい。音はしたのに、どうして見つけられないの。まだ遠くに行ってないはずなのに」

 

 聖菜は胸あたりまで伸びてしまった雑草をかき分けて、地面もくまなく探す。もし、置いていかれたのが赤ちゃんだったら、早く探さなくてはならない。

 

 そう焦り始めた聖菜は、子供を探すほうを優先させた。

 

 

 しばらく屈んで探してみたが、見つからない。体が痛くなってきた。聖菜は上体を伸ばす。晴れやかな空を見上げていると、突然強い風が聖菜の髪を右から左へ揺らした。


 聖菜は思わず左へ視線を向ける。そっちには、桜の木が生えていて、下にはチューリップやスイセンが咲き誇っていた。そこはまだ探していなかった場所だ。


 聖菜はゆっくり歩き、チューリップやスイセンを上から見下ろす。すると、何本か折れてしまったチューリップがあった。空洞になっている。それがいくつもあり、明らかに、誰かが歩いた跡がある。


 それを追っていくと、真っ白な布に包まれた何かを見つけた。

 

 聖菜はそれを抱きかかえる。見ると、それは穏やかな顔で眠っている赤ちゃんだった。


「すごく、静かな子ね。名前は……」

 聖菜の声に反応するかのように、草の上に一枚の紙が落ちる。

 

 聖菜はその紙を拾い上げ、確認する。


「春夏秋冬……いや、秋がない。もしかして、春夏冬あきなし? 名前は……三月みつきね」


 名前を聞いた赤ちゃんは、目をパチっと開け、聖菜をじっと見る。丸くて大きい目に、聖菜の困惑した顔が映る。


 赤ちゃんは聖菜に小さくて短い手を伸ばす。聖菜は思わず、その手をぎゅっと握りしめた。すると、赤ちゃんは「あうー」と言って笑った。聖菜もつられて笑みをこぼす。


 この二人を見守っていた植物は、まるで祝福でもするかのごとく、大きくその体を左右に揺らした。


「この子がどうか、無事に大人になれますように」

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