第1章4話:逃亡計画

「助かりたいか?」


ラミアリスが俺の声に反応する。


暗くて見えにくいが、ラミアリスがこちらに視線を向けてきた。


俺は言った。


「この馬車で集落まで移送されたら終わりだ。一日中いちにちじゅう、監視されるし、逃げられなくなる」


ゲームでも、馬車から逃亡せずに集落まで到着してしまうと、そのままバッドエンドになる。


ルーカーとしてプレイをはじめた場合の洗礼として知られている。


ゲームだったらロードして再開できるものの……


今はゲームじゃない。


本物の異世界だ。


バッドエンドは即終了そくしゅうりょう。二度目はない。


「もう一度聞くが、助かりたいか? 自由を手にしたいか?」


「当たり前じゃない」


ラミアリスが答えた。


「あたしはこんなところで終わるつもりはない。いつか絶対、幸せな暮らしを手に入れるんだから。ルーカーとして、最下層をいずるつもりはないわ」


どうやらラミアリスは、希望をあきらめていないようだ。


俺は微笑んだ。


「そうか。だったら、俺が助けてやろう」


そして続ける。


「今から俺が言うことに、黙って従ってくれ。そうしたら、あんたを助けられる」


「あなた……何? せめて名前ぐらい言いなさいよ」


「ロッシュだ。あんたは?」


「……ラミアリスよ」


ラミアリスが答える。


続けて彼女は尋ねてきた。


「で? どうするつもりなのよ?」


「とりあえず、この馬車から脱出する」


ラミアリスが険しい声で言ってくる。


「脱出といっても、馬車の周囲に衛兵が6人はいるわよ。御者ぎょしゃもいれたら、7人が敵だわ。たった2人で倒せる?」


「無理だな」


俺は正直に答えた。


こちらは2人。


相手は7人。


ただでさえ数の不利がある。


おまけに、俺たちには武器もなく、ルーカーであるためユニークスキルもない。


武器とユニークスキルをどちらも使える衛兵たちと戦うには、あまりにも力不足ちからぶそくである。


「倒すことは考えず、今は逃げることを優先する」


「逃げるって、どうするのよ?」


「いいか? 今、この馬車は崖沿がけぞいの坂道を走っている。そう、すぐそばに崖があるんだ」


「崖……まさか」


ラミアリスが思い至ったようだ。


俺はニッと笑った。


「そうだ。崖から飛び降りるんだ」


ラミアリスが絶句する。


彼女は少し語気を強めて言ってきた。


「崖から飛び降りるって……かなりレベルを上げてないと死ぬでしょ。あたしはレベル低いわよ」


この世界にはレベルやステータスという概念がある。


自分のレベルやステータスは、頭の中で念じることで確認可能だ。


「俺もレベルは高くないぞ」


と俺は言った。


「じゃあダメじゃない? 絶対死ぬし、たとえ運よく生き残っても、大怪我おおけがするわ。動けなくなったら意味ないでしょ?」


「実は、この崖の下には川が流れているんだ。そこに上手く着水ちゃくすいするように飛び降りる」


「そんな無茶な……」


「無茶でもやるしかない。なにしろ成功したら、衛兵を振り切ることができるからな」


と俺は説明する。




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