伝説の剣を抜いちゃったので、魔法使い辞め……ようかと思ったけど、やっぱり魔法使いで良いです。と言うか、この剣どっちかというと呪いの剣なのでは?
日傘差すバイト
第1話 抜いちゃったというか抜けちゃったというか。
我が魔法の師匠が死んで、はや100年と少し。
今日も、いきつけの泉には、かつての勇者が使っていたとされる伝説の剣が突き刺さったままだ。
まるで、墓標か何かのように。
そいつは、泉の真ん中の岩に、重く静かに佇んでいる。
そして、その光景はいつもの事で、私にとって、もはやただの日常でしかない。
日課である早朝の水くみの時に、嫌でも目に入るそれは、馴染みの風景すぎて。
見飽きたと言ってもいいくらいなわけだ。
だって。
魔法使いとして捨食(飲食不要)と捨虫(不老長寿)の修業を積んだ私が、物心ついた時からあるということは、300年以上も刺さったままというわけで。
それだけの永い年月見続けたらだれだって飽きるよね?
私は飽きた。
けれど、そんな私でも、ただひとつ、今でも凄いと思うことがある。
それは、その剣がどんなに雨ざらしにされ続けていても、まったく錆びもせずにピカピカのままだってことだ。
師匠は、星の心が産み出した超スゴ武器だからだ、って言っていた。
人間が鍛える武器とは違って、最初から武具として生まれた神造兵器だとかなんとかだという。
そんなすごい武器だというのに。
私が知る限り、 今までにこの剣を抜きに来たものは誰も居ない。
こんな深い森の中に、この剣があるなんて誰も知らないのかもしれないし。
森の外の世界が平和過ぎて、こんな剣の力なんて必要ないのかもしれない。
ま、森から出たことない私の知った事じゃないけどね。
――さて。
私は、いっぱいになった水桶を泉のほとりに置いた。
水汲みは終わりだ。
私は媚薬、毒薬、爆薬なんかの
水汲みついでに、薬草なんかの素材を集めて帰るのも日課の一つでして。
でも、今日はまだその必要はないかな、と思う。
つまり、あとは帰るだけだけど……。
たまにはアレをやって見ようか。
そう思い。
私はおもむろに、ばしゃばしゃ、と泉へ入る。
水深がくるぶしまでくらいしかないから、泉の真ん中――つまり剣の所までは簡単に行けるのだ。
私はたまに、こうして勇者チャレンジをしている。
うっかり抜けないかな、なんてね。
要はただの暇つぶし。
お遊びってわけ。
「相変わらず、見た目だけはいっちょ前ね」
まじまじと、近くから剣を眺める。
早朝の木漏れ日に照らされる金色の鍔と、透き通った
周囲には、神秘的な雰囲気が立ち込めている。
ま、それもいつもの事だけどね。
私は、何の頓着もなく、無造作にその柄を掴んだ。
そして引き抜こうと試みる。
けれど、やはり硬く刺さった切っ先はびくともしない。
何千回と試みても、何百年も抜けなかったものが、そう簡単に抜ける筈は無い。
それもまぁ、予想の通りと言うか、いつも通りってわけで。
今日も一日、何の事件もないことが確定したわけで。
「今日もつまらない日になりそうね」
そんな独り言を零しつつ、剣の柄から手を離した。
その瞬間。
ずごごごご。
と地響きが――。
「なっ、ちょ……!」
いや……。
これは地響きどころじゃない。
次第に強まる振動に、バランスを崩しそうになる。
「え? 何? 地震!?」
私は、立っていられない程の揺れに、しゃがみ込み、目の前の代物にしがみ付いた。
長く、強く、激しい揺れが、地面を震わせる。
やがて揺れが収まるころ。
私は、がしゃん、と、水しぶきを上げて盛大に倒れ込んだ。
「痛ぁっ!?」
ずぶぬれの最悪の感触と共に。
ひんやりと頬に当たる金属に。
思わず瞑ってしまっていた眼を開ける。
そしてハッとする。
「え?」
まさかと思い。
倒れた身体を起こし。
水面に座り込んだ私の手には確かに、『伝説の剣』があった。
抜けてしまっていた。
ひび割れた岩から。
ポロリと。
「……えっ!?」
そうして。
驚く私の前で。
剣から、光る何かが飛び出した。
かと思えば――。
「はじめまして、お初にお目にかかります、勇者様……?」
そんな見知らぬ可愛らしい声が、私の頭上から降りかかるのだった。
って勇者!?
「はぁ……!?」
いや、私は魔法使いですが?
伝説の剣を抜いちゃったので、魔法使い辞め……ようかと思ったけど、やっぱり魔法使いで良いです。と言うか、この剣どっちかというと呪いの剣なのでは? 日傘差すバイト @teresa14
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