第25発目 東方会談
王都内にある国民用の王国議事堂。
その中にある会議室に、バレル率いるコルッツ王国組、春奈率いる陽月国組、俺が率いる第三者組の三つに分かれ、それぞれ代表が席に座っていた。
「それではこれより、和平会談を行わせていただきます。進行は私、ミハイル・フォン・シュヴァリエが行わせていただきます…」
進行役に選ばれたミハイルが、自己紹介を行う。
「それと、今回の和平会談には不正が行われないようにするため、陽月国並びにコルッツ王国の全土に、魔法通信を通して配信されております。そこのところ、ご了承ください…」
自己紹介に続けて、ミハイルは会談が放送されていることを話した。
このアイデアは俺が提案した物で、戦後にコルッツ王国の貴族達が駄々を捏ね言うことを聞かないことを防ぐのと、両国の住民に相手のお偉いさんがどんな者か、しっかりと知って欲しいと思ったからだ。
何せ、コルッツ王国は、陽月国の奴隷化を狙っていたから、あることないことを吹き込んでいたらしいし…
「では初めに、陽月国の皆様方、コルッツ王国への要求をお願い致します」
「はい…!」
ミハイル呼ばれ、春奈は席から立ち上がった。
「我々、陽月国の要求は、コルッツ王国が占領した我が国の領土の返還、荒らされた村の修復工事費や、武器代などを含め神金貨24枚の賠償金。この2つです…」
「ふざけるな…!」
春奈の要求に、外務大臣として同伴していたアルベスが、声を荒げて叫ぶ。
「たかが廃れた村に、それほどの大金が本当に必要なのか!? 私を騙そうとしても、そうはいかんぞ!!」
「アルベス…っ!」
「し、失礼しました…」
賠償金の金額にアルベスは不満を示すが、レオンに睨まれ大人しくなる。
「…はぁ~…分かりました、賠償金は神金貨12枚に致します……」
「それなら……まぁ……」
溜息を吐いた後、春奈は金額を下げ、アルベスはそれに納得する。
というかこれ、元々12枚請求するつもりだったんじゃないのか?最初に明らか相手が拒否するレベルの物を要求した後、それよりレベルの低い本命を要求するという、一種の交渉術を使ったんだろう…陽月国恐るべし…
一人内心で陽月国に関心していると、
「それでは次に、神使であられる永山大翔様、コルッツ王国への要求をお願い致します」
俺の番が来た。
個人一人が一国と同レベルの発言力があるのなんでだろう…
そんな疑問を抱きつつ、俺は席から立ち上がり、コルッツ王国への要求を述べることにした。
「俺からのコルッツ王国への要求は、金や領土などではなく、政治体制の変更です。今のコルッツ王国は、絶対王政という王族や貴族が政治を行う体制です。それを民主化という、数年に一度、国民が一人の代表を選び、選ばれた代表が政治を仕切る体制に変更をして欲しいのです……」
「…ならば、王族や貴族達はどうするのだ!? もしや全員打首か!?」
俺の要求に、アルベスが食いつく。
話を最後まで聞けよ…
「私的には、王族や貴族の処刑はしないべきだと考えております…」
「……何故です? 国民の一部には、王族や貴族を処すべしと唱えている者が居ますが…?」
アルベスへの回答に、今度はレオンが首を傾げながら聞いてきた。
「確かに、彼らは市民に圧政を強いてきた。だが、彼らもまた同じの人間です。権力が強いだけで、一般人と変わらない人間です…なのでここは、権力を剥奪し、辺境の地で住まわせる…もしくは一般国民と同レベルの生活を強いらせるだけで抑えるのが賢明でしょう。それに一般国民にいい奴や悪い奴が居るように、王族や貴族にも汚職をしていない良い人が居るかもしれません…そういった者まで、罰を与えるのは違うと思うのです…」
「一理ありますな……」
「嗚呼…奴らにとって、贅沢ができないのはそれなりの罰になる。汚職に関しては、調査団で徹底的に調べ上げればいい……」
俺が処刑を行わない理由を述べると、バレルやレオンは納得してくれたようだ。
アルベスは不満そうな表情を浮かべているけど…まぁ、下手に文句を言えば、処刑する方向に行く可能性があるから、噛みついて来ることはないだろう。
「……ではこれより、一度休憩に入らせてもらいます。陽月国一行と永山様一行はご休憩してもらい、コルッツ王国一行はその間に、要求を飲むかどうか話し合うようお願い致します。会談の再開は今から30分後と致しますので、それまでにこの部屋に戻ってきてください…それでは、各自休息をお願いいたします」
一通りのコルッツ王国への要求が出た後、ミハイルはコルッツ王国組のための時間を取ることにした。
俺らは席を立ち、個別に用意されている部屋に戻ることにした。
〇
「あ~…一息付ける~…」
用意された部屋に戻った俺は、中にあったソファに座り、背もたれにもたれた。
「…永山様、ありがとうございました……」
エルメスは頭を下げ、礼を述べた。
恐らく王族や貴族の処刑に反対したことの礼だろう…
「確かに父は嫌いでしたが、姉達は優しくて好きだったので…」
「…そう言った良い人も処刑されるのは違うと思っていたからな…礼を言うまでないよ」
俺は本音を伝え、上半身を起こして、テーブルに置かれてあったポットを手に取り、カップに紅茶を注ぎ始めた。
「まっ、今はゆっくり寛ごう…! 30分なんてあっと言う間に過ぎるしさ!」
「はい…!」
エルメスの分の紅茶も入れ、俺らは時間が来るまでゆっくりと寛いだ。
〇
「遅れました。申し訳ございません…」
休憩開始から40分くらい経った後、先程の会議室にコルッツ王国組が、謝りながら入って来た。
どうやら、中々話が纏まらなかったようだ。
「それでは、少し遅れていますが、和平会談を再開致します…コルッツ王国一行の皆様方、陽月国と永山様からの要求をどうするか決まりましたか…?」
コルッツ王国組が席に着いたのを確認した後、ミハイルは会談を再開させ、コルッツ王国組に尋ねた。
「はい…相談の結果、我々コルッツ王国は、皆様方の要求を全て飲むことに致しました。王族や貴族から反対の声が出るでしょうが、彼らは我々国民と陽月国に負けたのです。きっと、大人しく聞いてくれると信じております…」
バレルは会談の様子を取っている水晶玉の方を見ながら、俺達に答えを出した。
「では、陽月国の皆様方や永山様もこれでよろしいですね?」
「はい」
「ああ…!」
ミハイルに俺らはそれぞれコルッツ王国の決断を了承した。
「それでは、これにて和平会談を終了させていただきます。皆様方、お疲れさまでした…」
こうして、後の世に東方会談と呼ばれる和平会談は、コルッツ王国が全面的に要求を飲むという形で幕を閉じた。
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