アラサー男は二分の一の初恋を忘れたい。
さんまぐ
新しい(仮)彼女。
第1話 寝言で呼ぶ初恋の名とサヨナラ。
夜明け空。
まどろみの中、横に眠る彼女を抱き寄せると、程よい温もりに二度寝の波が押し寄せてくる。
こういう時は肌寒い季節に感謝してしまう。
二度寝の波に流されながら思うことはいつも同じ、初恋の思い出と後悔。
他責思考に陥りたくないし、他責主義者ではない。
そう思うからこそ、寝る前のこの瞬間が嫌でたまらない。
1人で眠る夜なら声に出しても平気だが、横で彼女が眠っている以上、細心の注意が必要で、苦痛の時間を過ごす事になる。
15歳の夏。
あの初恋は忘れられない。
キチンと恋をした。
想いは結実した。
だけど、その夏で恋は終わった。
その後悔が今も胸の中にある。
会いたい。
会ってあの日の再来を、もう一度想いをぶつけたい。
顔は朧げで、卒アルを探して見つけて欠けた記憶を補正する。
それでも会いたい。
夏美。
気付いたら、いつの間に寝ている。
いつもと変わらない。
だが叩き起こされた。
「ん?どうした…」
ようやく手にした睡魔と別れを惜しみながら目を開けると、目の前には怖い顔の彼女。
「ん?もしかして黒いアレでも出た?古い賃貸だからそこは勘弁してくれ。明日置くタイプの殺虫剤を買ってくる」
コレで彼女も安心してくれたらもう一度眠れる。
今なら嫌な考えには囚われずに済む。
さっさと目を瞑り、去っていく睡魔にちょっと待ったと言って復縁を迫りたい。
だが彼女はそれでは済まなかった。
「夏美って誰?」
は?なんでワザワザ思い出したくない名前が出てくる。
「寝言で名前を呼んでた。夏美って誰?まさかお母さんとか言わないよね?浮気相手?」
聞き捨てならない名前に、お怒りマックスの彼女は真実を問いただす為に俺を叩き起こしていた。
眠いし、寝たいし隠す気もない。
「初恋の相手。今もたまに夢に出てくる」
素直に話して眠ろうとして、抱き枕感覚で彼女を抱き寄せようとするが、彼女は手で俺の腕を払うと「二度とその女の名前を呼ばないで」と言った。
また無理難題を。
自分でも処理不能の気持ちなんだ。
勘弁してくれと思いながら、去っていく睡魔には「もう少し待って」と声をかけていると彼女はもう一度「二度とその女の名前を呼ばないで」と言った。
「そうは言っても寝てる時の無意識だからなぁ。努力するとしか…」
「言えない」と言う前に、彼女は「なら別れる」と言った。
その瞬間、気持ちが一気に冷めてしまう。
昨晩の愛してるや大好きはなんだったんだろうか?
俺の上で腰を振り、「愛してる」なんて言ったのは何だったのか?
この脅し文句が一番嫌いで仕方ない。
「死んでやる」なんていう命の盾ももちろん許せない。人に命を委ねるなと憤ってしまう。
この別れるという発言も、別れられるくらいしか気持ちがなかった事になる。
「嘘だった」、「気持ちを確かめたかった」、「甘えてた」、「本気を知りたかった」、いろんな味のコーティングがあっても、中身はただの脅迫だ。
心が冷たく冷え込むと、先ほどの母親の名前かと言って聞いてきた姿も鬱陶しく思えてくる。
「わかった。今日までありがとう」
驚いた顔で「え?」と聞き返す彼女に「寝言の不可抗力でも別れ話をするくらい嫌なんだろ?仕方ないよ。受け入れる」と言ってベッドから降りて部屋の明かりをつけると、「はい、服」と言って脱ぎ捨てられた服を渡す。
彼女は青白い顔で「え…うそ…、本気じゃない」とか言っていたが、まくし立てて着替えさせると始発で帰らせた。
スマホは即モバイルとWi-Fiを停止して、丁寧に着信拒否設定とブロック。泣き言だろうが言い訳だろうが聞く気はない。もう会わない。冷めたら温め直せない。
寝言で別の女の名前を出されて面白くない気持ちはわかる。
だが俺だって別に夏美の名前を口にしたい訳ではない。
忘れられない。ただそれだけなんだ。
嫌な気持ちになりながら、何とか二度寝をしようとしたが、もうダメだったので部屋の掃除をして、彼女の痕跡が残るものを処分してから仕事をした。
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