第7話 化木の鎧兜
「わーい! やったー!」
「倒した倒したー!」
「わたしたちの花畑が帰ってきたよー!」
沢山の花に囲まれてはしゃぐアルラウネたち。
その微笑ましい光景を横目にしつつ、レーシェルの鎧兜に手を伸ばす。
いま被っているヘルハルの鎧兜とこれを交換すれば。
そう思考した途端、ヘルハルとレーシェルの鎧兜が入れ替わる。
頭部が挿げ替われば胴鎧もそれに習うかのように変貌した。
レーシェルの鎧兜から鉄の木の根が這い、ミイラの包帯のように全身に絡みつく。
それが細部にまで至ると、その姿はレーシェルに近いものになっていた。
ヘルハルもそうだったが、デザインに元の魔物の要素が入るみたいだ。
「蓮」
クロが小躍りするアルラウネたちの隙間を縫って側にくる。
「ありがと」
差し出されたスマホを受け取った。
『これがレーシェルちゃんの兜ですか』
『これはまた厳つくなったな』
『能力二つ目か』
『おめ』
『一回ぺしゃんこになりかけてヒヤヒヤしたわ』
『木と炎か。キャンプ場に常設しといてほしい』
「俺は薪と着火剤じゃないんだが?」
『木を生やすとこ見せてくれよ』
リクエストに応えることにして、とりあえずレーシェルの能力を使う。
でも、ただ木を生やすだけじゃ芸が無い。
そうだな。レーシェルは木を束ねて手にしていたっけ。
「じゃあ――」
レーシェルの能力で花畑に木の芽が芽吹く。
それは瞬く間に成長し、椅子の形をした木になった。
「やっぱり。出来るもんだな」
『椅子の形してる!』
クロの分も椅子の木を用意して腰掛ける。
座ると軽くしなって良い感じの座り心地だ。
ダンジョンは基本地面や壁が岩肌でごつごつしているし、休憩の時にこうして椅子が作れるのはかなり便利。アンデッドに肉体的な疲労はないが気力は消耗する。この能力があれば気力の回復も早まるはずだ。
『椅子がいけるならベッドもいけるよな』
『机も出来そう。あとベンチ』
「わっ! おにーさんがレーシェルみたいになった!」
「また花畑を森にするの?」
「そんなのやだー!」
「しないしない。大丈夫だから」
「ほんと?」
「ホント」
「うー……」
純粋なアルラウネたちも疑いを向けるほど、レーシェルは恐怖の対象みたいだった。俺がこの姿になったことでまた不安にさせてしまったのは申し訳ないな。
なにかアルラウネたちの恐怖心を和らげられればいいんだが。
「そうだ」
ふと思い立って、レーシェルの能力でシーソーを作ってみる。
意外と精巧と作れるもので、ぎいぎい音を鳴らしてちゃんと機能した。
その様子を不思議そうにクロが見ている。
「これは?」
「子供の遊具だよ。ちょっとそっちに座ってみな」
「こう?」
「そう。で」
クロの反対側に座り、シーソーで遊ぶ。
「わっ」
ぎっこんばったん。
クロは体重が軽いから、基本的に俺が脚力で上下する。
やってみると童心に返るものでちょっと楽しくなってきた。
『デュラハンと美少女のシーソー』
『よく考えると異様な光景だな』
『よく考えなくても異様だぞ』
『いい大人がシーソーやってるの見るのはキツいけど、なんかこれはいけるな』
『かたやデュラハンでかたや霊馬だからな。物珍しさのほうが勝つ』
『クロちゃん楽しそう』
『お、アルラウネたちが集まってきた』
「いーなー」
「たのしそう」
「じゃあ、アルラウネたちのも作るか」
アルラウネたちは小さいからサイズ感もそれに合わせてシーソーを幾つか作る。
「うわーい!」
「遊ぶ遊ぶ!」
横一列になってシーソーが揺れる。
アルラウネたちの楽しそうな声が響いた。
『なにこの幸せ空間』
『仕事の疲れが癒やされる』
『アルラウネ幼稚園』
『ずっとこれだけ見て死にたい』
『二十四時間ライブ配信してくれ』
『他の遊具も作るべきだと思うんだがどうだね?』
「そうだな。じゃあ」
鉄棒やブランコ、滑り台やちょっとしたアスレチックなどなど。
思い浮かぶ限りの遊具を花畑に生やす。
それを見たアルラウネたちが目を輝かせてそちらへと駆けた。
「クロも行くか?」
「……蓮が一緒なら」
「よし、行こう」
アルラウネたちに混ざる形で俺たちも出来たての遊具で遊ぶ。
鉄棒の使い方を実演して見せ、蔦と蔓を編み込んで作ったブランコを後ろから押し、アルラウネを抱えて滑り台から滑り落ちる。クロも楽しんでいるようで、アスレチックでアルラウネたちと競争していた。
いいね。遊具で遊ぶのは何年ぶりだろ。
年甲斐もなくはしゃいでしまった。
「蓮」
名を呼ばれて振り返ると、クロは置物の木馬の側にいた。
「どうした?」
「ディティールが甘い」
「はい……」
『草』
『怒られてるやん』
『馬として譲れないもんがあるんだな』
クロ指導のもと木馬に修正をかけ、より本物っぽく作り直す。
デフォルメっぽさが抜けて写実的になったが、それでもアルラウネたちは喜んで背中に乗っている。
「こんなレーシェルなら大歓迎!」
「そりゃよかった」
与えてしまった不安や恐怖は、これでなんとか払拭できたみたいだ。
アルラウネたちには助けられたし、これですこしは恩返しできたかな。
「おにーさんとおねーさんなら、ずっとここにいていいよ!」
「魅力的な提案だけど、そうも言ってられないんだ」
「だね」
俺には色々とタイムリミットがある。
束の間の休息はここまでだ。
「俺たちにはやることがあるんだ。それが済んだらまた顔を出すよ」
「むー、残念。でも、ぜったいまた来てね! おにーさん、おねーさん!」
「あぁ。じゃあ、またな」
アルラウネたちに別れを告げると、総出で手を大きく振ってくれた。
それに手を振り替えし、黒馬になったクロに乗って花畑を行く。
彼女たちに見送られながらその先を目指した。
『あぁ、アルラウネたちが……』
『スマホだけあそこに置いてってくれんか』
「ダメ」
『そんなご無体な』
「この配信の意図を忘れてんな、お前ら」
『そうだったわ』
『すっかり忘れてた』
『んで? レーシェルの次はなにを標的にすんの?』
「実はもう決めてある」
『また植物系?』
「いや。この森林地帯――今はもう違うか。この花畑にはデカい湖があんだよ。そこの主が次の標的。近いし、レーシェルの能力がある今ならたぶん倒せる」
『湖ってことは魚か?』
「外れ。ヒントは馬だ」
『馬?』
『クロちゃんのことじゃないよな』
『馬の魔物で湖にいる?』
『全然わからん』
「流石にわからんか」
魔物の情報もほとんど世間に出回っていないしな。
「ケルフィラって水棲の魔物だ。どんなのかは直にわかるさ」
視界の先、花畑の向こうに水面が見えて来た。
風に撫でられて細波が立つ大きな湖。水質は良く、透明度も高く、そのまま飲めてしまいそうなほどだ。まぁ、実際はどれだけ見た目綺麗でも、簡易的な水質調査はするし、そのあとでも煮沸消毒はするんだけど。
とにかく、そんな綺麗な湖の淵まで足を進め、馬上がら湖を一望する。
『いる? ケルフィラ』
『見えないな。こんなに透き通ってるのに』
『でも、なのに魚一匹いないのがなんか不気味だな』
『全部、食っちまったのか? ケルフィラって奴が』
『だとしたら計画性のない魔物だな』
『まぁ、自然動物なんてそんなもんだろ。食い尽くしたら他に行くだけだし』
『じゃあ、もうこの湖にはいないんじゃね?』
「いる」
そう断言したのはクロだった。
黒馬の姿のクロは湖の中心をじっと見つめてる。
同じ馬の魔物通しで感じるものがあるのか。
クロはたしかにケルフィラの気配を感じ取っていた。
たぶん、それは向こうも同じ。
だからか、湖の水面がいきなり脈打ち始める。
それは中心値から発生し、波及し、飛沫を上げた。
そうして水面から現れるのは、水の
あれがケルフィラだ。
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