第30話

 王都の整備工房に戻るとメンテが僕に抱き着いた。

 その抱擁を受けいれる。

 いい感触だ。


「お手柄だよ! バウンドの強化型がシャトロクリムゾンだと思うんだ。分解すれば魔装ゴーレム開発の参考になるよ!」


 錬金術師のお姉さんも集まってくる。


「ナリユキさんは陣形までも使いこなしていたと聞きました、凄いです」


 転生前のゲームから得ただけの知識なんだ。


「その通り、ナリユキ殿のおかげでバウンドとウォーリアを手に入れることが出来た! しかも動く状態でだ!」


 ファインさんが僕を持ち上げる。

 照れてしまう。

 でも、調子に乗ってはいけない。

 調子に乗ると良い事が無い。


 騎士さんも周りに集まって来た。


「ウチのナリユキは凄いんだよ!」


 ピュアが飛び回る。

 調子に乗ってはいけない。

 勝てたのは訓練の成果が出たからだ。

 今までやって来た土台があったからこそ成功した。


「メンテさん、アイスキャットはもうダメですよ」


 錬金術師さんがアイスキャットを指差した。


「これは、もう足の付け根が少しえぐれて砕けかけているね、ボディのダメージも酷い。廃棄しよう」

「え?」


 スノーが声を上げた。


「私も賛成だ。アイスキャットは強力でつい頼ってしまう、しかしもろ刃の剣のように操縦者に負担がかかる。脱出機能も無い」


 アイスキャットは出撃をすると毎回前に出て常に敵から狙われた。

 そしてバリアタックルの後に狙われる。

 後ろから魔法弾で攻撃を受けると脆い弱点がある。


 しかも逃げた騎士から帝国四将に情報は伝わっている。

 次から更に弱点を突かれる。

 今までスノーが無事だったのは対策を取られていなかったからだ。


「スノーはサンと同様にウォーリアに乗り杖での後方支援を命じる」

「……うん」


 愛機を手放すのは嫌だろうな。

 

「ナリユキ」

「どうしたの?」

「3機あるプロトナイツだけど、1機を部品取りにして2機で運用したいんだ」


 プロトナイツもダメージが蓄積している。

 未だにプロトナイツの整備が終わっていない。

 錬金術師のみんなに負担をかけているんだ。


「そっか、うん、そうしよう」

「それとね、次の遠征ではプロトナイツを2機ハーフエッグに乗せるよ。その分白ウォーリアを1機下ろす。更に出来る事なら新武装を追加したいんだ」


「分かった」


 プロトナイツの新武装、魔力を流さなくても攻撃出来る武器を作るらしい。

 ただし1回使うと駄目になる使い捨て武器で作るコストも手間も高いようだ。


「あれ? ウインドイーグルが完成したの?」

「うん、ただし、欠陥が多いからね、これも廃棄しようと思っているんだ」


 ピュアが飛んできた。


「次の遠征に乗せて行こう!」

「ピュア、1機積んだ分魔装ゴーレムの戦力が減る」

「役にたつよ」


 メンテの顔が曇った。


「う~ん、プロトナイツとウインドイーグルのドッキングはウインドイーグルの爪で背中を掴む構造になっているよ。でもウインドイーグルの飛行には翼と爪からの風魔法の放出をしているから爪を使えなくなるドッキングで運動性能が落ちてしまう」

「大丈夫! 飛べればいいから」


「それとね、ドッキング部の爪だけど、耐久度が足りていないんだ」

「大丈夫、ナリユキなら爪がおかしくなっても着地出来るよ」

「僕は着地出来てもウインドイーグルが墜落するよね? ウインドイーグルに脱出装置が無いしさ」

「私なら大丈夫です!」


 サンが声を上げた。


「でもね、ウインドイーグルはサン以外が乗っても操縦出来ないほど制御が難しいんだ」

「やらせてください!」


「私からも頼む、妖精殿の言葉には何か意味があるはずだ」

「ファインまで、王様に話してみるよ。と言ってもピュアの言葉があったから言った通りになるだろうね」


 こうしてインドイーグルがハーフエッグに積み込まれる事が決まった。


 

 ◇



 ウインドベル王国の東、帝国が占領した都市ビートルヒルにバウンドで戦い負けたヤラレイが帰還した。


 帝国四将のマウンテン様が出迎える。

 マウンテン様は体が大きく筋肉が発達している。

 一見すると顔が怖く我が強そうに見えるが部下思いで今回も我らに手柄を立てさせるために自ら前に出なかった。

 その期待を裏切った。


「早かったな」

「マウンテン様、我らは、我らは、敗北し、魔装ゴーレムをすべて失いました!」

「……」


 マウンテン様の眉間に皺が寄った。


「も、申し訳、ありません! 今回の責任は隊長である私の責任です! 部下には何の落ち度もありません!」


 マウンテン様の前に跪く。


「う、うむ、すべては我の責任だ」

「う、ぐう、うああああああああああ!」


 情けなさで涙があふれた。


「こんな所で泣くものではない。長旅ご苦労だった。今日の所はゆっくりと休め」


 マウンテン様が気を使って部屋を出て行った。

 失敗しここまで庇って貰い、私はマウンテン様に何も返せていない。

 あまりの悔しさで両手を強く握り締めた。

 次こそは、青ラインに負けはせん!



 ◇



【帝国四将マウンテン視点】


 部下が帰還した後日報告を受けた。

 ナイツに青いラインの入った魔装ゴーレム。

 そして青いネコ型の魔装ゴーレム。


 更に青ラインの操縦者には妖精がついていた。

 まずいな。

 妖精付きは何としてでも潰す必要がある。

 女神の加護と正義はウインドベルにある、そう思わせては士気にかかわる。


 ヤラレイには不憫な想いをさせた。

 我がウインドベルを舐めてかかった。


「あの、お食事がお気に召しませんでしたか?」

「いや、うまい、少し考え事があってな」


 メイドが頭を下げた。

 食事を平らげ水を飲み干す。


「うまかった。すまん、水と肉のおかわりを」

「承知しました」


 メイドが下がっていく。

 部下が我の顔を覗きこむ。


「ウインドベルの魔装ゴーレムが気になりますか?」

「うむ」

「噂になりますが」


 部下が話をしようとすると他の部下がそれを止める。


「帝国の噂などマウンテン様を操る偽情報の可能性もあります」

「いい、話せ」

「はい、帝国四将のシャトロ様がウインドベル王国の王都に攻め入り敗走したと聞きました。しかもシャトロ様はシャトロクリムゾンとウォーリア10機で挑みレッドモードまで使い片足が故障するまで追い込まれたとか」


「シャトロが……続けてくれ」


 我は黙って部下の話を聞く。


「更に他の噂ではウインドベル王国に妖精を連れた転生者が現れ、今まで誰も動かせなかった魔装ゴーレムを圧倒的な魔力で動かしたと言います」


 魔力で強引に動かしたように聞こえた。

 だが念のために部下の話を聞いておこう。


「なぜ動かせなかったか分かるか?」

「その魔装ゴーレムは大量の魔力が無ければ起動さえ出来ないのだとか」

「貴様は噂を信じすぎる」


 また部下が話の腰を折った。


「で、ですが妖精の報告は一致しています」


 妖精、転生者、大量の魔力で動かす魔装ゴーレム、辻褄は合う。

 もしそれが本当だとすればまさに我の失敗だ。

 

「他に噂はあるか?」

「いえ、他には何も」

「そうか、シャトロが王都を攻める際に奇襲を用いたか分かるか?」


「奇襲のようです。夜に王都の内部に侵入し攻めたとか」

「うむ、また気になる事があれば何でも言ってくれ」

「あ、ありがとうございます!」


「マウンテン様は部下に優しすぎます。偽情報かもしれません」

「それでもいい、それも含めて我が判断する」


 まだ噂だ。

 決めつけはよくない。

 だが、もしも転生者が妖精を引きつれ、しかもあのシャトロの奇襲を退けたとなれば、油断は出来ん。

 全力で戦う必要がある。

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