第31話 来訪者

 「本日より新たな講師が来る」


 朝の時間、ヴァリナ教官が伝達した。

 

 ヴォルクの騒動より、すでに数週間。

 変わらぬ学園の日々が過ぎる中、新たなイベントが発生した。


「それでは紹介しよう」


 ヴァリナが手招きをすると、教室に一人の男が入ってくる。

 男に手を向けながら、ヴァリナは口にした。


「現役の聖騎士『グラウディル』氏だ」

「よろしく」


 その瞬間、クラスは歓喜に包まれる。


「「「きゃああああっ!」」」


 上がったのは主に女子の声だ。

 間違いなく容姿に反応したのだろう。

 その歓声に、グラウディルは爽やかに笑った。


「ははは、これは光栄だなあ」


 高身長に、筋肉質。

 サラサラの白金の長髪は、後ろで結ばれている。

 雰囲気に負けず劣らず、顔もかなりの美形だ。


 高身長、高収入、高神力。

 まさに三拍子が揃ったような男である。


 すると、グラウディルは右胸に手を当て、ゆっくりと一礼する。


「ご紹介にあずかりました、グラウディルです」

「「「きゃあああっ!」」」


 発したカリスマ的な美声に、クラスは再び熱を帯びる。

 また、声援は女子のものだけではない。


「あの方って!」

「ああ、間違いねえ!」

「“栄光の聖騎士”グラウディル様だ!」


 まず、現役の聖騎士とは、資格を得て活動している者のこと。

 学園生も“聖騎士の卵”ではある。

 だが、そこから正式に就任できるかは分からない。


 つまり、現役の聖騎士はまさしく学園生のあこがれだ。


 その上で、特にグラウディルには肩書きがあるのだ。

 容姿、実力、その他の貢献を含めて『栄光の聖騎士』と呼ばれている。

 名実共に、現役で最も勢いがある・・・・・・・・・・聖騎士と言って良い。


 そんなクラスの反応を見ながら、ヴァリナは進行した。

 

「彼の教えは大いに役立つだろう。みなもしっかり学ぶように」

「「「はいっ!」」」


 教室の多くは元気よく返事をする。

 グラウディルに教えてもらうのが嬉しいようだ。


 しかし──


「……けっ」


 オルトだけは嫌な顔を浮かべていた。


 何かを知っているのか、イケメンに嫌気が差しただけか、もしくはその両方か。

 それは定かではない。





 午前の授業。


「誰か、私と模擬戦をしたい者はいるかな」


 授業始めにグラウディルが問いかける。

 すると、一つの手が勢いよく挙がった。


「僕がやりたいです!」

「ふむ、いいだろう」


 手を挙げたのはルクスだ。

 周囲はすぐに距離を開け、ルクスとグラウディルは向き合う。

 模擬戦とはいえ、真剣勝負だ。


「お願いします!」

「ああ、どこからでも来るが良い」

「では……!」


 ルクスは【光の刃クラウ・ソラス】を具現化させ、地面をった。

 その速い移動は、神器のまばゆい光が遅れて付いてくるかのようだ。

 しかし、グラウディルはすっと受け止めた。


「悪くない太刀筋だ」

「……!」

「しかし単調すぎるかな」

「うぐっ!」


 ルクスを弾き返し、グラウディルは再び手を広げた。


「さあ、もっと力を見せてくれ」

「は、はい!」


 その言葉に応えるよう、ルクスは猛攻を続ける。

 だが、どれもグラウディルには命中しない。


聖騎士学園母校も相変わらず良い人材を育てますね。この私のように」

「「「きゃああっ!」」」


 それどころか、ちょいちょいナルシストを挟んでくる。

 見た目も実力も、心の底から自信を持っているのだろう。


「……けっ」


 そんなグラウディルを、オルトは相変わらず冷めた目で見る。

 だが、二人の戦いはしっかりと確認していた。


ここも・・・原作通り、か)


 グラウディルについて、オルトは当然のように知っている。

 原作にも登場するからだ。

 しかし、想定内かと言われると、実はそうではない・・・・・・


(よりによって引くのかよ、このナルシスト)


 実は、グラウディルは“レアキャラ”である。

 ストーリーで出現する確率で言えば、約5%とされている。

 数回程度の周回だと、まず出会えないキャラだ。


 しかし、出現時の展開は決まっている。


(やっぱルクスの性格なら手を挙げるよな)


 グラウディルが現れた際、この最初の授業でルクスと戦う。

 ルクスは劣勢になるものの、ようやく【光の刃クラウ・ソラス】を具現化させる。

 そこから逆転ムーブがただようが、やはり刃は届かず。


 ただ、神器を使いこなせば、現役の聖騎士をも超える力を手にする。

 そんな期待をふくらませる展開で、この辺の話は締めだ。


(ルクスもいい線はいってるが……)


 この世界のルクスは、原作時点よりも早く神器を手にしている。

 その差は要所に見られるものの──


「素晴らしい剣技だったぞ。私の次にな!」

「あ、ありがとうございました……」


 勝つには至らず。

 

 ルクスの攻撃を全て受け止め、グラウディルが一本を取った。

 すると、パンっと手を叩く。


「このように、今日は防御から教えよう。戦場では生き延びることが何よりも大切だからな」

「「「はい!」」」

「では、全員距離を取って」


 グラウディルは生徒たちを散らばらせる。

 そんな中で、どさくさに紛れてレイダに近づいた。


「────」

「……!」


 そのまま何かを告げると、レイダは目を見開く。

 だが、グラウディルはすぐに知らぬ振りをした。


「さあ、講義を始めるよ!」





 数日後、放課後。


「お、来たかい」

 

 入口からの足音に、グラウディルが振り返る。


 ここは地下の特殊・・修練場。

 一般生徒は入ることができず、講師以上の許可が必要になる。

 そんな場所に姿を見せたのは、レイダだ。


「なんの用でしょうか、グラウディル講師」


 数日前の講義で、レイダはグラウディルは告げ口をされていた。

 内容は『今週末の放課後に特集修練場』とのこと。


 グラウディルが裏回ししたのか、人払いは済んである。

 すると、グラウディルはニヤリとして口にする。


「君の剣技は美しい」

「……!」

「そこで──」


 グラウディルは手を差し伸べた。


「レイダさん、君を正式な聖騎士に推薦すいせんしたい」

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