第14話 推しとのタッグ

 「本日は二人組タッグ戦を行う!」


 ヴァリナ教官により、本日の授業が宣言される。


 入学から約一か月。

 新入生もすっかり慣れてきたところで、再度力試しをするようだ。

 この結果は、定期的な席順再編に大きく関わる。


「ふぅ……」


 そんな中、オルトはすーはーと深呼吸をしていた。

 その高鳴る胸の鼓動を、必死に抑えるように。


 オルトが緊張しているのは、タッグが事前に発表されているからだ。

 決め方は、クラスの成績の上下が組む。

 一位と最下位、二位と下から二番目……といった形だ。


 つまり──


レイダ推しとタッグだとぅ!?)


 オルトとレイダが組むことになる。


 発表時から興奮が抑えられないが、ドキドキは増していた。

 授業とはいえ、何でも推しと一緒になれるのは光栄なことだ。

 そうなれば、多少かっこつけたくもなるというもの。


「コ、コホン。改めてよろしく、レイダ」

「え、ええ……」

「!?」


 しかし、レイダは答えながらも、すっと目を逸らす。

 その行動が、どれだけ心にダメージを与えることか。


(き、嫌われたあ!?)


 オルトは一気に顔を青ざめさせる。

 だが、決して嫌われてなどいない。

 なぜなら、行動を取った本人すらも戸惑っているからだ。


(な、なんで逸らしちゃうのよ……)


 視線を逸らしたのは、むしろ反射的。

 原因は不明・・・・・・だが、真っ直ぐにオルトの顔を見れない。

 つまり、オルトを意識してしまっていたのだ。


 しかし、このままでは目的が達成できない。


(別にサッと言うだけじゃない、サッと。何を戸惑ってんのよ……)


 レイダは心に決めていたことがある。

 ならばと、顔の一部分を手で隠しながら返した。


「ね、ねえ、アンタ」

「ん?」

「わたしたちって、その、と、とと……」

「“と”?」


 だが、いざ本人を目の前にすると言葉が出てこない。

 “友達”というたった四文字すらも。


 対して、オルトは肯定するようにうなずいた。


「ああ、二人で“トップ”を狙おう!」

「……っ! そ、それはそうだけどっ!」

「え?」

「ほら、もっと他にあるでしょ! “と”から始まる言葉が!」


 レイダは徐々に顔を隠しながら、じっとオルトを見る。

 

「“共に”がんばろー的な……?」

「~~~っ! もういいわよっ!」

「ええ……」


 だが、“友達”は中々出てこない。

 レイダはプイっと背を向ける。 

 

(ちがうわよ! この鈍感実力隠しストーカー野郎!)


 自分から言えばいいだけだが、レイダにはそれが出来ない。

 今まで友達がいなかったレイダは、友達という存在を重く考えているのだ。

 それこそ、“恋人一歩手前”といった具合に。


 結局、最後まで口にすることは出来ず。


「ったく。わたしはあっちで集中するから!」

「……お、おう」


 レイダはスタスタと歩いて行ってしまった。

 彼女を見ながら、オルトは手を顔にやる。


(びっくりしたー。友達って言われるかと思ったぜ)


 正解だ。

 だが、レイダにそんな気があるなど一切考えていない。

 今までずっと画面の向こうの存在だったからか、まだ彼女を遠くに感じているのだ。


(推しが俺に“友達”だなんて、おこがましいよな……)


 オルトはうんうんと思い直した。

 結果、二人はまたもすれ違う。


 すると、タイミングよく話しかけて来る者がいる。


「勝負楽しみにしてるよ、オルト君」

「……! ああ、こちらこそ」


 声をかけてきたのは、ルクス。

 オルト達の相手のようだ。


「ルクスのタッグは、ヴォルクだよな」

「うん、そうだよ」


 現最下位のルクスは、現一位の者とタッグを組む。

 つまり──四新星が一角、“悪人貴族”のヴォルク。


「……」


 オルトは、ヴォルクをちらりと視界に入れた。

 その姿には、見覚えがある。

 ヴォルクは、原作メインキャラの一人だからだ。


(まだ目立った行動は見えないが……)

 

 悪人貴族ヴォルク・ナイトフォール。

 

 黒紫色の髪に、大人びた整った顔立ち。

 長身の恵まれた体格の上、明晰めいせきな頭脳も持つ。

 少し近寄りがたい雰囲気をまとわせ、常に一人で行動をする。

 

(モブキャラルートなのか?)


 ヴォルクのゲーム内での立ち位置は、“孤高のメインキャラ”。

 大貴族の名に恥じない強さを持つが、役割が固定されていないのだ。


 主人公の立ち回りによっては、敵にも味方にもモブにもなる。

 ほとんどは敵対することになるが、その時は強敵として。

 味方になれば強力な助っ人、モブなら徐々に主人公から離れていく。


 主人公が目立てば立ちはだかり、主人公が目立たなければ相手にしてこない。

 まさに“我が道を往く”キャラである。

 

「……ッ!」


 だが、ヴォルクが唐突に振り返った。

 オルトとは一瞬だけ視線を交わした形だ。

 それには、オルトが目を見開く。


「オルト君? 大丈夫?」

「あ、ああ、何でもない」


 ルクスには笑って誤魔化すが、オルトは何かを感じていた。


(俺をすごくにらんでいたような……気のせいか?)






「──で、相手がこう来た時は……」


 オルトが、作戦ボードを使って説明している。

 

 タッグ戦は一試合ずつ行われる。

 今は他タッグの試合中のため、レイダと二人で作戦会議をしていたようだ。

 だが、オルトは違和感を覚える。


「……あの、レイダ?」

「!」

「話は聞いててくれた?」

「と、当然よ!」


 今日のレイダが少しぼーっとして見えるのだ。

 何かを考えては、一人で頭を左右に振っている。


(原作で回収できる姿は全部知ってる。でも、こんなレイダは初めてだ……)


 レイダを推してやまないオルトでも、見たことが無い彼女だった。

 それでも時間が来てしまう。


「では次! 『レイダ・オルト』タッグと、『ヴォルク・ルクス』タッグは入場!」

「「……!」」


 そうして、少々不安を抱えながらも、オルト達のタッグ戦が始まる──。

 

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