先手Ⅱ:仮想と現実と不死身の幻獣
「ワールドライズ・ワールドカップ カードショップ・スズキ第一予選・VR部通過は、一位、犬飼ほむらさん、二位、赤楚レイさん、三位、浜田ミハルさん――」
「なんか去年もこうじゃなかったか」
「確かに、
「なんだかんだ、変わり映えしないというか」
「もうあの三人だけで、大会をすればいいと思ってしまうというか……」
出場した人たちが呆れる。
4年連続第二予選敗退の三人が今年も第一予選を通過し、予想通りというか、もっと強いやつはいないのか、そんな気持ちが混ざりあった表情を浮かべる。
ここは、八王子。
そんな、金をかけたデッキを使ううえ、運動神経も勝負のうちに入るこの部門で強い文武両道型は、電車一本で行ける都心に行く。
都心に人口が集中するこの世の中で、金が無いか、エンジョイ勢しか集まらないのだから、この結果もしょうがないのかもしれない。
「さて、今年も、ワールドカップ予選が終わり、いつもの面子が通過しましたが皆様楽しめましたでしょうか?」
店長の鈴木が、終わりの言葉的なことを言う。
「まあ、上位3名がいつも通りでも、下は変動激しいからね」
「なんだかんだ、毎年楽しいからね」
常連の人たちが感想を漏らす。
「来年こそは互いに切磋琢磨、実力を高め合いましょう! これで、第一予選を終わります」
***
ガタンゴトンガタンゴトン
ほむらとレイは、電車に乗り、帰路につく。
電車に揺られ、15分、電車を降りた。
マゼンタのラインの走った車両が流れていく。
自動改札を抜け、坂を登っていく。
「そういえばさ、何で、カウンターできるカードがないってわかった?」
レイがほむらに聞く。
「あー、だって、レイって、【
「まあ。でも、デッキには一枚、残ってたはずだ」
「そうだけど、それって、【リムーブストライク】でストックから、デッキの一番下に戻したカードじゃん。だから、手札にないのが確定でしょ」
「そういうことか」
そう話していたときだった。
「
眼の前に、人型の異型の怪物が現れた。
「な、何あれ」
「怪物? ワールドライズのエネミーにも見えるけど……」
「ARモードにしちゃってたのかな」
「いやなってないけど」
「そもそもエネミーが
「
「危ないな」
「え、うわ」
「地面がえぐれてる?」
二人はデッキケースを出し、起動状態などを確認する。
異型の怪物が二人の現状把握作業に割り込むように腕についている鎌をふるが避けられ地面をえぐる。
ほむらが右足をすり足で後ろに引く。
レイが左足のかかとを持ち上げ、つま先を引きずるように後ろに引く。
「
「「逃げろー!」」
「
異型の怪物が二人を睨む。
直後、二人は後ろを向き、全速力で走り出した。
だが、学年最速の足を持つ、ほむらに対して平均程度の走力のレイが、炎からどんどん離れていく。
レイを狙って、異型の怪物は全速力をだす。
「レイ!」
「ほむら!」
手を伸ばしレイを引っ張ろうとするが、異型の怪物に捕まってしまった。
「レイ!」
「逃げ、て」
「
このまま、逃げていいのか、このまま、
異型の怪物は、レイのマナを吸おうとし始める。
でも。
ここで逃げたら。
ここで、レイを見捨てたら。
私は、一生後悔する!
ほむらは、異型の怪物に走り出した。
異型の怪物は、レイのマナを吸おうと夢中だった。
ほむらはサッカーボールを蹴る要領で異型の怪物の、人形の原型を一番とどめているだろう、頭部を速度を殺さずに吹き飛ばした。
「
異型の怪物は崖の擁壁にぶつかった。
「
異型の怪物はほむらに襲いかかった。
だが、それは光の壁で防がれた。
光の壁の発生源は手に持ちっぱなしだったデッキケースだった。
『Rise Cloth Standby』
そして、何故か、
「よくわかんないけど、行ける気がする」
『Ready――Fight』
「
刹那、ほむらが思い切り地面を蹴り、飛行能力を駆使して、瞬間移動のような加速で異型の怪物に肉薄し、移動中に展開した
「ンッ!」
「ぐふぁあ!」
そのまま、何発も何発も斬りつける。
「ウワッシュ!」
異型の怪物は反撃として、左腕の鎌で切りつけようとした。
だが、間一髪のところで、防がれる。
「これで終わりだぁ! ライズマジック・
ライズクロス展開時に出ていた、手札から、自身の代名詞と化している、切り札を使う。
もちろん、周辺被害を抑えるために、範囲指定して。
「
ガチャ
異型の怪物の腰(?)に巻かれたベルトのバックルが開く。
「
何故か、笑い出す。
だがその時だった。
「ほう、さながら、
ネイビーの全身に各部に銀色のラインが走り、剣を模したようなマスクをつけた男が現れた。
左腕には、専用のデッキケースが普及した今では旧式であるライズギアをつけていた。
「
ガッション
異型の怪物のベルトが閉じる。
「回復しやがったか」
「
「何言ってるかわからねぇよ!」
マンティス・アンデッドが、男に向かって、両腕についた鎌を振りかざす。
だが、
「ウェッ!」
オーラを纏った右手を振り、鎌を切断する。
「
「これで終わりだ!」
男のベルトに装填されていた、USBメモリーみたいなものを抜き、右腰のスロットに刺す。
『スペード・オーバーライズ』
男は右足に重心を置き、腰溜めの姿勢になる。
そして、マンティス・アンデッドに向かって、ラインが伸び、両手剣のようなエフェクトがマンティス・アンデッドを拘束する。
『アクセラレート』
「ウェェェェェウェイ!」
男は右足にオーラを纏わせ、マンティス・アンデッドへ翔んだ。
エフェクトと重なり、一気に加速する。
マンティス・アンデッドを貫通し、着地する。
ガチャン
マンティス・アンデッドのベルトのバックルが開いた。
ライズギアから、
マンティス・アンデッドに突き刺さり、カードに封印される。
「あなたは、誰?」
「俺は、スペード・ジョーカー、お前も魔術師か。なら、これ持っておくと良い」
大量のブランクカード渡す。
「じゃあな」
男は、坂を走り下った。
「何だったんだろう」
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