第17話 祈り
本日2話目の投稿
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「貴様!!貴族たる私を足蹴にしおってからにぃ!!」
目の血走ったウィーズベルが、フェルマの顔を殴りつけた。
大の大人と幼さの残る少女に、大の大人であるウィーズベルの拳はあまりにも重かった。
小さな身体にその無駄に太った体躯が乗りかかるだけでも苦しいというのに、そんな馬乗りの状態で上から殴られたフェルマは、一瞬、意識が途切れてしまう。
しかし、すぐにもう一発を逆の頬に貰い、強制的に覚醒させられ、痛みから逃がして貰えなかった。
「ウ、ウィーズベル様!そこまでに!死んでしまいます!」
一人の良識ある騎士がウィーズベルに制止の声を掛けた。
「あぁ?私に意見するのか。一介の騎士如き!!」
「ひっ」
「貴様は男爵家の三男坊だったな。男爵ごときが、伯爵である私に逆らうというのか!」
「め、滅相もございませんっ」
騎士が怯えを見せた。
「伯爵位を持つ私の命を狙った賊を庇い立てるという意味を、貴様はきちんと理解できていないような」
「い、命……い、いえ、も、申し訳……ございません!」
「帰ったら覚えておれ。累は貴様の実家にも及ぶと知れ」
「そ、そんな!?─────」
ただ一言、少女の身を案じた言葉が、逆賊を庇う言葉に変えられ、庇った本人であるこの騎士が、罪人扱いされる異常な展開に、フェルマの心が余計に苦しくなった。
(また……私のせいで)
痛みに薄れる意識の中、フェルマは自責の念を重ねた。
自己嫌悪に陥る彼女に、ウィーズベルが再び拳を振り上げた。
今度は真上から鼻っ面を殴りつけるような軌道。
(しんじゃうかな)
痛みと良心の呵責によって弱った彼女の心は既にもう、弱り切っていた。
もう、死んでもいいか。
庇ってくれた騎士を罪人へと追い詰め、そしてあの優しい青年をこれから死に追いやってしまう自分など、生きている価値がないと、彼女は自分の命を諦めていた。
「ウィーズベル様」
「なんだ!!」
拳が振り下ろされる瞬間、その行為を止めたのは、意外にもグラブスだった。
懲りずに自分を諫めてくる騎士に、ウィーズベルが怒鳴りつけた。
貴様も死にたいのか。
そう目が語っていた。
しかし、グラブスはその眼にも怯まずに言葉を続けた。
「どうせ殺すなら、楽しみながらにした方が、伯爵様も気が済むかと」
その言葉の意味を、下卑た表情から読み取ったウィーズベルが、グラブスに同調するように嗤う。
振り下ろすことなく下げられる拳に、フェルマが戸惑いを見せた。
どうして。
それを口にするまでもなく、その答えを、彼女は身を持って知った。
「ぇ……い、いやぁぁああ!」
伸びた服に手を掛けられ、そして─────引き裂かれた。
フェルマの若い白い柔肌が曝け出された。
しかし、それだけでは終わらない。
これが通常の遊戯であれば、ウィーズベルもゆっくりと順序というものを楽しんだだろう。
しかし、これは違う。
罰と腹いせを兼ねた凌辱だ。
ウィーズベルは乱暴な手つきで、服の下で巻かれていたさらしに手を掛け、強引に引きちぎった。
「ふふふ、若いだけあって良い発色だな。小ぶりなのはこの際どうでもいいか」
まろび出たフェルマの発育途中の胸に、ウィーズベルが舌なめずりを見せる。
見られたくないと抵抗を見せるフェルマに苛立ったウィーズベルが彼女の頬を平手で打った。
殴らないのはこれ以上見た目を悪くしないため。
彼女で最後まで遊ぶつもりのために過ぎない。
「ぅ……ぁ」
抵抗を見せなくなったフェルマに満足したウィーズベルが長いスカートにも手を掛けた。
森の中を長く走ったスカートは、既にボロボロだった。
それを汚らしいものを見るような眼で脱がすウィーズベル。
「ふん、色気のない下着だな」
ウィーズベルが最後の衣服に手を伸ばした。
◆
全身が痛い。
寒い。
恥ずかしい。
何より、心が痛かった。
(どこで間違えたんだろう)
悔恨が彼女の心を支配した。
(たくさん、迷惑かけちゃうな)
申し訳なさで消えてしまいたい。
(伝えられなかったな)
せめて最後に、あの人に逃げてと伝えたかった。
彼が今どこにいるのかは分からない。
でももし、彼を悪く思わない人が居て、事の顛末を聞くことができたなら、その時は何も思わずに逃げてほしい。
自分のせいで死んでほしくなどないのだから。
(そうなると、いいなぁ)
彼女は最後まで、自分の事よりも他人の事を考えていた。
空の下に曝け出された全身を男の手が撫でまわす。
そして、女の最後の砦に指がかかった。
恥ずかしい気持ち、泣きたくなる気持ち、それらを必死に隠して彼女は目を瞑った。
(初めてがこんなのになるなんて思ってもいなかったな)
少女は少女らしく、その時を夢見ていた。
ロマンに溢れた、夢のようなその時を。
しかし現実は無慈悲にも彼女を悪夢へと迎え入れた。
少女の抱くロマンとは真逆の悲劇。
それでも、フェルマは彼を想う。
自分の悪夢にも溺れる事無く、彼女は優しい彼の無事を願うため、ペンダントを握りしめた。
フェルマは自分の心を押し殺し、神に願いを聞き届けてもらうため、祈りに心を捧げた。
心は無垢になれど、頬に涙が伝う。
すーっと流れる涙が土を濡らした。
(ソウキさんが無事でありますように)
その尊い願いに応えるように握るペンダントが熱を発した。
「良かった。間に合った。敬虔な信徒は報われないとな」
彼の声が聞こえた。
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