第10話 迷宮の核心
迷宮の奥へと進んでいくにつれ、アランとマルティナは次第に周囲の空気が重くなっているのを感じていた。もはや空間はただの迷路ではなく、何か意志を持つかのように彼らを試し、誘導している。壁や床の模様が不気味にうねり、時折、目の前に現れる道が消えたり、反対側に繋がったりしていた。まるで迷宮自体が生きているかのようだ。
「これ以上は、後戻りできない。」
アランが言った。
「うん、でも何か嫌な予感がする…。ここまで来たら引き返せないよね。」
マルティナは不安そうな表情を浮かべながら、アランの後ろを歩く。周囲の不安定さが、彼女の心にさらに重くのしかかっている。
二人はさらに進み、突然、開けた空間に出る。その部屋は他の場所と違い、まるで空間自体が静止したかのように感じられた。中心には一つの石碑があり、その周囲には古びた祭壇が並んでいる。だが、その石碑に刻まれた文字や図像は、彼らには到底理解できるものではなかった。
「これが、迷宮の核心か。」
アランは低くつぶやき、石碑に近づく。だがその時、空間が再び歪み、何かが目の前に現れた。
それは、巨大な影だった。人間の姿を模したそれは、影のように揺れ動きながら、次第に形を変えていく。その姿が完全に浮かび上がると、それは一人の男だった。だが、その顔は見る者を凍りつかせるような不気味なものだった。
「…シャスカー。」
アランはその名前を口にした。
シャスカーは、かつての彼と同じ姿をしていたが、その目には全く違うものが宿っていた。生きている者のものではない、死者のような深い闇が渦巻いていた。
「アラン、君が来るのを待っていたよ。」
シャスカーは冷笑しながら言った。
「君がこの迷宮を通り抜けて、ついにこの場所に辿り着くことを、私は予測していた。」
「お前、何を企んでいる。」
アランは杖を握りしめ、警戒を強める。だが、シャスカーの笑みは消えない。
「私の計画は、もう終わりに近い。」
シャスカーはゆっくりと歩み寄り、手を広げる。その動きが、まるで何かを召喚するかのような不気味さを伴っていた。
「この迷宮が生み出した力、そして私が追い求めた『闇の真理』が、この世界の根本を覆す時が来た。」
その言葉を聞いた瞬間、アランは悟った。シャスカーは、単に力を求めているわけではない。彼はこの迷宮そのものの力を操り、何かとてつもない力を手に入れようとしているのだ。
「『闇の真理』?」
マルティナが口を開いた。
「それって、一体何のこと?」
「『闇の真理』は、この世界の法則を超越した力。」
シャスカーは、満足げにその言葉を繰り返した。
「それを手に入れた私は、世界を支配し、新たな秩序を創り出す。君たちは、それを止めようとするのか?」
アランは無言でシャスカーを見つめた。シャスカーが言うように、この迷宮はただの試練ではない。迷宮そのものが、シャスカーの計画の一部であり、彼が追い求める力の源となっている。
「止める。」
アランは一言、そう答えると、すぐに杖を構えた。
「お前の企みを終わらせる。」
シャスカーは冷徹な笑みを浮かべ、その姿を消す。次の瞬間、周囲の空間が一変し、アランとマルティナは強力な魔法の波動に包まれた。魔法陣が空中に浮かび、目の前に現れたのは、シャスカーが呼び出した魔物の群れだった。
「お前がこの迷宮の支配者になろうとしても、俺が許さない。」
アランは強い意志を込めて言った。その目には、今まで以上に強い決意が宿っている。
シャスカーが生み出した魔物たちは、ただの召喚獣ではない。彼らは、この迷宮の力を借りて、アランとマルティナを倒すために強化されている。だが、アランもまた、決して引き下がることはない。
「マルティナ、気をつけろ!」
アランは彼女に警告を発し、すぐに魔法陣を展開する。周囲の空間が激しく歪み、光と闇が交錯する中、アランはその力を解き放った。
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