第4話 ルゥ(2)
ルゥと出会ってから1年が経ったある日。
つまり、俺が5歳になったときのことだ。
いつもの通り文字を読めるようになってからの習慣で、朝にルゥたちと遊びながらこの世界を勉強して、昼はルゥとちょっと屋敷を抜け出して町へ行っていた。
ルゥは基本的に寝てることが多く、俺の首元にうずくまっている。
まだ生まれて間もないんだろう。
俺も赤ちゃんの時は眠くて仕方がなかったからな。
まあ、とりあえず魔力をダダ漏れにしてないし、たまに起きても山に行くまでは静かにしてくれてるから、この町の誰にもバレてない。
ちなみに、ルゥが魔力を隠すようになってから魔物が町に下りてくることは少なくなった。
やはりルゥの魔力が原因だったようだ。
町に行っている理由は、ルゥのご飯を探したり、人に見つかりにくい安全な場所を教えたりするためだ。
「ほら、ルゥ。ここは食べ物が多くあるから、いろんな生き物がいるんだ」
「キュウ」
俺の話した生き物よりも食べ物に目が行っている。
ほんとにこの子は食いしん坊だなぁ。
「俺はお金を持ってないから、買ってあげられないよ」
そう言うと、キュウ、とまた鳴いて俺の首元にうずくまった。
まだ俺は5歳だし、外に抜け出してることも言ってないからお金は持っていない。
だいたい、ルゥは寝てるから俺は町にいる生き物と遊んでることが多く、お金は必要ないのだ。
まあそれでも、ルゥのお腹が減ったときは森に行って、理性の無い魔物をルゥがおやつに食べたりしている。
理性の無い魔物は周りをとにかく襲うから、他の魔物も迷惑しているらしく、俺に教えてくれるからすぐに見つかる。
ちなみに理性の無い魔物は頻繁に生まれてしまうらしく、それは害にしかならないからよくルゥに狩ってもらっていた。
ルゥがいなかったときの俺は下手したら普通に死んでたな。
今更だけど、これからは気をつけよう。
「おい、坊主、この串焼き一本どうだい?」
「えっ、あ、その、えっと. . . . . .」
ヤバい、知らないおじさんに話しかけられた。
どうしよう、なんて返事したらいいんだ?
――ドンッ
「おい、危ないだろ」
ヤバッ。
硬直してたらこれまた知らない人にぶつかってしまった。
ちょっと俺を睨んで、すぐに歩いて行った。
最初に話しかけてきた人も興味を失ったのか、違う人に話しかけている。
どさくさに紛れて、俺はそこから離れた。
♢ ♢ ♢
助かった。
俺は知らない人と話すときはいつもああなってしまう。
前世からの悪い癖だ。
直したいとは思うが、どうしても緊張してしまうのだ。
魔物相手にはなんともないから、不思議である。
早々に町での散策を切り上げて、ルゥと初めて会った山の深くまで来ていた。
はぁ、やっぱり人のいない山は落ち着くな。
あの大きく抉れたところはまだ残っていたが、発見されてからは頻繁に人が来てるからあまり来れなかったのだ。
今日は鳥や虫たちに聞いて、人がいないことがわかったので久しぶりに来てみた。
道中に出てきた魔物とはお話をして、安全に来れた。
魔物の子たちもそれなりに知性があるらしく、ちゃんと話せばわかってくれる子がほとんどだ。
たまにこちらの話を聞かずいきなり襲い掛かってくる子もいるけど、ルゥが守ってくれるから安心できる。
ちなみに俺は兎の子すら倒せないだろう。
ルゥは寝てても、俺が危険になったらすぐに起きてくれるからすごい子である。
「そういえば、なんでルゥはこんな窪みをつくったの?」
(魔物が来た)
「人は来なかったの?」
(来てない)
まぁ、あの時は強い魔物が町に下りてくることが多かったからそれどころではなかったのかもしれない。
「ルゥはとても強いんだね」
(ここの魔物が弱い)
そうかな?
俺にとっては全員強すぎるから、よくわからないけど。
「ねえ、ルゥ。俺も強くなりたいんだけど、魔法とか教えてくれない?」
(魔法は使えない)
「えっ、そうなの? この前火を吹いてたじゃん」
そう、この前は庭で火を吹いてかなりヤバかった。
幸い、とても小さな火だったからどこも燃えず、屋敷の人にもバレなかった。
火を吹くときも魔力を使っているようだったから、魔法の一種かと思っていたけど。
(あれは魔法じゃない。ファイアドラゴン専用)
そうだったのか。
確かにドラゴンって聞くと火を吹く生き物のイメージだったけども。
というか、さっきファイアドラゴンって言ってたな。
ファイア以外があるのだろうか。
「ルゥ、ドラゴンって種類があるの?」
(ファイアドラゴンでも種類がある。ルゥは大きくならないタイニードラゴン)
「ファイアってことはアイスドラゴンとかもいるの?」
(見たことない。父さんが言ってた)
なるほど、これは少し調べてみるのも面白いかもしれない。
ルゥのことがもっとわかるかもしれないし。
「そうか。えーと、じゃあ、体術? 体の使い方?を教えてほしい」
「キュウ. . . . . .」
仕方ない、という感じでいろいろと教えてくれた。
まだ生まれて間もないはずなのに、本能的なやつで戦闘はこうすればいいというのがわかるみたいだ。
ただ、今の俺は体が全く発達しておらず、しばらくは体作りになりそうである。
小さなルゥの動きが全く見えない。
普段は寝てばっかなのにすごい速さだ。
魔力は隠してもらっているから魔力無しでこのスピードとは、さすがドラゴンだな。
まずは目を慣れさせないと。
♢ ♢ ♢
(お腹空いた)
俺の体力が限界になると、キュウ、と鳴きながら俺の首元にうずくまった。
ご飯を食べたいのか寝たいのかどっちなんだ?
まぁ、今はご飯を用意できないし、寝ててもらおうかな。
そう思って頭を撫でてやると、気持ちよさそうに寝始めた。
だいたいこうすれば寝てくれるからありがたい。
と、思うと、また目を開き、近くの木々の間を睨みつけて魔力を漏れ出させた。
「ど、どうしたの?」
ただ事ではないと思い、俺もその方向を見てみるが、何も見えない。
(誰?)
「誰かそこにいるの?」
(危険な奴がいる)
「えーと、お話しできそう?」
(わからない)
ルゥが危険というならヤバいのだろうが、とりあえず話ができるかどうか確認する。
「えー、そこにいる君。俺たちは敵じゃないよ。襲ったりしないから出てきてほしい」
そういうと、木々の間の陰が動いた。
(まさか気づかれるとは。私よりも強い方がいるとは思いませんでした)
そう言いながら出てきたのは真っ黒な毛色に赤い目の猫だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます