コミュ障の俺は、人間以外の生き物すべてに好かれるようだ

メチル

第1話 転生してもコミュ障

 「ついに追い詰めたぞ、魔王」


 「ようやくこの時が来たな」


 「これが私たちの使命」


 「やっと倒せるわね」


 勇者御一行が俺に向かって何やら話している。

 とりあえず、話し合いで解決したい。


 「え、い、いや、俺は、その. . . . . .」


 「いくぞ皆! 最後の戦いだ」


 そうして勇者たちは俺に襲いかかってきた。

 俺の話を聞きもせずに。


 「ギャウッ」


 「くっ! なんて数の魔物だ」


 「魔王の能力だ。みんな他の奴にも気をつけろ」


 俺の仲間(魔物)がたくさん出てきて、勇者たちと戦ってくれる。

 俺はどうにかして勇者たちを説得できないか考えていた。

 すると、勇者の体が光を帯び始める。


 「っ! みんなあれはヤバい! いったん逃げて」


 そう言うと、全員直ちにその場から逃げていく。


 「ふっ、魔物どもは理解したようだな。俺の力をっ!」


 そんな台詞を吐きながら俺に切り込んできた。


 「あっ、ちょっ. . . . . .」


 「くらえっ」


――ギーン


 「なっ、俺の剣を止めただと?!」


 俺の首元から出てきた小さな黒いドラゴンが俺の喉元に迫った勇者の剣を咥えていた。


 「フェイ!」


 「なんだあれは. . . . . .」


 俺の呼び声にこたえて、炎を纏った不死鳥がすごい勢いで飛んできた。


 「いったん逃げよう。手伝って」


 その不死鳥は俺の隣に降り立つと、背中を低くして合図を送ってくる。


 「くそっ、俺の剣を離せっ」


 「ルゥ、離してあげて。一回逃げよう」


 「おわっ」


 ルゥと呼ぶ小さなドラゴンは、ペッと剣を吐き出すと、俺の首元にうずくまって見えなくなった。

 俺はフェイと呼ぶ不死鳥の背中に乗り、空へと舞いあがる。


 「おいっ、待て魔王!」


 勇者たちは追いかけようとした、すぐに見えなくなった。

 残された場所には、あれだけいた魔物は一匹の死体すらなく、勇者たちがポツンと佇んでいただけだった。



 ♢ ♢ ♢



 初めまして、皆さん。

 いきなりですが、俺はコミュ障です。

 コミュニケーション障害、つまり他の人と話すことが苦手なわけです。

 人と対面したらめっちゃ動揺して全く言葉が出てこないし、異性と話すときなんてもう、それはそれは相手が可哀そうで。 


 学校やら塾やらではほとんどしゃべらないどころか、先生とだって話したのは数えるぐらいしかない。

 家族とすらも会話することは少なく、家族も俺のコミュ障ぶりには辟易していた。

 普通なら孤独に感じるんだろうけど、俺はそこまで感じなかった。

 なぜなら、俺は人間以外とならば、よく心が通じ合ってるんじゃないかと思うぐらい話す?ことができたからだ。

 動物だけに限らず、昆虫や植物なんかとも戯れた。

 傍から見ればそれは、ただの生き物に話しかけるヤバい奴に見えるだろう。

 実際、何回か通りかかった人に悪口言われたし。

 でも、動物なんかは俺のことを理解してくれたように動いてくれたのだ。

 そして俺の理解者はあの子たちだけだった。


 そういうわけで、学校では帰宅部のエースであり、よく外に出かけて通りかかる人にも家族にもヤバい奴認定されていた。


 あの日も、いつもと同じように外を歩いて道路わきの生き物と話していたら、いきなり強い衝撃が襲った。

 痛みなど感じることもなく、目の前が真っ暗になったのだ。

 この時はまだ、自分に何が起こったかもわからなかった。

 ただ、さっき話していた子たち(昆虫)はどうなったのだろうか、と考えているだけだった。



 ♢ ♢ ♢



 しばらくして、俺は意識があることに気づいた。

 ついさっき起きたことを考えると、車かバイクなんかに轢かれたのだろう。

 なんとなく思い出してきたところで、目を開けてみる。

 そこに飛び込んできたのは、まったく知らない、おそらく外国人であろうきれいな女性の姿だった。



 誰だ? このきれいな人は。

 全く知らない人だし、俺がいる場所も良くわからない。


 「うぁ~」


 声を出してみようとしたが、声が出ない。

 いや、言葉が話せないことが分かった。

 というか、俺の手、ちっちゃ過ぎない?

 絶対これ、赤ちゃんの手だよ。

 ん? 待てよ。

 ということは、つまり、まとめると、これが総じて意味することを、言い換えて解釈するなら――


 俺は転生したってことだ。


 よっしゃ、やったぞ。

 こういう転生系はだいたい、主人公が無双したり、冒険をしたりしていろいろな出会いがあるはずだ。

 前世ではできなかった彼女とやらも、もしかしたらできるかもしれない。

 前世では生き物と遊んでる時間が生きがいと言ってもいいぐらいだった。

 今世ではきっと人間関係もなんとかなるだろう。

 これからの人生が楽しみだな。

 思いっきり楽しんでやるぞ!


 「あ~~!」



 ♢ ♢ ♢



 とまぁ、意気込んだのはいいものの、今の俺にできることなんてたかが知れてる。

 赤ん坊に何ができるんだって話だよ。

 とりあえずこの世界について知りたいんだけど、知らない言葉だし、俺自身がすぐに眠くなるからあんまり調べられていない。

 ベッドからも出られないしな。

 ただ、一つとんでもないことが分かった。

 それは魔力の存在だ。

 赤ん坊の俺でもわかるぐらい、この世界は魔力に溢れている。

 おそらくこれは、この世界に魔法が存在しているということだろう。

 よっしゃー!

 魔法が使えるなんてロマン過ぎる。

 俺も早く魔法が使えるようになりたい。


 そう思って、魔力を放出?してみた。

 前世でなら、こういうのは魔力を放出して魔法を使うものが一般的だったと思う。

 実際にやってみると、できたのはできたが、一瞬でなくなって終わった。

 そして強烈な疲労感と眠気が襲い、しばらく寝てしまったのだった。




────あとがき────


 読んでくださり、ありがとうございます。

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 また次回もよろしくお願いします。

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