雲蒸竜変〜英雄の厄介ファン、魔王〜

花迷ひつじ(か弱い)

第1話

 僕は憧れた。

 英雄と言われる存在に。


 どれだけ苦境にいようと。

 どれだけ絶望の淵に追いやられようと。

 彼らは決して諦めず、全ての盤面をひっくり返す。

 絶対的な希望。絶対的な正義。

 英雄彼らがいる。その事実で誰もが奮い立ち、誰もが光を見る。


 そんな存在。


 僕はそんな存在に憧れてはいるがなりたいとは思っていない。その耀きを間近で見たいのだ。


 だから僕はそんな彼らと戦おう。

 絶対的な悪として。


 絶対的な悪を倒す存在が現れたとしたら…それは絶対的な正義英雄と言える存在だと確信できるように。


 そのために僕は強くなろう。

 二度目のこの生で。





 僕は一度死んだ。


 なんてことはない世界のありふれた一コマとして、通り魔に後ろから刺されあっさりと死んだ。まぁそんなことはどうでも良い。

 大切なのはその後にこうして、第二の生を手に入れたという事実だ。


 今まではどこか農業で生活する外国に転生したものだと思っていたが…どうやらそうではないことが生後数週間で判明した。


 明らかに地球に存在しないだろ…というような生き物を父が狩ってきたのだ。そのときの父が腰に剣を提げていたことから、剣が一般的な世界であるのだろうと考えられた。

 が、産まれたての赤ん坊が鍛えるために何かをできるというわけでもなく、悶々とした生活を送っていた。



 それから少し経ち、今の僕は生後3ヶ月程だろうか。

 どうやって強くなろうと頭を悩まして寝るだけの日々を過ごしてきたがそれも今日で終わりだ。



 この世界には魔法があるらしい。

 今、僕の目の前で母が父の怪我をしている箇所に手を当て、淡い光が発生したと思ったら父の怪我が綺麗さっぱりなくなっていたのだ。

 これは紛れもなく魔法だろう。魔法でなかったとしてもそれに等しいことができることは間違えない。


 極める。何があろうとも魔法を極めよう。

 一度見たのだ。自分にできないはずがない。



 こんなにも興奮したのは初めてだ。

 今ならなんでもできる。何者にもなれる。

 そんな確信とともに…魔法の源を探すことにした。

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