第32話 帰国子女

「はい振り返り終わり〜。前向け〜」


 振り返りの時間が終わっても、僕は藤音のことが気になってちらちらと見てしまう。


「なに」

「いや……なんでもない」


 なんでもないけど!

 なんかある!

 僕の語彙力!

 仕事しろ!


「出席とってくぞ〜」


 順番に出席をとっていく先生。

 さっきよりも頻度を落として、藤音を観察する。

 僕は変態じゃない。これだけは誤解しないで欲しい。


「えっと……七星さん」

「はい」


 声のトーンから感情が読み取れない藤音。


「転入か?」

「はい」

「この時期に珍しいな……。了解……っと」


 クラス名簿が新しくなったのであろう。

「な」から始まる名字が最後に来ている違和感に、先生は気づいたらしい。


「授業始めるぞ〜」


 藤音も、事前に貰っていたのか、ノートと教科書を取り出す。

 何も無いような顔で授業を受けている藤音。

 やっぱり気になって仕方ない。

 もう一度言うが、僕は変態ではない。

 それからずっと、怪しまれない程度に、藤音を視線に捉えながら授業を受けた。


 ◇


 給食が終わって、もうすぐで昼休みに入りそうな時、僕は藤音に話しかけた。


「昼休み、また朝みたいになるの確定だけど、どうする?」

「…………」


 藤音は何も言わない。


「抜け出す? 無理にとは言わないけど」


 僕がそう言うと、藤音は黙って頷いた。


「そうしよっか」


 僕は、昼休みが始まってすぐに藤音と一緒に教室を出た。

 教室を出たら、すでにざわついている廊下。

 すると正面から椿がこちらに……。


「見つけたぞぉぉぉ!」


 突進してくる。

 …………?

 ……はぁ!?


 ドンガラガッシャーン!


「いっててて……」


 僕らが立っていた後ろの壁にぶつかった。

 痛い……。


「なんで突進してくるんだよ……」

「……目の前で止まろうと思ったけど、そこの段差につまずいて……」


 椿は廊下と廊下のつなぎ目にある銀色の小さな段差を指差す。


「まぁ、いいけど、気をつけろよ?

「はい……」


 僕らは立ち上がる。


「そうじゃなくて! メインメイン!」


 そういえば忘れてたけど、椿がこちらに突進してくる理由なんて、一つしか無いんだった。


「ふー! なんでここに居るんだよ!」


 思わず気圧されている藤音。


「あぁ、すまん。でも、ふーがどうしてここに……」

「……戻ってきた。それだけ」

「親の仕事の都合か?」

「うん。シドニーから」


 シドニーって、どこだっけ……。

 南半球の、大陸の……。

 たしかオーストラリアっていう国の……。


 …………?

 …………。

 …………?

 …………。

 …………?

 …………。

 …………?

 …………。


「「はぁ!? 帰国子女!?」」

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